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メディアグランプリ

山登りはやっぱり人生だ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:樋口 紀子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ヨガが好きだった。
ゆったりと、静かに自分の限界に挑戦する感じがたまらない。
しかし、大型化しすぎてしまって、教室の鏡に映る私は、自分の足を必死で掴もうとするドラえもんでしかなかった。
哀しくて教室を去った。
 
だからといって、人生100年時代を迎えて、その半分で大型化に負けて運動することを諦めては、この先まもなく膝が痛いだの、腰が痛いだの言いだすことになるに決まっている。そうしてお医者さんに行っても、言われることは間違いなくひとつ。「痩せなさい」でしかないだろう。
 
さて、ドラえもん化したおばさんに、なんの運動ができるだろう。
水着は着る勇気がない、テニスやジムはきっと膝が悲鳴をあげる。
ご近所ウォーキングは、誰かに出会う度に挨拶から噂話を延々と聞く羽目になるではないか。
そうか! 近所でなければいいのだ! せっかくだったら、景色のいいところに行こう。マイナスイオン溢れる自然の中でウォーキングしよう。
我ながら楽しい案が浮かんで、ハイキングコースを調べてみた。なるほど、半日で十分楽しめそうなところが、近所にたくさんあるではないか。
さあ、次は靴と服だ。「まだ行かんのか? だからそんな体になるねん」という家族の心の声を聞きながら、ちょっとお高めの、軽い登山も大丈夫な靴を買った。
さて。誰と行こう? 家族を見回すと、ショッピングが趣味の夫は下を向き、スポーツ愛溢れる娘が話に乗ってくれた。
たった二人の「ハイキングウォーキング部」が結成された。
 
最初は、金剛山ハイキングにした。
毎朝登頂を日課にしているおじいさんがいる、とテレビでみたことがある。
おじいさんが毎日登れるくらいがちょうどいい……と思っていた。……甘かった。
さて登るぞ、と歩き始めたらすぐ、難攻不落で有名な千早城跡があったのだ。
山のまだ麓に、難攻不落の城……攻める気も失せるほどの急な登りから始まった。
 
さすがに6年間もバスケットボールで鍛えられた、たくましいふくらはぎを持つ23歳の娘は余裕で登っていく。登り始めて5分で私の息は上がってしまっている。
すっかり忘れていたが、娘に負けないたくましい私のふくらはぎには、きちんと機能する筋肉は、きっとほぼない。そして年齢の上に、さらに自重という大きな荷物も乗っかっているのだ。
自分のこれまでの自堕落を呪ったり、年のせいにしたりしながら、顔が真っ赤になるほど息を上げ、それでも千早城まではなんとか攻め入れた。
しかし、ここはまだ標高1125メートルの金剛山の、半分でしかないのだ。
 
気を取り直して、頂上を目指す。これまでに劣らぬ急な登りが続く。
私の息はまたすぐにあがるので、かなり休み休みになる。
休んで息が落ち着いた瞬間だけ、森のきれいな空気を感じることができた。
 
そんな私の横をすいすいと子供連れの家族、山ガールと呼ばれるお嬢さんたちが「こんにちは!」と笑顔で通り過ぎていく。「こ……こんにちはぁ」と私が返すころにはもう背中しか見えない。
そこへ、おじいさんがやってきた。さっきまでテレビで相撲でも見ていたような普段着で、さささっと登ってきて、さささっと通り過ぎていった。
きっと毎日登っているおじいさんの一人だ。なんと軽い足取りなんだ。
 
ヨガでドラえもんになっていた時と同じ哀しい思いが襲ってくる。
山に来たってドラえもんは、ドラえもんだ。嫌になってきた。
もう姿も見えなくなっている娘に、私はここで折り返すと連絡しようかと思った。
でも、娘も山ガールもおじいさんも先に行ってしまうけど、山は、頂上はどこにも行かない。いつまでも待ってくれているのだ。
これを諦めたら、この高い靴はどうするの!! 最後にはそんな主婦根性が私をつき動かしてくれた。
とうとう着いた山頂で食べるおにぎりの、なんと美味しいことか!
人はこの瞬間のために山に登るんじゃないか? と思えるほどだ。
 
登山を人生に例える人がよくいるが、ほんとにそうだと実感してきた。
頂上まで行くと自分で決めなければ、どこでも諦める言い訳ができてしまう。敵は自分の甘えた根性でしかない。どんなに不恰好でも行くしかない。
頂上の山小屋で知ったのだが、ここは、山伏さんが修業するための山らしい。
行きつく人生論も厳しいわけだ。
たくましいふくらはぎを持つ娘でさえ、数日筋肉痛で悶絶していた。
 
運動不足解消のためのハイキングウォーキング部で、最初に修業をしてしまったが、
やはり続けることが大事なので、2回目は犬鳴山の川沿いをのんびり歩く片道1時間ほどのコースにした。
 
着く前に、山の中のパン屋さんで美味しいパンを買い出しして、川の流れる音や木漏れ日を感じながら歩く。滝も所々にあり、マイナスイオンのせいか、心もすっきりさせてくれる。息が上がることもなく、娘と同じ速度であれこれ話しながら歩いて行ける。
足を川につけながら、瞑想をしたり、ピクニック気分で美味しいパンでランチをした。次回は、コーヒーを淹れる道具を用意しよう。ヨガマットも持って来ようかな? という気にもなってきていた。
 
修業の山でのおにぎりも素晴らしかったが、山登りが人生だったら、私はこっちのほうにしたい。
楽しいことがたくさんある人生のほうがいい。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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