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クラシック音楽との出会いは、パクチーだ。


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記事:森本裕子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
クラシック音楽は好きですか?
聴いていると眠くなる、なんて反応が多いですよね。今日はそんな方に読んでもらえたら、クラシック音楽の魅力の一面を感じていただけたらと思っております。
 
いきなりですが、
クラシック音楽との出会いは、香草のパクチーみたいだと私は思っています。
 
私自身、クラシック音楽との出会いは、強烈でした。中学の部活でオーケストラに入部し、部活の先輩達が新入生に向けて熱演してくれたのが、シューベルトの未完成、という交響曲。
曲の冒頭は、「えっ、はじまったの?」と思う位、低い音の楽器が聴こえるか聴こえない位の小さな音量で、まるで地鳴りのような不気味な音から始まりました。その後は弱々しくか細いメロディが続き、第一印象「暗っっっ!」以外の言葉が見つからない程、暗さが際立つ強烈な曲でした。
 
当時は小室哲哉サウンド全盛期、音楽はノリだ! みたいな時代の中、シューベルトの未完成は今まで一度も味わったことのない独特な香りがプンプンしてきて「苦手だな」と受け付けることができませんでした。さらに驚いたのは演奏している同世代の先輩達が、この暗い曲に身をまかせ、体を前後左右に揺らして堪能していたのです。「もの好きな人も、いるんだな……」
 
そんな第一印象からか、自分が演奏するなら人気のポップスソングか、有名な映画音楽がいいなーと密かに思っていました。
 
クラシック音楽に入り込めなかった出会いから程なくして、部活の定期演奏会に出るための練習が始まりました。曲はそうシューベルトの未完成……。苦手意識の塊だった私ですが、憧れのオーケストラの一員になれるんだ! と自分を奮い立たせ、担当する楽器のパートの楽譜をもらって独特な香りがする曲と向き合う事になりました。
 
何度も練習を重ねていると……
 
気付くとどうして苦手だと思ったのか思い出せなくなっていて、私はシューベルトの未完成に、完全にハマっていました。自分のパートはもちろん他の楽器のメロディまで覚えてしまい家でも口ずさむほど。家族は娘の鼻歌が急にクラシック音楽になり驚いたかもしれません。
今となっては私は未完成ファン。コンサートを聴きに行く時は間違いなく曲に身をまかせ、体を前後左右に揺らして堪能しています。(先輩達スミマセンでした)曲冒頭の低音楽器の静かな地鳴りみたいな不気味な音を聴くと、これから1本の映画が始まる様なワクワクを感じたり、弱々しくか細いメロディを聴くと繊細で美しいなと。不思議なものです。
 
最初は、独特で強烈な印象で苦手意識を持ったとしても、その魅力に気付くとハマってしまう。そして無性に欲してしまう。そんな所が、独特な味と香りが苦手な人も多い一方、一度ハマると山盛り食べたい愛好者もいるパクチーと共通する、クラシック音楽の魅力だと思っています。
 
もう1つ、パクチーみたいな出会いを体験をしたのは、バイオリニストのイヴリー・ギトリスさんのコンサートに行った時です。
 
イヴリー・ギトリスさんは、1922年生まれのイスラエル出身のバイオリニストです。私が初めて演奏を聴いた時ギトリスさんは91歳。世界最高齢の現役バイオリニストと言われていた巨匠です。
 
コンサートの舞台上に表れたギトリスさんはなかなかバイオリンを弾かず、伴奏のピアニストとおしゃべりを始めました。客席には聞こえない声でブツブツと割と長い時間おしゃべりを楽しんだ後、バイオリンを弾く姿勢とは思えないほど背中が曲がった状態で、ついに演奏を始めました。独特な行動に「巨匠ってやっぱり変わってるのねー」という第一印象でした。
 
クラシック音楽は、楽譜上の音符と記号の通りに正確に演奏するもの、というイメージを私は持っていたのですが、ギトリスさんは演奏も全てが独特でした。ものすごくゆっくり弾いていたかと思うと急にせわしなくなったり、時々きこえない程に音がかすれたり、明らかに長い間があったり。まるで聴く人を翻弄しているかの様で最初の違和感や衝撃は大きかったです。「なんだ、このおじいちゃんは……」
 
コンサートは数曲の演奏の後休憩に入り、後半になると、今度はギトリスさんのトークタイムが始まりました。私の周りの席に座っている人達は、待ってました! とばかりに前のめり。「ファンの人は一体何を聴きに来ているんだろう?」その後の演奏も特に曲を決めていない様で、1曲終わる毎にピアニストとブツブツおしゃべり。次の曲が決まったら、よっこらしょとバイオリンを首にはさむ。
 
気付くとそこはコンサート会場ではなく、まるでイヴリー・ギトリスさんの家に遊びに来た様な空間になっていました。
 
コンサートが終わる頃、私は早くもギトリスさんに興味津々でした。一体どんな人なのか、自宅に帰ってからもパンフレットを読みあさり、CDを購入しギトリスさんの唯一無二の演奏にハマっていき、毎年の来日コンサートを心待ちにしていました。
パクチーの様な強烈な出会いから2時間後には、既にハマり始めているという、とても印象的な体験でした。
残念ながら、イヴリー・ギトリスさんは2020年、98歳で亡くなられました。ギトリス節を生で聴く事はもうできないと思うと、楽しい時間が1つ欠けている様な気がします。謹んで哀悼の意を表します。
 
さてここまで、クラシック音楽との出会いは、パクチーだ。と言ってきました。
出会いが強烈だとしても、実はクラシック音楽は数百年前から現在まで、同じ曲を演奏したり聴いたりできる、時代に消費されない音楽です。300年前に生きていた人も、今の私と同じ曲を聴いて何かを感じていたんだ。そんな思いを巡らせながら楽しむのもまた一興です。
 
 
 
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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