「家族でビーチヨガ」のすすめ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
「はーい、もう行くよ! 準備できた? 早く靴履いてよー!」
日曜日の朝、子どもたちの見ていたプリキュアがちょうど終わった頃声を掛ける。
「ねぇお母さん、今日はサンダルでもいい?」
4歳の長女に聞かれる。2歳の次女は裸足のまま玄関タイルで飛び跳ねている。
「そうだね、靴よりもサンダルの方がいいと思うよ! 砂がいっぱい入るからね」
「ねぇ、着替え持った? オムツは?」
自分の身支度を整えながら夫に聞いた。
「終わってるよ! もうみんな車乗せるからね」
着替え、帽子、日焼け止め、薄手の上着、よし完璧。水筒は準備が間に合わなかったので途中のコンビニで調達することに決めた。
行先は、海岸だ。
下道で1時間ほど車を走らせたところに、吉田海岸がある。(静岡県榛原郡吉田町)
我が家では、この吉田海岸で月に1度開かれる「ビーチヨガ」に参加するのが恒例行事となっている。
ビーチヨガとは、その名の通り、「ビーチ(砂浜)」にマットを敷いて「ヨガ」をするアクティビティである。
事の始まりは、ヨガインストラクターAさんとの出会いだった。
ヨガスタジオのオーナー兼インストラクターを務める彼女と、ふとしたきっかけで知り合いになったことで、初めてこのビーチヨガの存在を知った。
ビーチヨガと言えば、ハワイや沖縄など、リゾート地でやっているイメージだ。
独身時代に1年ほどヨガスタジオに通っていたこともあったが、それも何年も前のこと。
スタジオ内はヨガをする人が集まっている閉鎖空間だが、こんな海岸のオープンな場でヨガのポーズなんて、素人にはちょっと恥ずかしい。
しかも、ロケーション的は田舎の海岸だ。どうなんだろう?
いろいろと考えたが、逆にこんな田舎でやっているビーチヨガも珍しい。せっかくなので参加してみることにした。
しかし、休日に子どもたちを置いて私だけ海にいくのもしのびない。そうだ、私が参加している間、夫には砂浜で子供たちを見ていてもらおう。
「ねぇ、今度ビーチヨガに行こうかと思うんだけど、子どもたち見ていてくれない?」
「へぇ、ええやん。俺もやりたい」
俺もやりたいだって?
それじゃあ誰が子どもを見るのさ‥‥‥という言葉をぐっと飲み込んだ。やりたいと言われちゃ仕方がない。そういうわけで、家族総出で参加となった。
このビーチヨガは、地元のサーフショップが主宰し、毎年5月から11月にかけて月に1度開催されている。
ビーチ近くの公営駐車場に車を停める。日ごろからこの駐車場を利用していると思われる「常連サーファー」の車で駐車場はごった返していた。この状況には少し戸惑ったが、何とか隙間を見つけて車を停めた。
松林沿いに歩いていくと、お目当ての会場が見つかった。海まで数十メートルという近さだ。
参加者を見ると、サーフショップ主宰だけありサーファーと思しき人が多い。
特徴的だったのは男性比率の高さだ。その時は30人ほどが参加しており、その4割ほどが男性だったのだ。男性同士のグループで参加している人もいた。
また、年齢も10代から50代までいろいろな人が参加しているのを見て、事前に持っていたイメージとは大きく違ったことに驚いた。
参加者の半数近くがこのビーチヨガの常連のようで、知った顔を見つけて挨拶したり、それぞれに話し込んだり‥‥‥という光景が散見された。
正直なところ、今回は慣れない海岸で子供たちが何をしでかすか不安しかなかった。
過去の経験上、大人の用事に子ども連れで参加したら、その半分も楽しめないというのが常だ。遊具も無いし、結局私が遊ぶ羽目になるんだろうなぁ。
ところが、砂浜に到着した時の子供たちのはしゃぎようはすごかった。
どこまでも続く広大な「砂場」に興奮している様子だった。持ってきた砂場セットでせっせと砂を掘りだす。
穴掘りに飽きると、今度は参加者の間をウロチョロながら、貝殻や流木を集めて何やら作っている。
何もないと思っていた砂浜だが、子どもたちにとってみればどんなものでも遊び道具になってしまうようだ。
そうしているうちに、Aさんに促され、アクティビティが始まった
子どもを横目で確認しながらも、思ったほど邪魔されることもなく、比較的スムーズに進んでいることに意外さを感じた。
マットを敷いているとはいえ、砂の上に寝転がったのなんて何年ぶりだろうか。
柔らかい砂の感触や、じんわり温かい大地の温度、響いてくる波の音を聞き、風を感じるのは、それだけでも心地よいものだった。
日頃からヨガに慣れ親しんでいるわけではないので、さすがに大変なポーズが多かったが、
自然の雑音のお陰か、周囲を気にすることよりも自分自身に集中できる時間となった。
最後「屍のポーズ」というものがある。マットに大の字になり数分間目をつむる。
およそ1時間のレッスンで、自然を感じながら普段使わない筋肉を使い、凝り固まった体がほぐされ、心地よい疲労感を感じた。
屍のポーズが終わり、起き上がる。終わった後は体が軽く、とてもスッキリしていた。
これは隣で参加していた夫も全く同じ感想だったようだ。
「今日はありがとうございました!すごく良かったので、また来月も参加しますね」
Aさんにお礼を言って帰り支度をする。
ちょっと見ない間に子どもの顔はびっくりするほど砂だらけになっていた。
はたいても、はたいても落ち切らない砂の量に比例して、楽しかった様子がうかがえた。
子どもも大人も、それぞれが1か所で楽しめることってあまりない。我が家にとってはとても貴重なアクティビティとなり、ここから恒例行事化するのはごく自然な流れだった。
ただ一つ、後悔したのは翌日のこと。
「明日から3日間は大変だと思うけど、慣れると違いますから。またぜひ参加してくださいね~」
Aさんの予言は大当たり。全身筋肉痛の夫婦はロボットのようにぎこちない月曜日の朝を迎えたのだった。
***
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