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野菜やのおじさんに、人はなぜ感動するかを教えられた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今村真緒(ライティング・ゼミNEO)
 
 
明日のイベントが、中止にならなければいいけれど。
インスタをチェックするが、雨天中止とは書いていない。今日随分降ったから、明日はカラッと晴れるかもしれない。希望的観測を胸にページを閉じる。せっかく行く気になっているのに出鼻を挫かれたくなかった。
 
次の朝目を覚ますと、外は曇天の空模様。しかし、9時を過ぎる頃から太陽が顔を出してきた。昨日の雨のせいか、庭に出るだけでムッとする湿気で汗ばんできた。私は、急いで身支度を済ませると買い物かごを車に積んだ。早く行かねば売り切れてしまうかもしれない。
 
私が向かった先は、あるギャラリーのイベントだ。たまに通りかかると、何やら駐車場でイベントが開催されていることがあった。「あれっ?」と思った瞬間には、車で通り過ぎてしまっていた。そんなことが数回重なって、何が行われているか気になった私は、そのギャラリーのことを調べてみた。すると、月に何回かイベントをやっているらしい。たまたま次の日曜日にも開催されることを知り、私は俄然興味が湧いた。
 
私は元々フリーマーケットだのマルシェだの、様々なものが集まるイベントが大好きだ。品物を眺めながら、出店者のお話を聞くのも楽しみの一つにしている。
ハンドメイドの品であればどうやって作ったのか気になるし、古い骨とう品であればその歴史を知りたくなる。作った人たちの顔が直に見られる貴重な機会でもあるし、何より品物がこの場に来るまでの物語を聞きたくなってしまうのだ。
 
今回のイベントでは、野菜、パン、お弁当の出店があるという。ギャラリーの中でも催し物があるようだ。インスタで見る新鮮そうな野菜に惹かれ、開始時刻の10時にはその場に到着しておかなければと思った。
 
ところが、私が到着したのは10時20分ごろだった。駐車場にはそんなに車がなく、今から本格的に混み始めるのかと思った私は、入口で検温と消毒を済ませてスタッフの女性に声を掛けた。感じの良いその女性は、丁寧にイベントの説明をしてくれた。今日は出店数が少ないけれど、定期的に開催していて他にも様々な出店があるらしい。
 
説明を聞いていると、何やら向こうのほうで男性の大きな声がしていた。振り向くと紺色のテントの下には野菜が積まれ、出店者がお客さんと話をしているようだ。まるで拡声器を使っているのではと思わせるほどの大声に、思わずスタッフの女性と顔を見合わせた。マスクの下でにっこりと笑った女性は、「どうぞ見ていかれてください。楽しいですよ」とテントの方向に手を差し出した。
 
圧倒的な声量にちょっとビビりながら近づくと、野菜やのおじさんが女性のお客さん相手に何やら野菜の説明をしているようだ。話を聞いているお客さんは、ずっと声を立てて笑っている。恰幅の良い体と真っ黒に焼けた顔や腕。迫力のあるおじさんの説明は、まるで市場のセリを聞いているようだった。きっぷのよい響きとリズム、ときおり自虐ネタを混ぜながら話す姿は一種のショーのようでもあった。
 
ふと、おじさんの視線が私のほうを向いた。私が茄子に手を伸ばしたからだろう。ギクッとして手をひっこめようとすると、おじさんはがなるように言った。
「それはね、焼き茄子にするとおいしいよ。今日は茄子を何種類か持ってきているけど、それぞれ美味しい食べ方がある。こっちのは麻婆茄子にすると絶品。この種類は煮浸しにすると最高!
ああ、さっき一番立派な茄子が売れちゃったんだよね」
そう言いながら茄子を品定めすると、私にその中の一本を手渡した。
「これ、絶対美味しいから」
バトンのように渡され、思わず私は受け取った。作った人が言うのなら、間違いないだろう。
 
そう言っている間に、私の後ろには数人のお客さんが並んでいた。どうやら、野菜の取り置きを予約していたお客さんのようだ。名前を書かれた大きな袋をおじさんは取ってきて、そのお客さんに渡す。
「あー、待たせてごめんね。○○さん、いつもありがとうね。お客さんと喋り過ぎて待たせちゃったから、おわびにトウモロコシ入れとくね」
豪快に笑うと、積まれていたトウモロコシから3本選んでお客さんの袋にねじ込んだ。そんな常連さんと思われるお客さんが数人続いた。
 
「もうあんまり種類がなくなってごめんね。トウモロコシは200本採ってきたんだけど、トマトもパプリカも朝一番に売れちゃったから」
200本あったはずのトウモロコシも、そんなに量は残っていなかった。何とイベント開始10分前には、すでに野菜やさんのテントに長蛇の列ができていたらしい。その後もトマトの話やトウモロコシの調理法、ズッキーニの種類ごとの食べ方など、知らなかった「なるほど」情報を面白おかしく語ってくれた。おじさんの語りはとにかく熱くて、求心力が凄まじい。気がつけば私は隣のお客さんと同じように声を出して笑い、いろいろと質問していた。蒸し暑い戸外で、おじさんも私たちも、汗びっしょりになりながらゲラゲラ笑っている姿はちょっとシュールだ。
 
おじさんの魔法にかかったのか、私は食べてみたい野菜が増えていた。教わった食べ方でぜひ試してみたいと思い、オススメの野菜をかごに入れた。お会計をすると、おじさんは「インスタやってる?」と尋ねた。お店でよくあるQRコードを登録するのかなと思ったら、おじさんは自分のインスタ画面を見せて、「僕は○○○○といいます」とフルネームを名乗ると次のお客さんの対応を始めた。
え? QRコードじゃないんだ。おじさんの名前かアカウント名を覚えておかなければと、しっかり記憶しようと慌てている自分がおかしかった。
 
家に戻って、インスタでおじさんのページを探した。投稿を見ると、おじさんの野菜に対する愛情や野菜作りへの情熱が表れていて、私はおじさんが手の甲まで真っ黒に日焼けしていたことを思い出した。魂を込めて作った野菜だから、きっと手渡すときに熱がほとばしるのだろう。そのエネルギーがお客さんに伝染し、おじさんの野菜を買ってしまいたくなるのだ。
 
夕方、再び野菜やさんのインスタを開くと「90分で完売しました」の文字が躍っていた。インスタをフォローすると、私は自然と笑顔になった。次回の出店には、せめて開始20分前に並ぼう。そしてまた、おじさんと野菜たちのストーリーを聞かせてもらおうと思う。
 
 
 
 
***
 
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