メディアグランプリ

大きな灯台の存在


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉良健一(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
3月31日、父親が54年間に渡る継続勤務を終えた。
市役所で42年、その後2箇所の職場を順に勤め上げた。
 
54年、半世紀も父親は働いたのだ。
高校を出て、大学の夜間部に通いながら市役所勤めを開始する。市役所という職場は、驚くことに定期的に転勤があるのだ。父親も10箇所近く、職場が変わっている。3~5年すると職場が変わっているのだ。職場が勤務地も本庁であったり、区役所であったり、様々な場所に変わっている。
子どもだった自分にはわからなかったが、短期間で職場が変わることは大変だと思う。せっかく上司・同僚・部下、取引のある社外の方と関係を構築しても次の職場に移ってしまうのだ。一般企業に勤務している私の感覚でいえば、3~5年で社員が変わっている状況は異常にも思う。
 
だからなのだろうか、私は父親に実に多くの経験の場を与えてもらった。毎年の家族旅行は同じ場所には行かず、異なる場所にばかり行く。週末や夏休みになると、近所の公園でのキャッチボール、バッティングセンター、山登り、プール、バーベキュー、図書館、祖母の家、とにかく外に出て色々な経験をさせてくれた。
 
ふと思い出したことがある。
1995年1月17日午前5時46分、中学生の私は強い下からの突き上げに目を覚ました。兵庫県南部地震が発生したのだ。神戸市須磨区の山の手に住んでいた。何が起きたのか分からず戸惑っていた。父は家族の無事を確認すると、当時の勤務先である神戸市役所庁舎を目指し、5時間以上の道のりを歩いて向かった。
中学生の私は、父がなぜそこまでするのか分かっていなかった。
 
1週間後、途中まで動いている地下鉄に乗って神戸市役所庁舎に母と向かった。泊まり込みで働いている父への差し入れの為だ。私が住む地区は幸いにも比較的被害の少なかった。食器が割れる程度の被害ですみ、水道、電気の回復が早かった。一方、海側のエリアは、火事の跡、がれきの山で、とても同じ神戸市だとは思えなかった。神戸市役所庁舎にたどり着くと、住まいを奪われた人々であふれている状況だった。父親に差し入れを渡したものの、「父はなんて状況で働いているのだろうか」と強く印象づけられた。後で聞いた話だが、倒壊している庁舎の中から必要書類を取りだしたと聞いた。
 
父がそこまでしたのはなんでだろうか。
27年が経ち、いま考えてみた……。
使命感だったのではないだろうか。父は市役所職員として、未曾有の大災害に立ち向かったのだ。
「俺がやらなければ、誰がやる」
そんな強い思いで働いていたのではないだろうか。
ことあるごとに神戸のことを語ってくれた父。私も神戸のことを知り、必然的に好きになっていった。
そのことを何度も語るからこそ好きになり使命感も生まれるのではないか。
 
もうひとつ思い出すことがある。
昨年、父は脊柱管狭窄症になってしまった。激しい腰の痛みにより、あの震災の時に5時間以上かけて出社するほど歩く父が歩けなくなったのだ。私はショックだった。父親が父親でなくなってしまうように思えた。コロナ禍ということもあり、見舞いにも行けなかった。電話での会話くらいしかできなかった。
3か月でようやく退院した父に会えた時、「退院できてよかった」と安心した。
その後、実家にいった際、内心がっかりしたことがある。
 
父はいつも自宅の机で新聞を読んだり、本を読んだりしていた。机の上にはいつも本とペンが置いてあった。私はその大きな机が大好きだった。小さい頃から、父の不在を狙ってその机に向かって父のまねごとをしていた。私にとって父の机は憧れだったのだ。その机がなくなっていた。正確には介護用ベッドを置くため、処分する話を母から聞いていたのだが、実際にないことを目の当たりにすると、もう机に向かう父が見られなくなることにがっかりしたのだ。
 
けれども、その介護用ベッドの側にある棚の上には、本とペンが置いてあった。父はそれでも机に向かう人なのだ。「父は父だな」と安心したのだ。私も不思議と机に向かうことが好きになっている。
 
父のことをあらためて考えてみた。
「誠実」
この言葉が、父にはとても似合う。
子供が誕生日の時には、レポート用紙をならべて、「健一くん、おたんじょうびおめでとう」と飾り付けを用意してくれる。結婚記念日には必ず母と食事に出かける。母の日には一人で暮らす祖母の元に向かう。昔の職場である区役所の地域の飲食店に定期的に行く。
 
父から何度も手紙をもらった。
手元に置いている手紙がある。
 
何度も言ったように、君の人生はスタートしています。
砂時計の砂は、どんどん、下にこぼれ落ちてきつつあります。
君の人生です。いかに生きるべきがよく考えて下さい。
 
浪人して、せっかく大学生になれたのに、ろくに大学に通わない私を静かに叱ってくれた手紙だ。
結局、大学は中退することになったが、時間の大事さを身に染みて実感した言葉だ。
 
父はこのように、灯台のように道しるべになってくれていたのだ。
穏やかな時も、嵐の時も、道を照らし続けてくれたのだ。
さて、私はそんな灯台に何が恩返しできるのだろうか。次の週末に父に会いに行こう。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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