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たらこの数を数えましょう


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記事:ハヤシアキコ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
遥かかなた数十年前、私が中学生だった頃の理科の授業で、
「鱈は一回の産卵で何個卵を産むのか?」
そんなテーマの授業があった。
 
たらこの一腹の卵の数を数えましょうという授業で、最初に重さを計り、たらこをクラス分に分け、さらに何gかに分け、その何gかに含まれる卵(というよりは粒)の数を数え、〇gの何倍が総卵数、そんなのだった気がする。
平均を出したのだっただろうか。そのあたりの記憶があいまいだが、なぜにこれが理科の授業なのだろうと不思議に思ったものだった。
ただ、本当にそれで総数が出るのかと疑問に思ったことは覚えている。卵の大きさはすべて同じなのか?卵の重さはすべて同じなのか?鱈が一回に産卵する数に個体差はないのか。授業中に手を挙げて質問をしたり、授業後に個別に先生に聞くにいくような度胸がなかった私は、結局その疑問を解決しないまま歳をとってしまった。
 
同じ頃、数学の先生が相撲の猫だましのように手を打ちながら、よくこう言っていた。
「数学はね、考え方の勉強!」
 
けれども私はこう思っていた。
「方程式を覚えたって、微分積分ができたって、代数幾何をやったって、この先の生活に役に立つ? 主婦になって大根買うのに必要?」
自分は平凡なサラリーマンと結婚して、専業主婦になると思っており、数学なんぞ主婦には必要がない、と思っていたのだ。
(誤解がないように言っておくが、専業主婦をやってみた結果、主婦ほど大変な仕事はないと今は思っている)
 
そんなわけで、高3の単位選択制だった数学系の授業はひとつも取らず、大学にも行かず、社会に出てみると、事あるごとに数学の先生の言葉とたらこの授業のことを思い出すようになった。
 
今勤めている会社で、屋外装置に取り付ける指サックを分厚くしたような防水用のゴムキャップを扱っていたのだが、こんなことがあった。
 
倉庫にそのゴムキャップを3万個、業者から搬入してもらった。
1袋50個入りが1箱に10袋入っていて、30個口(60箱を2箱ずつバンド留めして1個口)で納品されていたものを、毎週毎週プロジェクトチームから依頼があった数を出荷していき、データ上は残り2,322個になった。
ある時、棚卸を行ったところ、現物が2,146個しかなかった。
 
未開封3箱×500個=1,500個
バラ480個
出荷予定で梱包済み166個
現物との差分は176個
176個!
 
倉庫作業を任せている物流会社の担当営業が言うには、ゴム製で大量だから、出荷の際に2~3個が被さってしまっているものを1個として出してしまったこともあるかもしれないということだった。けれども、倉庫の作業をする人達は、入出庫作業のプロ。人間だからミスはあるだろうが、大きさからしても3個を1個と間違うとは思えない。2個を1個とカウントしてしまったとして、176÷2で88回も出荷ミスをするだろうか。
 
プロがそんな回数ミスをするわけがない!
 
となると、入庫の時にバラして数えてはいないから、個包装の中の数がそもそも違ったのではないだろうか。そう思い、計算をしてみたけれども、今ある箱を除いて、57箱も3個ずつくらい少なかったなんてことはあるだろうか。それとも50個入りの袋が3袋足りなくて、残りの26個が出荷ミスだったのか。
 
大手一流企業から仕入れているのに、50箱以上も数量違いや、3袋も不足で納入だなんて、そんなことってあるのだろうか?
 
だが、足りないものは足りないのだ。
しかたがないので、これとは別にプロジェクトマネージャが買っていたゴムキャップ約500個がオフィスにあったので、それも使わせてもらうことにして、自分の席に持ってきてみた。
 
こちらは100個1袋の梱包形態。開封してない袋が4袋、開けた形跡があるのが1袋。
もし、この開けてない4袋の入り数が100個に満たない場合、確率として、3万個の60箱の中にも数が合わないものがあったという仮定が出来る。
 
そう考えた私は、袋を開け、
「キャップが1個~、キャップが2個~、キャップが3個……」
と、お岩さんのように数え始めた。
 
結果、袋にはきっかり100個入っていたのである。
∴仮定不成立!
 
倉庫管理において、不足の原因がわからないということは滅多にない。あったとしても1個か2個の紛失で、大抵の場合はその紛失の原因も判明する。
 
私は頭を悩ませた。
だが、結局、悩んだところで、答えは出なかった。
そうして私は、答えを出せないモヤモヤと責任の所在がわからない気持ち悪さを抱えながらもプロジェクトマネージャに謝りを入れ、その差分の分を新たに仕入れてもらった。
 
私はたらこのことを考えていた。
実際のところ、一腹何個あったのだろうか。個体差はなかったのだろうか。
あの中学の授業の時に、自分が思った疑問を先生に聞いていたら、もしかして、この差分の答えがわかったのかもしれない。疑問は疑問のままにしておいてはいけないのだ。
 
算数も数学も、そして理科も、結局は考え方の勉強だったのだ。社会に出た後に役に立つのだ。
今、もし中学・高校時代の自分に会えるとすれば、
「生活するのに計算力と考える力は大事。未来の私のために、疑問を解消する努力はしておけ。そして私はサラリーマンとは結婚しなかったし、なんなら一度もサラリーマンとは付き合わなかったし、主婦にはならなかった」
と伝えよう。
 
そうだ、明日はたらこのおにぎりを食べよう。そして卵の数を数えるのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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