失敗は宝の山かもしれない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:飯髙裕子(ライティング・ゼミ2月コース)
「あっ、忘れてきた!」
急に心臓がばくばくし、背中に冷や汗が流れるのを感じる。どうしよう……。
一瞬頭の中が真っ白になる。
その日の夕方、私は妹と共に、父のいる長野に同じ新幹線で向かう予定だった。
関西に住む私が、東日本の割引切符を購入するのは面倒なので、妹に早割の切符を購入してもらい、わざわざ送ってもらっていたのだ。
その切符は、自宅の今日持ってきていないポーチの中に入っていた。
どうしていつも持ってくるポーチを置いてきたんだろう。
気が付いたのは、京都に向かう電車が発車してしばらくたった時だった。
東京に行く新幹線も予約しているうえに、妹と待ち合わせる時間までに他の予定が入っていて引き返すことはできない。
「どうする?」そして、私の頭はフル回転し始めた。
とりあえず、妹に連絡して詳細を聞かなければ。
幸いすぐに、妹からメールの返信が来た。一緒に乗る新幹線の時間と座席はわかった。
東京に着いたらまずみどりの窓口に行かなければと次の行動を確認する
いつもなら、東京に行く新幹線の中はゆったりと本を読んだり景色を楽しんだり、転寝をしたりとのんびりとした時間を過ごしているのに、この時ばかりは生きた心地がしなかった。
せっかく買った切符が、無駄になってしまうかもしれない。
余計な考えが沸き起こるとますます不安になる。
早く東京に着かないかとやきもきしていた。
やっと東京に着くと私は一目散に長野新幹線のみどりの窓口に向かった。
係の人に事情を説明し、どうすればいいかを確認する。
きっと、こういうケースは多々あるのか、親切に対応してくれたことで少し気持ちが落ち着いた。
結局購入した値段では買えないけれど、後日忘れた切符を持っていけば、払い戻しをしてもらえるということが分かり、その日のチケットも違う席で購入したが、もともとの席は私が持っていて誰も来ないのでそこに座って構わないということだった。
やれやれと、私は胸をなでおろした。
「何とかなったじゃないの」と自分に言い聞かせる。
時々というよりおそらく結構な頻度で、こんなミスをやらかす。
そのたびに落ち込んでいたけれど、結局何とかなることが多いと気が付いた。
追い詰められて切羽詰まったときに、冷静に状況を見ることができたからなんだろうなと思う。
そうできるようになったのは、割と最近のような気がする。
若いころは、バタバタと慌てふためいてパニックにもなった。
感情が先に立つのは人間だから当然だし、間違いもゼロということはまずない。
けれど、その時起きていることは紛れもない事実であり、何をすればいいかを考える冷静さがあれば、方法は必ず見つかると、あるときわかったのだ。
失敗というと、失うこと、負けることというイメージだけれど、実は、得るもののほうが多いのかもしれないと最近思う。
経験したことのないことが起きるから驚いて焦ったりするけれど、一度経験したら、それはどうすればいいかがもうわかってしまうわけだし、同じミスはしないようになるから常に新しいことを経験して自分の中に積み重ねていく。
そんな風に考えると、失敗は宝の山かもしれないと思えてくる。
それぞれ宝の意味合いは違うけれども、形のないものはその人にしかわからない貴重なものであることも多いのではないだろうか。
それに、ミスをするときは何かしら自分の中できちんと整理できていない心のスキがあるのかもしれないということもわかった。
やるべきことが抜け落ちたり、集中できていなかったりと、ミスが起きる要因は、結局自分自身の中にあることが多いのだ。
それがわかってからは、失敗というよりも、アクシデントと、とらえるようになって何だかつかえていたものがすとんと落ちたような感じがした。
ひどくならないうちに対処する方法を見つければ、被害も少なくてすむし、何より失敗したという挫折感がなくドキドキする経験をしたという高揚感のほうが強くなっている自分を発見できたことに驚いた。
年を重ねるにつれて、ミスが多くなっていることも確かではあるが、それを乗り切る力は、確実に強くなっていることも同じように確かなことなのである。
そうはいっても、頻繁にこんなことが起きていたらさすがに疲労困憊だ。
「用意は周到に、そして行動は慎重かつ大胆に」
座右の銘にすべきかもしれないと、思わず一人でニヤニヤしてしまった私だった。
***
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