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サプライズを仕掛けたら


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯塚 真由美(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
おずおずと相談すると、空港のチェックインカウンターにいた女性は「お任せください!」と自信たっぷりに答えた。
父の80歳の誕生日を記念する北海道旅行に家族で出かけた帰りのことだった。
 
節目の歳を記念する旅。最後に一発、父をびっくりさせて喜んでもらおうと私は帰りの機内でサプライズを仕掛けることを思いついた。
機内で突然、キャビンアテンダントにお誕生日をお祝いされたら、嬉しいんじゃないか。
面白そう、でもどうお願いしたらいいんだろう。
できれば一筆なにか書いて、記念に渡してほしい。でもそんなことを乗ってからお願いしにいくのでは時間が足りないと思った。
えーい、こうなったら事前に相談だ。
そう考える中で空港で最初に会った航空会社の人、それが空港のチェックインカウンターにいた地上職員だった。
 
こんなことお願いできるかわからないんですが協力してもらえないでしょうか、と機内のサプライズのことを切り出した。
こんなことできたら嬉しいなというプランを話す。この旅のために私は、「お祝いシート」と呼んでいた記念撮影の時に持つ紙を作っていた。HAPPY BIRTHDAY と 祝80歳 を書いたA4の紙だ。旅の間記念撮影をする時は、これを父に持ってもらっていた。
お祝いシートを見せながら、この紙を預けるのでキャビンアテンダントの方から一言お祝いメッセージを書いてもらって機内で父に渡していただけないでしょうか。そうお願いした。
 
余計な仕事を増やして申し訳ない気持ちだった。
意外なことに、即座に返ってきた答えが「お任せください!」だった。最後に「!」がついていたのがはっきり分かるくらい、迷いの無い見事な返事だった。
連絡を入れておきますので、お祝いシートは搭乗ゲートの係員にお渡しください、と案内された。私は、お手数をおかけしますと詫びつつも、カウンターの人がどこかワクワクしているような目をしていたことが嬉しかった。
 
搭乗ゲートに着いた。父がトイレに行っている間を見計らって、密かに例のお祝いシートを搭乗ゲートの人に渡しに行く。話は聞いておりますと笑顔で預かってくれた。
よろしくお願いします! とお辞儀した後、彼女も私も、いたずらっ子みたいにニヤリと笑いあった。
 
後は、おまかせだ。
どのタイミングでどんな風に、機内でこのお祝いシートが父に渡されるのだろう。
機内で私は通路側の席に座り、ずっとそわそわしていた。目はいつも、行き交うキャビンアテンダントの姿を追っていた。
父がウトウトし始めた時は、寝ないでくれー! と心底思った。忙しい中キャビンアテンダントがサプライズのお祝いに来てくれるのに、主役が寝てたら申し訳ないじゃないか。
でも父はそんな作戦が進行中なのは知るはずもなく、私の落ち着かない心の中とは裏腹に、楽しそうに窓の外を眺めたりしてとてもくつろいだ様子で過ごしていた。
 
飲み物のサービスが終わり、フライトも後半に入った。
ふいに、私達家族の席に2人のキャビンアテンダントが揃ってやってきた。
うわ、お願いが現実になるんだ。ドキドキした。私は見ているだけなのに心臓が口から出そうだ。
父は何が始まるのかとポカンとしていた。頭の周りに、はてなマークがいっぱいという感じだ。
 
キャビンアテンダントの2人は、お誕生日と聞いてお祝いに来ました、と父に告げた。
驚く父。
無理もない。何でそんなこと分かったんだ? と思っていたことだろう。
お祝いの言葉と共に、あのお祝いシートが2人から父に手渡された。旅の間、何度も見ていたあの紙がなぜここに? と父は驚いたに違いない。
しかも、お祝いシートにはそのフライトのクルー全員の名前と共に、お祝いメッセージやかわいいイラストが散りばめられていた。これには私にとってのサプライズだった。正直言って、このレベルまでは期待していなかったのだ。機内でもやることが一杯で忙しいだろうに、時間を割いてここまでやってくれるなんて。思いのこもったサービスが嬉しかった。
サプライズを仕掛けたはずなのに、自分がサプライズを仕掛けられた、そんな気分になった。
 
お祝いに来てくれたキャビンアテンダントの2人も、私達の席に近づいて来た時は搭乗ゲートの人みたいないたずらっ子の目をしていた。私の父をびっくりさせたい、という私と同じ思いが伝わってきた。
機内アナウンスやドリンクサービスの時の声のトーンとは違う、普段の感じで終始話してくれたのも嬉しかった。
 
お祝いシートに書かれた手書きのメッセージを父に読んで聞かせる。
私はだんだん涙声になってしまった。嬉しくて、こみ上げる涙を我慢するのが必死だった。
 
一緒にいただいたおもちゃの飛行機の翼には、日付や便名と共に、80歳を祝う「傘寿」の文字が書き添えられていた。機上のお祝いがとても嬉しかったのだろう、父はその後しばらく寝室にこの飛行機を飾っていたそうだ。
 
帰りの飛行機。後は帰るだけ、明日からは日常。父はそんな風に思ってちょっぴり寂しい気分になっていたかもしれない。
そんな旅の最後に「ビックリ」と「嬉しい」のサプライズを用意できて、私は心の中でガッツポーズだった。
協力してくださった航空会社の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。
お任せ下さい! に始まり、チームワークで作戦を大成功に導いてくれた。
サプライズを仕掛けたら、私のほうがむしろサプライズを受けた。主役と同じ位、私も嬉しかった。
 
いつかまた、機内で何かサプライズを仕掛けたい。
まずは、飛び立つ前に前もって相談してみよう。
関わってくださった方々が一瞬見せるいたずらっ子のような目を思い出し、私は思うのだった。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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