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言葉に色が見えるとはどういうこと?


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記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミNEO)
 
 
「共感覚」という言葉に初めて出会ったのは、息子が小学校を卒業しようとする頃だった。
「紺色の言葉は、心の中にある箱の中に、見えないようにしまってしまうんだ……」と意味が分からないことを話したことがきっかけだ。言葉に色が見えるなんて、そんなことがあるのだろうか? 頭が少しおかしくなってしまったのか? とネットで調べていくと、「共感覚」という言葉が存在することを、初めて知った。息子をずっと育てにくいと感じていたが、12年が経った頃、やっと分かり始めることとなる。
 
共感覚とは、一つの刺激によって、別な感覚が同時に働くことを言う。
文字を見ると、そこにはないはずの色が見えたり、音を聴いて、色が見えるといったように、個人差はあるようだが、色を感じることが多いようだ。昔は、10万人に1人などと言われていたが、実はそこまで珍しくもなく、クラスに一人くらいはいるのかもしれない、と言われていたりもする。
「黄色い声」と聞いて、誰もがどのような状況かをイメージできるのは、元々は多少なりとも人にそのような感覚があったのかもしれない。
 
息子には、「勇気」という言葉は、赤色に見えているようだ。文章を読んだ時には、様々な色のペンで線を引いたように、言葉に色がついて見えている。楽譜にも、色が見えたり、音を聴いて色を感じるという。
板書などで、自分が見えている色と違う色で文字を書かれたりすると、色が混ざってしまって気持ちが悪いそうだ。だから、息子は、決して自分からは、文字の上にペンで色を重ねたりはしない。
書かれた言葉に色が見えるように、人が発した言葉にも、色を感じるようだ。言葉が柔らかくても、心にもない言葉を発する人を見れば、その人の本心が色で分かるのだろう。息子があまり人を好きになれない理由は、そのあたりにあるのかもしれない。
「色なんて、見えないほうがいいよ。世の中は、暗い色の言葉のほうが多いからね……」
世の中を分かりきっているような寂しい発言を、小学6年の息子の口から聞いた時、息子が背負っていたものを理解できた気がした。
小学校には合う友達がおらず、学校は窮屈な箱の中だったが、唯一の救いは6年生の時の担任の先生だった。共感覚のある息子が、心を許せた先生だ。
「友達がいなくてもいい。先生と会うために学校に行くからいい」
いつも息子は話していた。
 
12月の冬休みに入った日のことだ。息子は、中学受験をしていたが、不合格になってしまった。思っていた以上に、ショックな気持ちが心を覆う。受かるような気がしていたからこそ、結果を受け入れることができなかった。そして、息子は、大好きな担任の先生に電話をかけた。先生に、結果をすぐに伝えると約束していたからだ。
 
電話口で息子が状況を伝えると、電話の向こうの先生が、話し始めた。
「僕もね、学生の頃、君のように合格できなかったことがあるんだよ……大学が不合格だった日、友人と発表を見に行ったんだ。自分の番号がない合格発表のボードを見ながら、また1年頑張るしかないか! と友人二人で誓って、そのままお互いに家に帰ったのだけどね。その数分後に、友人は交通事故にあってしまって、二度と頑張ることができなくなってしまった。あんなに元気に誓ったのにね。頑張ろう! と二人で話したばかりだったのにね……」
先生は、浪人生活の勉強の辛さなんて、友人を失った苦しみに比べたら、何でもなかったと言う。挫折の中で、友人の死を受け入れ、孤独に勉強をし続けた日々は、どんなに苦しかったことだろう? 先生は今でも、苦しい時には、いつも友人のことを思い出すそうだ。そして、生きられなかった友人を思うと、どんな苦しさでも味わうことに向き合えると言う。
先生は、自分の挫折の話をしながら、
「君はきっと大丈夫だよ。僕だって、こうやって友人の分まで頑張って生きてこられたのだから……」
と声をかけていたようだ。
息子は、受話器を持ちながら、その言葉を黙って聞いていた。下を向いて、涙をポロポロこぼしながら、何も語らずに聞いていた。よほど心に染みたのだろう。息子の目から、次から次へと溢れ出してくる涙がとても痛々しくて、見ているだけで心が痛んだ。
 
あとで息子に聞いたが、その時の先生の言葉の色は、「金色」だったそうだ。金色は、人生でも数えるくらいしか感じ取ることができない、最高の色だと言う。息子を思う温かな「心」が見える時、金色を感じるのだろう。金色に包まれた空気は、傷ついた心にどんなに光を与えてくれたことだろう。共感覚があるからこそ、見えない温かなものを敏感に捉えることができることもある。
 
「世の中は、暗い言葉のほうが多いからね……」
息子の言葉は今でも忘れられない。だが、誰もが備えているわけではないその感覚を否定せず、ポジティブに感じながら、息子らしく生きてほしい。きっと息子なら、温かな「色」が多い世界を見つけ出していけるはずだ。
 
 
 
 
***
 
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