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灼熱の東京を走り抜けて……


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤 みー作
 
 
その日はランニングの学校の休校日、だけど、ご学友のリーダーが「お絵描きランニング」を企画してくれた。
 
「お絵描きランニング」とはランニングウォッチのGPS機能を利用して、走ったコースを一筆書きでランニングアプリの地図上に絵を描くランニングである。
速さを競うのとは一味違った、ランニングの楽しみ方の一つである。
 
皇居の桜田門に8時30分にクラスの10名ほどが集合した。
既に気温は30度近く、よりによって、その日も夏日が予想されていた。
 
リーダーから「お絵描きランニング」に関する注意事項が説明された。
距離としては16km。
だけど、肝心のどんな絵が描かれるのかは教えてもらえなかった。
すべてはゴールしてからのお楽しみだと言う。
 
桜田門を出発して、東京駅方面へしばらくは皇居に沿って、みんなでワイワイ走る。
駅の近くになると、
「あ、間違えた! 一つ前の信号で、向かいの道路に渡らなきゃだったんだ!」
いきなりの路線変更。
「ちゃんとお絵描きできるのかな?」
不安を覚えつつ、みんな慌てて、ランニングウォッチの一時停止を押す。
 
軌道修正をして、ランニングウォッチを再びスタートさせてランニングを再開させる。
東京駅からしばらく日本橋方面へ線路沿いを走った。
コロナ前には飲みに行ったことがあった高架下のお店を横目に走り抜ける。
日本橋方面へ向かい、日本橋三越とその新館の間を走り抜け、まるでピンカーブを曲がるかのように日本銀行がある通りに入る。
 
「お絵描きランニング」のお楽しみの一つがこれだ。
普段だったら、ランニングコースとしては絶対に走らないような道を、お絵描きする為に、わざわざ走るのである。
だからこそ、いつもは見ない景色が見ることができる。
 
ピンカーブのような曲がり角を走りながら、自分たちが描いている絵を想像してみたりする。
「なんか、ちょっと、ウサギの耳っぽくない?」
「あ、もしかしたら、チベットスナギツネの耳じゃない?」
私達の学校の校長はチベットスナギツネに似ているので、そんな感じがしなくもない。
 
日本橋から神田方面へ向かった。
神田駅近くの繁華街を走り抜ける。
飲食店の送風口から吐き出される熱風は体感温度を40度に押し上げる。
 
またヘアピンのようなカーブを走り、今度は九段坂方面へ向かう。
クラスメートの一人が暑さにやられて遅れ始めた。
飯田橋手前のコンビニエンスストアで一休み。
コンビニエンスストアで買った500ml のアクエリアスの経口補水液が、一息もつかずにあっと言う間に自分の体に染み込むのに驚いた。
 
そして今度は神楽坂方面に走り始めた。
東京大神宮ではさすがに立ち止まり、二礼二拍手をして「今度こそ良縁を!」と祈った。
そのまま、有名私立学校が立ち並ぶ地域へ向かう。
予想外に結構色々な飲食店が立ち並んでいるのを横目で見ながら通り抜けると、突然、白砂の向こうに大村益次郎が立っていた。
靖国神社だった。
 
靖国神社と言えば、いつもは巨大な大鳥居から入っていたので、「ここはどこ?」と周りを見渡すまで、そこが靖国神社だとわからなかった。
 
靖国神社を横切り、永田町方面へ走る。
遠くに皇居お濠が見える。
「皇居が見えるんだったら、ゴールの桜田門までもう少し!案外、短かった!」
と安堵したのは束の間だった。
 
「これから赤坂方面に行くよ!」
リーダーのその一言に頭にはてなマークが飛び散った。
気温のせいもあるかもしれないが、もはや、何を描いているのか全く想像がつかない。
人なのか、動物なのか、それとも物なのか。
 
ランニングステーションのある東京FMを曲がり、麹町方面へ向かう。
プリンス通りという初めて聞いた通りを走りながら、リーダーが、
「ここ入って行くんだけど……」
と少し不安げに言った。
 
向かう先は鬱蒼とした森。
確かに、道はあるけど、入って行って良いのかどうか、いまいちわからない。
「関係者以外の車両の通行禁止」
「この先喫煙所はありません」
そんな立て看板はあるが、
「関係者以外立ち入り禁止」
の看板はない。
部外者を歓迎しているのか、いないのか……。
 
おそるおそる森の中に続く道を進むと、人が一人通れるかどうかの下り坂の階段が現れた。
みんなで一列になって進む。
すると、下からお巡りさんが上がってきた。
 
「ヤバイ! 怒られる!」
みんな緊張で身体をこわばらせる。
 
「いやー!暑いですね!水分補給忘れないでくださいね!」
お巡りさんは制服の帽子を少し上にずらしながら、愛嬌のある笑顔を振りまいて、すれ違っていった。
 
ほっと胸をなでおろし、階段を降りるとそこは紀尾井町だった。
「三宅坂だ! その先は皇居、やっと桜田門だ!」
なつかしい赤坂プリンスの話などしながらはしゃいでいると、
「まだ赤坂じゃないよー!」
リーダーの声に笑顔がひきつる。
 
赤坂はその名の通り、坂の街だということを改めて知った。
そして、オフィス街のイメージとは逆に、一歩足を踏み入れ入れるとそこはどこにでもあるような住宅街が広がっていて、ベランダにお布団が干してあるような景色がある。
「一体、どんな人が暮らしているんだろう?」
驚きもつかの間、目の前にTBSのビル群がそびえたつ。
 
ビル群に背を向け、鋭角に角度を取り、韓国料理店がひしめく地域の路地を入っていく。
排気口から吐き出されるニンニクの香りが、少しお腹がすき始めた胃を刺激する。
「こんなところに銭湯が!」
とクラスメートが指さした先にあったのは参鶏湯の専門店だった。
時刻はお昼近く、暑さと空腹で、みんな頭がおかしくなり始めていた……。
 
東急ホテルが見えてきた。
「今度こそ、皇居方面のはず!」
 
今度は裏切られなかった。
だが、待ち受けていたのは三宅坂だった。
 
疲労困憊の中、坂を登る。
衆議院議長公邸の前を通り過ぎると参議院議長公邸だ。
みんな初めて知った。
両議院の議長さんはご近所さんなんだって。
 
もう、目の前は皇居。
「やった!やっと皇居!」
と思ったら、リーダーはおもむろに皇居とは逆方向にルートを取った。
 
「何故? 何の為なの?」
誰もがそう思い、うなだれながら走り、偶然とまった信号の前が永田町駅の地上出口だった。
そこは灼熱の砂漠の中のオアシスだ。
地下鉄の冷房にこれほどまでに感謝することはきっとこの先ないだろう。
 
そして、今度こそ、皇居に向かう道。
お濠沿いのコースを走り始めると、自然と走るペースが上がる。
「ゴールまであと500m!」
 
ともう一段ペースを上げようとしたその時、仲間の一人が道路の凹凸に脚を取られて転倒した。
180㎝を超える大男の彼をみんなで起こして、ゴールに向かう。
 
なんとかスタート地点の桜田門に到着して、ランニングウォッチをストップする。
アプリにデータが転送されるまでの時間がもどかしい。
一体、一体、どんな絵が地図上に浮かび上がるのだろう……。
 
それは北海道だった。
 
翌日は、ランニング仲間が沢山、出場する3年振りに開催される函館マラソンだった。
マラソン大会がかつてのように開催されることに感謝し、仲間の健闘を祈り、心からのエールを送った。
 
 
 
 
***

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2022-07-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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