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ちゃれんじタッチに残された証拠


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミNEO)
 
 
春休み終了間際の4月5日17時48分、リビングにて事件が発生した。
目の前のソファで、年長の次男が、兄を相手に激怒している。怒りレベルは本日の最高点に達し、口から吐き出される絶叫は、あたりを焼き尽くしそうな勢いである。戦いごっこが本気の喧嘩に発展するパターンは、もはや無視することに決めているが、今回はついさっきまで二人仲良くタブレットを触っていたのではなかったか。それがなぜ、喧嘩に発展するのだ。
 
仕方なくソファまで近寄って、怒り狂う怪獣の言い分を聞いてみることにした。すると、
「お兄ちゃんが、勝手に写真を撮った!」
という。どうやら喧嘩の原因は、さっきまで仲良く遊んでいたタブレット「ちゃれんじタッチ」にあるようだった。年長になり、次男は通信教育のこどもチャレンジで、タブレット学習を始めることにした。小学生の兄がやっているのに憧れて、自分もやりたい! と言い出したのである。初めのうちは、小学生から始めれば十分と断っていたのだけれど、例によって頻繁に届くDMに心動かされ、つい申し込んでしまったのだ。
 
念願のマイ・タブレットの効果は絶大で、5歳児が毎日コツコツ学習している。朝の準備で余った5分、お風呂の水が溜まるまでの5分、ありとあらゆる隙間時間にタブレット学習を進めている。あまりのスムーズな習慣化に、自分の心が何故か深くえぐられる程である。その、彼の高いモチベーションを維持しているのが「写真」なのだ。
 
年長さん向けの「ちゃれんじタッチ」にはノルマがある。1日3レッスン、ひらがなや数のお勉強などをすると音楽が流れて、「すばらしい!」とキャラクターが褒めてくれる。そして、最後に1枚パシャリと「今日のできた写真」というのが撮れるのである。それを、次男はとてつもなく楽しみにしている。いつも、画面に向かって「あぁ、違う。失敗!」「うん、よし。これでOK!」などと言いながら、タッチペンを高らかに鳴らし、渾身の1枚を保存している。学習の記録とその写真は保護者のメールに届くようになっているので、私のスマホには毎日、次男の無表情な証明写真が届けられている。そう、なぜか、無表情なのだ。キメ顔のつもりなのか、タイミングが悪いのか、あれだけこだわって撮っていた割に、二重顎の仏頂面が並んでいる。本人はご満悦なので、あえて突っ込まないようにしている。
 
兄は、弟があんまり楽しそうにチャレンジをやっているのが、不思議でならなかったらしい。もちろん、生意気な小学生のチャレンジには、「今日のできた写真」などという機能はない。だから弟がトイレに行った隙を狙って、こっそり撮影したらしかった。残念なことに、この「今日のできた写真」は、保存すると撮り直しができない。つまり、弟は3月25日から始めて約2週間、毎日の楽しみにしていたイベントを兄に奪われてしまったのである。
 
そりゃぁ怒りますって……、お兄さん……。
 
いや、しかし。兄は撮り直しが出来ないことを知らなかった。弟のタブレットをこっそり借りたのはいけないが、「iPadで自撮りしてみた」くらいの気分であったことは間違いない。悪気はなかったのだろう。そこに多少、情状酌量の余地があるか……。
 
そう、判決を下そうかと思っていたところ、携帯にメールの通知が届いた。「ちゃれんじタッチ」から、例の学習報告メールである。今日は、そこには弟ではなく、犯人の顔が写っているはずである。一体どんな写真を撮ったのか、念のため確認しておこうか。
 
ほう。
なるほど?
これは、完全にクロだな……!
 
そこには、「うひひ」と声が聞こえてきそうな様子で画面を覗き込む、兄の楽しそうな顔が写っていた。決定的証拠。有罪確定。
 
「人の楽しみを奪うとは何事ですか! 知らなかった、そんなつもりは無かったでは済まされません!」
 
この後、兄が正座でくどくど怒られた事は言うまでもない。兄にとっては、たった1枚の写真でも、弟にとっては今日までの十何枚分の重みがあるのである。今回ばかりは喧嘩両成敗とするわけにはいかない。きっちり反省してもらわねば。説明するうちに、始めは不貞腐れていた兄も、ようやく自分のやらかした事の大きさがわかったようで、弟の怒りを理解したようだった。少し言い過ぎたかとも思ったが、「そんなつもりはなかった」で全て済む訳ではないと、伝えておきたい気持ちもあった。仲裁役も楽ではない。
 
4月17日。
事件から2週間ほど経ったが、今日も次男はコツコツ「ちゃれんじタッチ」をしている。もう兄に邪魔される事はない。いつものようにメールが届き、写真を確認した。そして、ホッと胸を撫でおろす。
 
たくさん並んだ無表情の行列に、兄弟で画面を分け合い、にっこりこちらに微笑む写真が加わっていたのだった。
 
 
 
 
***
 
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