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メディアグランプリ

不登校児と海賊の歌と、昼食代


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:水野 敬(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
最近、ちょくちょくメディアに出てくる男の子。
少年革命家、ゆたぽん。「不登校の自由」という主張を掲げている。
 
僕の遠い記憶が、蘇る。
 
小学校1年生は、ほぼ不登校だった。
革命を起こす気持ちはなかったけれど、入学式の次の日から、学校へ行かなくなった。
 
理由は? というと、それは、僕があまりにも無知だったから。
今思い返しても、社会に適応でない未熟な自分が恥ずかしい。
 
入学初日、体育館での入学式を終えて教室に入ると、担任の先生からの挨拶。
まず、ここで違和感。
「え、休憩ないの? しかも担任って何? だれがいつ決めたの?」
 
僕の思いをよそに矢継ぎ早に話は続く。使う教材、時間割表、給食献立表の説明などなど。
また違和感。
「おいおい! やることも食べる物も毎日決まっているって。しかも、明日からだと……」
 
段々、腹立たしくなってきた。
勝手に決めている担任だけが原因じゃない。そう、周りの生徒達の反応だ。
 
先生、そんなこと知っていますよ! という大人な態度。お前ら……。
 
全部が全部、勝手に人に決められて、お前らそれで本当にいいのかっ!
僕は、心の中で叫んでいた。
 
自由のない生活が始まろうとしている。担任の話は、もう耳に入ってこなかった。
絶望感と苛立ちからか、徒歩30分もかかる初めての通学路を、どうやって帰宅したのか覚えていない。
 
ただ、帰宅して親と喧嘩をしたのは覚えている。
 
というのも、前日に親から聞かされていたのは、
明日から小学校に通うこと。新しい友達ができること。たったのこれだけ。
 
事前告知と現実が違うことに動揺し、話の整理ができない。その苛立ちや不安を爆発させているだけだった。まだ、親離れができていなかったのである。
 
親に何を言っても勝てるはずもなく、明日から毎日学校に行くように! と念押しされる。
よし、腹は決まった。とりあえず学校に行けばいいんだな!
 
翌日、学校に到着し下駄箱に靴を入れる。で、すぐに靴を取り出す! そして下校。
向かう先は、多摩川だ! 今日は、遊ぼう! うん。確かに僕は、学校に行った。
 
帰宅すると親が待ち構えていた。当然ながら、激しく詰められる。
今日授業を受けこなかっただろう? と。どうやら授業を受けないと学校に行ったことにはならない。らしい。なるほど、そう来たか。
 
よし、決めた! こんな理不尽な怒られ方をするのも、全ては小学校のせいだ。
明日、小学校で1番偉いと聞いている校長とやらに会って、直接対決だ! と意気込む。
 
翌日、教室へは向かわず、迷いながらも校長室へとたどり着く。
思い切り扉を開けて、中に入った。
大きな机に向かって座っている人がいる。少し驚いた様子で、
 
「ん? 授業は、どうしたの? 場所がわからなくなったのかな?」
 
声は、とても柔らかくて、よく響く。この人が、一番偉い校長だなと悟った。
 
校長に、洗いざらい全てを伝えた。
親から何も聞かされてないこと、全部決められていて納得がいかないこと。
そして学校が遠いこと。学校に間違いなく行ったのに、授業を受けないことで叱られたこと。
で、今日文句を言いにきたこと。
 
もう最後の部分は、筋違いもいいところ。
けれども校長は、うなずきながら、僕の意見に耳を傾けてくれた。
ひととおりの話が終わった後、提案を受けた。
「決められたことをしたくないなら、校長室に遊びに来るのは、どうかな?」
 
この人、話が早い! 流石、校長!
ここ数日間で一番の笑顔で、明日からここに来ます! と僕は答えた。
 
次の日から、校長室へ通う日々が始まった。
内容はと言うと、なぜ学校があるのかという成り立ちの話から始まり、学区制や学校内部の組織について。また、教育カリキュラムと教育の必要性を教わった。小学校を卒業したら大学院まで続くことも知ることになる。そして、試験という制度があることにも驚いた。
 
沢山の話の中で、一番印象に残ったのは、教育を受けたくても受けられない子供がいること。学校へ通うことができずに働かないと生きていけない子供達がいること。
その国の場所も地球儀を使って、丁寧に教えてくれた。
 
自分が恵まれている環境にいることを、初めて認識できた。
同時に、自分が沢山のことを学ばないと誰かの役には立てないことも知った。
 
夏休みが始まる少し前、校長先生から提案を受けた。
教えられることは、全部教えた。明日からは授業を受けてみてくれないか。ということだった。
 
校長先生に恩義を感じていたので、授業を受ける約束をした。
少し心残りなのは、給食ではなく、校長先生が毎日出前を頼んで昼食を一緒に過ごす時間が終わってしまうことだった。
 
翌日、入学式以来の教室へ。
担任の畠山先生とクラスの全員から拍手喝采を受けた。すごく嬉しいから、とっておきの曲をプレゼントしたい! と先生がアコースティックギターを出してきた。
 
「水野君、そして1組のみんな聞いてくれ!! 海賊の歌!!!」
 
海にでようぜー! 宝を求めてー、イエイ! という歌詞で激しいリズムの曲だったと記憶している。頭を振りながらノリノリでギターを弾いている先生の笑顔は、いまでも覚えている。
僕が登校することで、ストレスからの解放があったのだと思う。
 
それから、櫻井校長先生から最後の授業の日にいただいた色紙は、いまでも大切にしている。
「辿り来て、いまだ山麓」と達筆な文字で書いてある。
そう言えば、出前のお金は親が後で清算してくれていたのだろうか。
ひょっとして畠山先生の自腹? だから海賊の歌で宝を求めて―ってことだったのか?
次の同窓会で、先生に聞いてみよう。
 
 
 
 
***
 
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