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桜の季節に思うこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横井マリ(ライティング・ゼミ12月開講コース)
 
 
― 倒木の恐れがあるため撤去します ―
木の幹に貼られた1枚の紙に、そう書かれていた。倒れる危険があるということは、この桜の木は既に枯れていると判断されたということなのだろう。
 
昔読んだ話を思い出す。雪深い山の小屋、その囲炉裏端でまどろんでいた主人公は、ドーンという大きな音を耳にする。そして、それは山の奥で木が倒れた音なのだと聞く。
真っ白な原野に立つ黒々と古い桜の木。その木が倒れると、ウロは生き物たちが子どもを育てる住みかとなり、やがて朽ちて土に返り、わずかに生き残っていた根からは、あらたな芽も伸びてくる……。これが話を聞いた主人公の想像か、物語から受けたインスピレーションなのか、もう分からないくらい遠い記憶として残っている。
 
例年咲き誇ってきたこの桜並木が、この物語の古木のように、突然ドーンと倒れてしまうことがあるのだろうか? なくなる日があるというのだろうか?
にわかに信じがたかったが、数週間後、予告通りに桜並木は消滅した。残された数本も大きく枝を切られている。
 
多くの生き物がそうであるように、命には限りがある。この桜並木のように終わりを他者に決められてしまわなくとも、例えば、寒い冬は乗り切れても夏は迎えられない、あるいは、暑い夏は乗り切れても冬は越せないということが、自然界には多くある。それは、私たちが働いている介護の世界でも。
今年、私の働く施設では、大正生まれの方数名が温かくなり始めた頃を境に体調を崩し、内1名が桜の開花を前にして虹の橋を渡って逝った。
 
Y様は、デイサービスが大嫌いだった。お迎えに行くと家族に促されて渋々出くるものの、手や杖で送迎車をバンバン叩いて不本意であるという意思をはっきり表明してくれていた。
気難しい方でもあったから、たまに金歯をのぞかせて笑ってくれるのが、レアキャラの登場のようで実に嬉しかった。また、Y様の工作を手伝ったりすると、その完成を見て、
「見事、見事」
とほめてくれた。
その言葉を引き出そうと、何かと世話を焼いたこともある。これもまた、なかなか簡単にはいただけないお言葉ではあったけど。
 
Y様とのお別れは突然だった。ご自宅で酷い下痢をして動けなくなったと連絡をいただいた。その後、数日点滴で命をつないでいたが、自宅でのお世話が難しくなり、いざ入院するとなった当日、病院の受付で必要な書類を何枚か書いていた時に亡くなったのだという。
 
「あと1枚書いたら入院って時に、娘が、『ママ、おばあちゃんが息してない!』って。そんなに家が良かったのねって思いました」
お嫁さんの言葉に、私も大きくうなずいた。Y様は、家に居たかったのだろう。どんなに体が辛くても、どんなに暮らしが不自由になっても。住み慣れた我が家に居たい。
御年99歳。その一生を終える寸前までご家族に支えられてではあるが自宅生活を続け、入院を拒否するかのように窓口で亡くなるなんて。なんてすごい生き様なんだろうと思う。
 
同時に、大きな宿題を突き付けられた気がした。
お前は、しっかり己をつらぬいて生きているのか? と。
 
可能性が無限に広がっていた若い頃とは違い、四半世紀生きてくると、目に見える範囲、手に届く範囲でしか未来を選択できなくなる。いや、選択しようとしなくなる。
仕事から帰り、食事を作り、洗濯や掃除をし、力尽きて眠るだけで精一杯のような気持になる。ただ日々を重ねていくだけの自分は物足りない。かといって、何か立派なことがやれるわけでも。ああ、生きるのってしんどい。
そんな時に始めたのが、ライティング・ゼミだった。
 
課題を書き進めるために、ネタはないかと身の回りの出来事を注視するようになった。スーパーで、これを買ってどう調理しようかと野菜や肉を手にする時のように、あれやこれや吟味している感じだ。これが実に面白いのである。
面白半分で無料のオンラインセミナーも受講してみた。そこで、ある言葉をキャッチする。
「壊れた時がスタートの時なんですよ」
道に迷う時、自分自身に混乱がある時は、自分が正しいと思った道に向かって人生を変えていくチャンスなのだという。
学生みたいに真剣にメモを取っている自分に、アオハルみたいで恥ずかしいと苦笑する。
 
職場近くの桜の木。ゴツゴツトした表皮にはコケが着き、立ち枯れしているかのようにも見える。しかし、すっぱり切られた幹からは新しい枝が伸び、いくつか花をつけていた。来年も、そのまた来年も、命のある限り、花を咲かせようと枝葉を伸ばしていくのだろう。
 
桜には桜の、人には人の生き方がある。それぞれの“生”に敬意を表したい。
 
私もまた、真っ白な原野に立つ古木のように、すっくと立ちたいと思う。いつか倒れる時が来たら、その軌跡からは新しい芽が伸びて、誰かの道しるべとなれるように。
「見事、見事」
いつかY様に褒めていただけるように。
 
 
 
 
***
 
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