幼稚園の送り迎えは、障害物競走である
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記事:久田 一彰(ライティング・ゼミ2月コース)
自分の幼稚園の頃を少し思い出して欲しい。送り迎えかバスに乗っているかどちらだったろうか?
私はバスに乗って通園していたが、詳しい記憶は全くと言っていいほどない。今から息子を幼稚園に車で送っていくのだが、この子の記憶にどのくらい残るだろうか。そんなことを思いながら、初めて息子を幼稚園に送っていく朝を迎えた。出掛けるまでのタイムリミットは2時間だ。
毎週月曜日はパパ版のワンオペの日である。朝起きてから幼稚園の送り迎えからおやつまでを私1人で行う。洗濯機のスイッチを押すのと、息子のおむつを変えるのを、ちょっと手伝ってもらったが、あとは全てワンオペだ。
息子の朝ごはんのメニューは決まっている。ヨーグルトとバナナとシリアルときなこを混ぜたもの。ほうれん草にオートミールを加えたもの。そしてミルクだ。
手際よくやるために、妻から教えてもらった手順を頭に浮かべながら作る。息子をベビーチェアーに座らせて、「いただきます」と手を合わせてからがスタートだ。
最初はバナナから食べるようで、「ば」と指を差す。どうやら息子は私と違って、好きなものは最初に食べる派らしい。
ぱくぱくあっという間に平らげ、オートミールへ手が伸びる。そこでスプーンを口に持っていき食べるのだが、すぐに手を口に突っ込み、オートミールを取り出すと勢いよく床に投げてしまった。プロ野球選手並みの豪速球じゃないか。
まあ、そんな事もあるよな、と思いながら2口目を食べさせると、何とか食べてくれたので安心していた。
しかし終盤にそれは起きた。
コップに入れたミルクを差し出すと、口に含むやすぐに消防ポンプ車の様に勢いよく吐き出し、私の左太ももから膝にかけて、ミルクまみれになってしまった。
「嘘でしょ? 吐き出すの? 時間があまりないんだけど」
床に撒き散らされたミルクをふき、ズボンを拭こうとティッシュを2枚とったところで、ティッシュが切れてしまった。
「マジで?」自分でツッコミを入れながら、次のティッシュを開ける。ちらっと時計を見ると、もう8時を回っており出発まであと1時間を切ってしまった。
「やばい、まだ洗濯物も干してない」ここからスピードを上げなくては、出発の時間に間に合わず幼稚園に遅刻してしまう。初めての送り迎えでそれだけは避けたい。当然のように準備するスピードを上げる。
しかし、こういう時に限ってマーフィーの法則というか、あるあるというか、急いでいる時にハプニングが起きてしまう。
食器を洗っている間に、姿が見えなくなる。
私がトイレに入っている間に、ビニルプールをひっくり返しボールを全部出してしまう。
外で洗濯物を干している間、突然大きな泣き声。
ソファーの下に頭が挟まって身動きが取れなくなっている。
幼稚園の服に着替えさせようとしたら、洋服を全部出してお気に入りのパトカーの服をだして泣くし。
水筒に麦茶を入れていると、和室の引き戸に首だけが挟まって泣いているし。
いや、もう! こっちが泣きたいぞ!
戸締まりで窓を閉めると、外の青い車が見たいと「あおーあおー」と駄々をこねる。
まるで先の見えない障害物競走をしている様だ。
次から次にランダムに現れる数々の試練だ。
自分の食事もそこそこに、片付けも後回しにしていよいよ出掛ける。
ふとそこに妻の書いたメモが目に入った。
「検温、記入。ネームプレート。保護者プレート。カラーぼうし」
そうだ、これをしなきゃならないのだと気付かせてくれた。
これは妻からの、目には見えない優しさじゃないかと思うのと同時に、ハッとした。
昨日の夜もそうだ。
「明日の用意した?」の一言。
幼稚園カバンに入れるもの。
上靴。
連絡帳。
給食用のナプキンとスプーン・フォークセット。
替えのオムツ3枚。
バンドのついたタオル。
前日に準備が9割出来ていたからこそ、朝はやることだけすればいいのだ。準備の大切さを教えてくれたのだ。
車の時計は9時3分。これで間に合うと思うと、ようやく息をつけた。車の中で、息子に話しかける余裕も出てきた。「ほら、パトカーだよ。信号は青だね。ショベルカーがあるよ。あ、西鉄バスだね」
そんなことを話し掛けているうちに、幼稚園に着いた。
元気に行ってきまーす! というシーンを想像していたのだが、行きたくないのか、うつむいたままツバを吐いている。門の中に入って先生の手に引かれながらも、うなだれている。このままだとお迎えも心配だ。
不安を残しながら幼稚園を後にして、一旦お昼を食べに行き、用事を済ませて再び幼稚園にお迎えに行く。ようやく最終コーナーを回った感じだ。
先生が手を引いてくれている園児達を見て、我が子を探す。
みんな同じに見えるが、多分あの靴を履いている子だ。
こちらにやってくる。
その瞬間、その子がにこっと笑った。
間違いない我が子だ。朝とは表情が全く違う。
ちくしょう、心配させやがって。素敵な笑顔じゃないか。
そんな顔を見せられたら、次から数々の障害物なんてへっちゃらだ。
こんな笑顔を見られるなら、いくらでも乗り越えてやる。
そしてついに、再開できた。自然と私も笑顔になる。
先生と門の前に来て帰りのご挨拶。
給食は完食したのか、お昼寝はできたのかと会話をして一日の様子を聞けた。
さあ、帰ろう、と手を握って車に乗り込む。
家路へのラスト直線コーナーだ。
帰りも軽快に話しかけながら、車を家に走らせる。
ほっとしたのか、何だか帰りのハンドルは、いつもより軽い気がした。
***
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