”おほしさまケーキ”の彼は、今頃どうしているだろうか
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:レイ咖(ライティング・ゼミ日曜コース)
「お星さまのケーキもうないよね」いつも行くチェーン店のケーキ屋さん。母親とケースの前に立って、ケーキを選んでいると、決まってある男の子の話になる。
「あの子いまごろどうしてるだろうね」と母が言う。知り合いでもない、話したことすらもない。もう何十年も前に見かけたあの子のことを、私たち親子は今でも思い出している。
こんなにも、印象に残っているのは、今まで聞いたことのない「ありがとう」を彼が言ったからだ。
「ケーキ買いに行こう」甘党な私たち親子は、ケーキをよく買いに行く。
「いつのも所でいいよね」
「そうだね。そんな高いところじゃなくていいもん」
1個1000円もする高級ケーキは毎回食べられない。ちょっとしたおやつに食べるなら、お手頃なチェーンのケーキ屋さんでいい。
ケースの中には、ケーキがぎっしりと並んでいる。イチゴが乗ったショートケーキ。しっとりした表面のチーズケーキ。サクサクしているフルーツタルト。今日はどれにしようか。
「レイ咖ちゃんはどれがいい?」
「んー……。まあ私は、モンブランかな。お母さんは?」
「お母さんは、ミルクレープかなー」
2人で好きなものを選んで、半分こするのが習慣だ。1個より、2個。違う味を楽しみたい。お得なケーキを少しでも、楽しもうとする工夫だ。
会計をしようと、レジに進むと親子が入ってきた。お父さんと、5歳くらいの男の子。彼はお父さんの手をパッと離して、まっしぐらにケースに両手をついた。
「こら。ケースに触らないんだぞ」叱りながらも、お父さんの目じりは下がり、口調は穏やかだ。
「はーい」お父さんに言われた通り、彼はケースから手を離す。
お父さんと買いにくるなんて、めずらしい。お母さんとこどもというのはよく見かける。休日にこどもを連れ出しているなんて、面倒見がいい人なんだろうと思った。
「ねー。どれがいいかな?」
「好きなの選んでいいんだよ」お父さんは手を彼の頭の上に置いて、そっと撫でる。
ケースの前に立って、彼は端から端までじーっと見つめていた。
店内中に響き渡るほどの彼の声。うれしそうにしている姿が、かわいらしい。
「んー……。どうしようかな……」
しばらく悩んだ後、
「これがいい!」彼はケーキを指さした。
「ん? どれだ?」父親が聞く。
「これ! チョコの、おほしさまが乗ってるやつ」
え!? いいの? 私はこころの中で、彼に聞いてしまっていた。だって、そのケーキは、なんのトッピングもない、チョコのクリームだけ。それに、1番安い100円のケーキだ。もっと豪華なものを選んだらいいのに。と思った。
「いいよ。これにしよっか」と父親が彼の肩を抱いて、会計に進む。
彼は、支払いをする台に、手を着いて背伸びをする。ケーキが箱に入れられるのをじーっと見ていた。
「お待たせいたしました」と店員さんが、ケーキを父親に渡す。箱はすぐ、彼の手に移った。
両手でしっかりと受け取ると、
「わー! ありがとう! お父さん」満面のえがおを、父親に向けていた。
「どういたしまして」父親もうれしそうに、彼を見つめる。父親は彼の肩にそっと手を置きながら、店を出ていった。
親子を見送りながら、こんなにもきもちのこもった”ありがとう”を聞いたことがないと思った。あたたかいきもちになると同時に、私は、自分のことがとても恥ずかしくなってしまった。
大人になっていくと、経験が増えていく。300円のドリンクバーで、5時間も粘って、大満足していた短大時代。今では2000円のランチを食べられるようになった。
私だって、きっと100円ケーキがうれしい。と思った時期もあった。だけど、いろんな店を知っていく中で、すっかり、チェーン店のケーキの立ち位置は低くなった。ケーキを食べたいけど、値段を抑えたい。まあ、この店でいいか。と思うようになった。
お母さんに買ってもらっているのに、私はありがとうの一言も言っていない。ケーキが食べられることが、楽しみで仕方ないというきもちも、すっかりなくなってしまっていた。
大人になって、何でも分かる、知っているというのは、経験値を積んで成長してきた。ということだ。その分はじめて、という新鮮さや、感謝のきもちを感じる感度が低くなってしまう。彼の「ありがとう」は、私にいつまでも最初に感じたきもちを忘れないでいることの、大切さを教えてくれた。
今日は、久々にあのケーキ屋さんにお母さんと行こう。
どのケーキにしようか。ありがとうとワクワクを噛みしめながら、選んでみようと思った。
***
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