メディアグランプリ

スーパーのレジで言われるその一言が、私の恐怖を蘇らせる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(天狼院ライティング・ゼミNEO)
 
 
『聞くは一時の恥。聞かざるは一生の恥』
日本には、こんな諺がある。
 
40年程前、私はまさに、この諺通りの体験をした。そして、一生分の恥をかいた。それだけではない。正確には、恐怖に凍り付いた。
 
 
21歳、大学4年生の夏、私は初めて外国へ出掛けた。1980年のことだ。
降り立ったのはアメリカ合衆国のロサンゼルスだ。
 
学生の貧乏旅行だったので、まともなレスランで食事する費用等持ち合わせていなかった。第一、チップをどれだけ渡せばよいかも解らなかった。
そこで私は、LAの安宿から程近いスーパーへ買い物に出掛けた。当時日本では見ることが無かった、カートを押しながらの買い物も体験したかったからだ。
 
アメリカのスーパーは、日本のそれとは比べ様の無い大きさで、見ているだけでも楽しいものだった。
しかし私は、安いホテルに泊まっていたので、料理をする訳にはいかない。そこで、そのまま食べることが出来るサンドイッチやスイーツ、そして飲料を多めに買い求めた。何しろ大きなカートだったので(一種類しかない)明日以降にも持ち歩けるスナックも買い求めた。
最後には、総菜コーナーに在ったサラダとフライドチキン(これもアメリカンサイズ!)を、カートに乗せた。
 
 
大きなスーパーだったが、レジは3台しか開いておらず、会計の客は列を為していた。
10分程してからだろうか、やっと私に会計の番が回って来た。
私は前に居た客を真似て、カート内の商品を自分でレジ台に並べた。そして、レジに居た大柄な黒人女性店員に向かって、
「Halo」
と、挨拶した。
旅行に出る前に見たガイドブックに、『アメリカでは店員に必ず挨拶せよ』と書いて行ったからだ。その上、初めてアメリカのスーパーでの買い物に、緊張していた。
 
笑顔でレジを打ち始めた(バーコードが無い時代です)女性店員は、
「トータルで17ドル65セントです」
と、知らせてくれた。
私がジーンズのポケットを探っていると店員は、
「Paper or Plastic ?」
と、私に尋ねてきた。
言っている意味が掴めなかったが、語尾が上がっていたので疑問文なのは間違い無かった。しかも、聞き慣れた単語だったので、苦も無く聞き取れた。
ところが私は、“Paper”が何を“Plastic”が何を意味するのか見当が付かなかった。
「それはどういう意味ですか? (What do you mean?)」
と、片言でもいいから聞けばよかったのだが、初めての外国だったことも有り、私は日本人独特の笑顔で誤魔化してしまった。
こんなことで、対日感情を損なっても仕方が無いし不名誉なことだとも思っていた。
 
ところが彼女は、
「Paper or Plastic ?」
と、再び聞いてきた。今度は少し強めの語気だった。
私は緊張しながらも、頭をフル回転させ、紙とプラスチックは何を意味するのか考えた。
そして咄嗟に出て来た答が、紙とは紙幣・プラスチックとはクレジットカードではないかという想像でしかないものだった。アメリカ映画の1シーンで、買い物をする時、クレジットカードの用紙にサインをするのを覚えていたからだ。
当時、日本では未だクレジットカードを使用する習慣が一般的では無く、第一、学生だった私がクレジット審査を通ることが出来る訳も無かった。私が日本から持ち出したのは、少額の現金と当時外国旅行の必需品だった“トラベラーズチェック”という小切手だった。
トラベラーズチェックは、その都度サインをしなければならず、盗難に遭っても安心な小切手だった。しかも、現金と同じ様に御釣をもらうことも出来た。
私は、
「Travelers check‘s O.K?」
と、彼女に尋ねた。
「Sure!(勿論)」
と、彼女は笑顔になり答えてくれた。私は安堵した。
私が、額面20ドルのトラベラーズチェックにサインし始めると、彼女は再び、
「Paper or Plastic !?」
と、私に尋ねて来た。今度は完全に、怒りを含んだ声だった。
日本語にすると、
「オイ! この日本の若いの! どっちにするかハッキリせいや!!」
と、言った感じに聞こえた。語気からいって、多分間違いは無いだろう。表情も険しく怖かった。
私は、トラベラーズチェックが紙だったので、
「Paper please.」
と、自信無さ気に彼女に言ってみた。
彼女は、
「Thank you」
と言うと、憮然とした表情で茶色い紙袋を私のカートに乗せてきた。
 
私は買った商品を紙袋に詰めながら、後ろに並んでいた女性を見た。彼女は、
「Plastic please.」
と、言うと、レジの女性からビニールのレジ袋を受け取っていた。
私はやっと、
『そうか! “Paper or Plastic ?”というのは、紙袋にするのかビニール袋にするのか聞いていたのか!』
と、気が付いた。
遅過ぎる、気付きだったけど。
レジで私の後ろに並んでいた御婦人と、レジの女性の目線が痛かった。
 
私に、質問する勇気が無かったばかりに。
 
 
私は今でも時折、有料化に為ったレジ袋が必要かどうか聞かれるたびに、40年前の女性店員の声を思い出してしまうことがある。
そして一瞬、背筋が寒く為るのだ。
 
改めて諺は大切だと、痛感する次第だ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事