メディアグランプリ

私の就職した先は消費者金融だった


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記事:紗矢香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「どうしよう。決まらん」
大学卒業後に、どうしても一人暮らしがしたかった私は、必死で就職先を探していた。
だが今とは違い、田舎での就職は、実家から通うことが前提の企業ばかりだった。
それにアルバイトばかりで勉強をしていなかったので、筆記試験はさんざんで、1次試験さえ通らない日々か続いていた。
そんな時、面接だけの試験があり、1次を通過した。2次試験は、わざわざ広島から福岡まで面接だけの為に新幹線に乗って、試験を受けに行った(もちろん交通費は出る)。そして最終試験。これも面接だけ! 合格した。
若干不安はあったが、一人暮らしOKという私の一番大事な条件を呑んでくれる!
もうここしかない! 就職することにした。
若干の不安。
なぜなら、その会社は消費者金融業。いわゆる、サラ金だったからだ。
 
今は、金利や貸金業規制法の改正などいろいろな問題で、ほとんど潰れてしまったが、30年前は、バブルがはじけてまさに全盛期だった。
私が入社した消費者金融業も今はもう存在しない。
その当時は、同業者のなかでは、5番目くらいの規模だった。
福岡本社での入社式では、100人もの同期生がいた。写真撮影の後、各班に分かれて研修を受けた。グループでの討論会や、ワークショップ。同期の仲間ともなかよくなり、赴任地はそれぞれバラバラだが、連絡先を交換し、みんなで励ましあった。新人研修もあり、働く意欲を高めてくれる。交通費も宿泊もすべて無料。なんていい会社だ。その時点ではそう思っていた。
 
私は、希望地の広島県福山市に配属された。お店は、駅前の古い雑居ビルの中。天井は低く照明も薄暗い廊下。その2階に入り口があった。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると、店長をはじめ、社員が7人いた。みんな新入社員の私を温かく迎えてくれた。室内は明るく、カウンター窓口があり、何人かのお客さんが座っており、皆忙しそうだった。
私には、一番年配(と言っても20代後半)の女性がOJTリーダーとしてついてくれることになった。
まずはお札の数え方から教わった。縦読み、横読み、本物の万円札で何度も練習を繰り返した。お金を借りに来る人は、30万、50万と高額の人がほとんどだ。もちろん、お金を数える機械はあったが、最後に店頭で渡す時は、必ず手で数えてお客様の目の前で披露しなければならない。
窓口での新規のお客様への対応から、電話応対、出納業務など、小さな銀行のような仕事だった。1円でも合わなければ、家に帰れないし、お金を払いだす時は、必ず2人で確認をした。その他にも駅前でのティッシュ配付、ATMの現金セットなど様々な仕事があった。
 
お店ごとに売り上げ目標があり、社員にも目標があった。
その目標というのは、セールスの電話をする件数のことだ。既存客に、「お金を借りてください」と電話をするのだ。私はこれが憂鬱だった。
当時は、29.2%の金利。そんな高い金利で「借りてください」とお願いするのだ。いつも借りてくれるわけがない。怒鳴られて切られるか、「もうかけてこないで」と言われることは日常茶飯事だった。月に何件電話をかけたか、いくら融資が出来たか、社員ごとに棒グラフがつけられ、貼りだされた。一番下にはなりたくなかったので、渋々やっていた。私は、少し嫌気がさしていた。
 
借りてくださいといいつつも、お金を月々返済してもらわないといけない。1日でも返済が遅れると、まず女性の私たちが「お忘れではないですか」と電話を掛ける。それが1週間2週間立って連絡がつかない人や、不履行(約束を破る)をする人がいると、男性社員が訪問に行く。これが取り立てだ。
テレビでみるような怖い人ではなく、普通のサラリーマンが原付バイクに乗って行くのだ。脅すのではなく、お願いと説得に行くのだ。根気がいる仕事だ。訪問に行ってもいなかったり、返済が滞ると、内容証明書を送ったり、裁判所に行ったりと、なんとか返済してもらおうといろいろな方法を試す。
訪問に行ったら、誰も出てこず、代わりにハエが一斉にブーンと飛んできて、いやな予感がしたら、中でお亡くなりになっていたとか、そんな話を聞いたりもした。
 
ただ私がいたお店は、社員の多い大型店舗で、なにか対応できないことがあれば上司が代わってくれていたので安心だった。給料も他の業種に比べたら、良い方だった。どんどん同期が辞めていったが、一人暮らしを続ける為には働かなければならない。大変だが割り切るしかなかった。
 
6年後、私は結婚を機に、小型店舗に転勤になった。社員3人しかいない店舗だ。
一人外回りに行ったら、残されるのは女性二人。不安だった。その不安は的中した。お金を借りに来たお客様がいた。だか、審査が通らず融資は出来なかった。貸してくれるまで帰らないと居座ったのだ。かなり切羽詰まっている様子だった。その時はすぐに店長がかけつけてくれたので、大事に至らなかった。だがだんだん怖くて続けていく自信がなくなっていた。なんとか3年間頑張ったが、体調も限界を超えて辞めることにした。
 
結局9年間、この仕事を続けたのだが、勉強になることも多かった。パソコン業務や電話応対接客などは、人並みに出来るようになった。お金も銀行員のように数えられる。
一番は、こんなにきつい仕事を続けたのだから、また別の仕事をすることがあっても、どんな仕事でも頑張れると思えたことだ。
 
ただもう一回、消費者金融業の仕事をしてほしいと頼まれても、丁重にお断りをすることは確かだ。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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