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オリンピックへの入り口 〜アラサー男子のカーリング奮闘記〜


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:川口 公伸(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
先日、北京オリンピックに向けてのカーリング女子代表チームが決まった。
3試合先取で行われた代表決定戦は最終の5試合目までもつれ込んだ。
代表となった「ロコ・ソラーレ」は2連敗して、後がなくなったところから逆転してつかんだ切符だった。
しかし、まだオリンピックの出場が決まった訳ではない。
これから、北京五輪最終予選を勝ち抜かないとオリンピックに出ることができない。
平昌オリンピックで銅メダルを獲得したトップクラスのチームでさえ、オリンピックへの道のりは遠いのだろう。
 
僕もカーリングという競技で、そんな長い道の入り口に立ったことがあった。
 
それは、今から15年ほど前の話になる。
 
僕がカーリングという競技を知ったのは、長野オリンピックのときのこと。
トリノオリンピック以降にカーリングに興味を持った人は、女子の種目というイメージを持っている人も多いと思うが、僕が知ったきっかけは日本男子チームのニュースだった。
日本は予選を終え、4位だった。
そして同率で並んでいたアメリカと、決勝トーナメントの出場権をかけて試合をした。
しかし、日本は接戦の末に負けてしまう。
僕が覚えているのは、若い日本のスキップが泣いていた姿だった。
だから、実際に競技としてのカーリングを知るのはもっと後のことになる。
 
カーリングという競技は1チーム4人で行う。
4人がそれぞれ2個の石を相手チームと交互に反対側にあるハウスと呼ばれる円に向かって投げる。
それぞれのチームが8個の石を投げ終わった後、相手の石より中心側に自分のチームの石が何個あるかによって点数が決まる。
それを1エンドと言い、公式戦ではそれを10回繰り返して合計点で争う。
よく聞かれることなのだが、決して投げる人とブラシで氷を掃く人が分かれている訳でなく、基本的には4人全員が順番に石を投げる。
石を投げていないうちの別の二人が、ブラシで氷を掃くスィーパーという役割をする。
そして、スキップと呼ばれる人が、作戦を考えハウス側から指示をする。
スキップが石を投げるときに、代わりに指示を出す人をバイススキップと言う。
それぞれのポジションごとに適性が違い、それぞれに求められるショットも違ってくる。
また、チーム内でのいろいろな約束事があったり、コミュニケーションが必要となったりするため、うまい人が集まってチームを作ったからと言って、決して強いチームになるとは限らない。
 
僕が実際にカーリングという競技に関わることになったのは、長野オリンピックから4年以上経ってからのこと。
 
きっかけは当時、同じ職場にいた先輩に誘われて、カーリング体験ツアーに参加することになったところからだった。
そして実際にカーリングをやるのは、この時が初めてになる。
会場は長野オリンピックの際に練習場として使われていた、スカップ軽井沢という場所だった。
これも後になって知るのだが、一番初めの体験はかなり条件の良い状況の中で始められた。
カーリングは、半日体験をするとそれなりに試合をやることができるようになる。
もちろん、経験者が入って手伝ってもらうことは必要となるが、試合を楽しめる程度にはなる。
そしてその時に教えてくれた、長野県協会の人たちから、「みなさん筋が良いですね」などと言われて、すっかりその気になってしまった。
そして決め手になったのは、「オリンピックも夢ではないですよ」という一言だった。
こうして僕はカーリングをやることとなった。
しかし、始めてみると決して簡単ではなかった。
そもそも、どこで練習ができるのか?
道具はどうすれば良いのか?
 
僕の住んでいる神奈川県には幸いにして協会はあった。
しかし、普段の練習はスケートリンクになる。
営業時間外での早朝や夜間が練習時間となった。
スケートリンクでのカーリングは、専用シートでのカーリングとは別物だった。
そもそもスケートリンクは足元が滑りやすい。
今も、スケートリンクでやる時はかなり慎重になる。
更には、上手い下手に関わらず思ったところに石が行かない。
スケートやアイスホッケーと同じ場所を使っていることもあり、氷に傾斜があったり、凹凸があったりする。
石は傾斜に負けて同じ方向へ行く。
そんな中で始めたカーリングだったが、練習の際に、専用シートでの経験が豊富な人に教わることができた。
更に、高校時代の友達や弟と参加したため、仲間だけでチームを作ることもできた。
そうした環境の中で練習し、試合に参加していく。
道具も神奈川県協会の人が買う時に一緒に買ってもらうことができた。
そしてカーリングを始めて2年目シーズン、初めての神奈川県大会。
その年の県大会は、自分たちのチームではなく県協会の人たちとの混成チームで参加した。
その年は結局、勝ち抜けることはできなかった。
翌年は、「自分たちのチームで出たい」そう思った。
しかし、自分たちのチームで出た2回目の神奈川県大会も勝ち残れずに悔しい思いをした。
 
カーリングのシーズンは10月頃から始まって4月頃に終わる。
当時、1年通して練習できる環境はなかった。
そして始まった4年目のシーズン。
僕たちにとって追い風が吹いた。
神奈川県協会の10周年の式典の時に、ある人から誘われた。
「山中湖に会員制のカーリングホールを作るからぜひきてほしい」
それまでほとんど話したことのなかった人だった。
それでも、僕たちは山中湖へ通うことにした。
僕たちを誘ってくれた人は山中湖のカーリングホールのオーナーで、練習に行くたびに色々なことを教えてくれた。
「今年はどんな戦術で行くの?」
「テイクができるようになりたいです」
「それだったら、みんなのテイクのスピードを合わせると良いよ」
そんな感じでたくさんのアドバイスをもらった。
そして、いよいよ僕たちのチームでの2度目の神奈川県大会。
場所は初めてカーリングをやった場所でもあるスカップ軽井沢。
予選リーグは決して上手くいったとは言えないが、どうにか決勝トーナメントに進むことができた。
それでも結果は3位。
当時の関東中部大会へ進めるのは神奈川では2チームのみだった。
僕たちは、各協会の次点のチームが集まる敗者復活戦とも言えるワイルドカードの争奪戦へと進むこととなった。
前年度までのワイルドカードは4チーム中の3チームが勝ち抜けられて、行けば大丈夫だと言われた。
しかし、その年から状況が変わった。
登録の協会数が増えたことにより、ワイルドカードの数が減った。
結果的に、5チーム中の2チームが関東中部大会へ進めることとなった。
しかもその中には、メンバーこそ変わるが、のちに平昌オリンピックの日本代表チームとなる「SC軽井沢」も含まれていた。
そういった状況から、4チーム中の1チームが関東中部大会へ進めることと言っても良いだろう。
実際に、「SC軽井沢」は危なげなく勝ち抜いた。
残りの1枠を確保するためには、ほかのチームには負けられない。
しかし、僕たちは初日に東京のチームに負けた。
2日目の1試合を残して、僕たちのチームは敗退が決まったと思っていた。
だから、その日は宿へ戻ると日本酒を飲んで寝てしまった。
2日目も1試合しかないため、朝もゆっくりと会場へ行くと奇跡が起き始めていた。
東京が群馬に負けた。
東京のチームはくじ引きの結果初日の試合が少なかった。
その分2日目の試合が多かった。
リーグ戦の結果3チームが同率となり、順位決定戦を行うこととなった。
この時も僕たちはついていた。
順位決定戦の3チームの中で、シードになった。
あと一つ勝てば関東中部大会へ行ける。
そんな状況だった。
結局、僕たちは東京のチームと出場権をかけて試合をすることとなった。
前日に負けているだけにあまり良い印象はない。
しかし、試合が始まってみると僕たちは優位に試合を進めることができた。
その年の僕たちのチームは、あまり石をためずに弾き出していく作戦を中心に試合を進めていた。
この時もそうだった。
作戦が当たった前半で3点リードした。
そこで浮き足立った。
カーリングの試合は、1試合のエンド数が決まっているが、それとともに、制限時間が設けられている。
この時は、6エンド・90分で試合が行われていた。
僕は試合時間を一時間勘違いした。
「このエンドを逃げ切れば時間切れで終わる。
そうすれば勝てる」
そう思い込んだ。
冷静になってみればおかしな間違いなのだが、前日に途絶えたはずの道が再び開け、しかもかなり有利な状況になっている。
全く冷静ではなかった。
そして、間違いに気づいた時はかなり焦った。
そればかりが原因ではないだろうが、次第に形勢は悪くなった。
相手の石を弾き出していく作戦は、ミスをすれば相手の石ばかりが残り大量失点の恐れもある。
しかも、うまくいっても大量得点にはつながりにくい。
その結果、追いつかれて逆転された。
1点ビハインドで迎えた最終エンド。
試合は進み、2点とって逆転できることは望めない。
それどころか、相手のチームの方が優位に進めていた。
ここで1点取れなければ負ける。
僕たちのチームの最期の1投。
このままでは、相手のチームに点が入って負ける状況。
それでも、その時1点取れる道が見えていた。
ハウスの前には石が固まっていて、直接ハウスの中心に石を置くことは出来ない。
それでも、ハウスの左斜め前にある石を押し込めば1点とることができる。
しかし、投げた石の強さも、押し込む石に当てる角度もずれてしまえばその段階で終わりとなる。
最期の1投を投げる僕は思った。
「これ外したら何言われるか分からないな」
そして、スイパーの2人に声をかける。
「お願いします」
僕の投げた石はラインに乗っていた。
狙った方向へと進んでいく。
あとは強さだけだ。
スイパーの2人は石を見守っている。
ちょっと強いかもしれない。
それでも、僕が投げた石は狙った角度で自分の石に当たる。
「イエス」
掃いてくれ。
ハウス側で指示を出していたバイススキップに声をかける。
バイススキップがスイープを始める。
僕たちにチームの石がハウスの中心へ向かって行く。
「ウオー」
掃くのをやめてくれ
そう叫んだ。
僕たちのチームの石は相手のチームの石より中心に近い位置で止まった。
僕たちは土壇場で追いついた。
そして、延長戦へ入って行く。
僕達は先攻だ。
決して有利とは言えない。
延長戦は、相手のチームが石を貯め、2点以上入るような状況を作ろうとするが、僕たちにチームもどうにか踏みとどまる。
そして、お互いのチームが最後の1投ずつを残すのみとなった。
幸いにして、僕たちにチームの石が円の中心に一番近いところに残っている。
しかし、その石を弾き出されてしまえば、相手に2点以上得点が入る
僕たちにチームが勝つためには、どうにかしてその石を残さなければならない。
僕たちは得点につながる石を弾き出されないように、ハウスの前に石を置き弾き出されにくくするしかない。
そして僕達のチームの最期の1投。
そのころの、自分としては良い1投だった。
今思うともう少し違った場所もあったのかも知れない。
それでも先攻の僕達はもう待つことしかできない。
相手の最後の1投が僕達のチームの石を弾き出してしまえばその時点で負けが決まる。
そして、相手の最後の1投。
狙いは僕達のチームの石を弾きに行くこと。
相手の石が投げられた。
少しずつ近づいてくる。
狙ったラインから少しずれているように見える。
そして、相手の石は僕たちの石をはじき出せなかった。
 
この瞬間に僕たちは勝った。
 
関東中部大会は、日本選手権、世界選手権へと続く大切な試合だと言われた。
世界選手権で結果を残せばオリンピックにも出場できる。
関東中部大会で僕たちは1勝も出来なかった。
ただ、オリンピックへ続く長い道のりの入り口には立てたのだろう。
 
トリノオリンピック以降、女子チームの活躍があり、カーリングをとりまく環境は少しずつ変わった。
それでも、僕たちがカーリングを始めた頃のことを懐かしく思うこともある。
右も左も分からないまま始めたカーリングで、オリンピックを目指せるかも知れないと思えたことは幸せだったのであろう。
もちろん、当時からそんなことは夢のまた夢だった。
それでも、トリノオリンピックの際に、カナダ男子チームのラス・ハワードは50歳で金メダリストになっている。
だから、30代でのオリンピックは夢ではなかったと思いたい。
ある時期、僕たちはそんな思いを持っていたことがあった。
結果的に、ほんの入り口に足を踏み入れただけで終わったが、それは良い思い出になっている。
そして、本気になればまだまだできる事は沢山あると気づくことができた出来事だった。
あの日僕たちはオリンピックを目指した。
 
 
 
 
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2021-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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