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エコと愛着の狭間で揺れ動く、強靭ボディの軽自動車


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡部みほ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
正直始めの頃は、愛着なんてなかった。
 
4年前、息子が生まれてくるちょっと前に我が家へやってきた。
 
義実家で不要になったという、軽自動車。
 
その車は、さらに10年くらい前に義父が畑まで土や肥料を運んだりするために購入した車だった。
 
もうすぐ息子が生まれてくるというタイミングと、手放すタイミングが重なり(偶然か、優しさか……)我が家へやってくることになったのだった。
 
初めて我が家へやってきた頃、車内は肥料の匂いが充満し、なんとも言えない香りだった。
消臭剤を撒いたりしてもなかなか消えてくれない肥料の匂いを、どうしても好きになれなかった。
ペーパードライバーだった私が、無傷で乗り切れるわけもなく、激狭な家への入り口で二回ぐらい擦った。
その時も、あちゃー! くらいには思ったが、正直そんなに落ち込むこともなかった。
それは、自分で選んで、自分で購入したものではないというところが関係していたと思う。
本当に薄情な嫁だと思う。
 
そんなある日、ある通知が届き、中を開いて驚愕した。
 
大体いつも7千円くらいだった自動車税が、なぜか1万円を超えているのだ。
 
なぜだ!?
何も変わったことはしていないはずなのに、なぜ急にこんなに税金が高くなるのだ?!
 
大急ぎで調べたところ、こういうことであった。
 
自動車税は、新車購入から13年を超えると、普通自動車で約15%、軽自動車で約20%増税になるらしい。
 
車に関しての知識はほぼゼロだった私は、そのことを全く知らなかったのだ。
 
愛着もあまりなかったし、税金が高くなるんだったら、来年の車検までに車を買い替えよう! そう家族で話し合っていた。
 
中古? 新車?
軽自動車? 普通自動車?
車種は? 色は?
 
選択肢は膨大だった。
車好きの息子も家族会議に積極的に参加してくれたが、
ウニモグ(災害時などに活躍する多目的作業車)やらジープやら、道幅的にも金銭的にも現実的ではない車を嬉しそうに提案してくれていた。
 
我が家の車探しは、1年もの時間があったにも関わらず、一向に進んでいなかった。
 
なぜかって……?
 
新車購入から13年経過している我が家の車は、全く問題なく動いてくれていたのである。
(とは言っても、子どもが停車中にイタズラしてちょっとライトつけたらバッテリーが上がったり、エンジンがかかりづらい時があったりはするけれど)
 
モノを新しく買い換えるタイミングは、壊れたり使えなくなった時が多いのではないだろうか。
物理的にそれが使えない状態であれば、急いで代替のものを用意しなければならないから、選択肢が多いだの時間がないだの言っていられない。
でも、それがまだ使えている状態で、ピンとくる新しいモノがなければ、
買い替えの優先順位はどんどん下がっていく。
 
そんなこんなで、車検の時期がまたやってこようとしている。
 
「あぁ車決まらなかったな〜車検がまたきちゃうな〜」
 
そんなことをぼんやり考えながら子どもたちと水遊びをしていると、
息子が「洗車しよう!」と、ホースで車に水をかけ始めた。
 
あぁ、車洗ったのはいつぶりだったっけ。
 
子どもたちと、洗車が始まった。
 
車用の洗剤やスポンジは持っていないから、手や布巾で車体を磨いていく。
 
「いやぁ〜この傷は直りませんね〜ごめんなさ〜い」
息子が車屋さんに扮し、車体についた傷をこすりながら言っている。
それは、激狭道路をいつも通り右に寄せて左に曲がろうとしたら、左が工事していたためにそのまま右に曲がろうとして、曲がりきれず、右側についた傷。
 
「これは修理しときますねぇ〜」
そっちは、自宅まで3mのところでお隣さんに会って「こんにちは〜!」って言いながらハンドルを切ったら、早く切りすぎて右側についた傷。
 
どの時も、みんな一緒に乗っていたから、この傷さぁ〜と、思い出話に花が咲く。
 
特別な道具はないけれど、丁寧に、車内も拭き上げていく。
 
ペーパードライバーだったあの頃。
ホームセンターの二階駐車場で30回以上駐車の練習をして、隣に座っていた旦那の具合が悪くなったこと。
小さかった息子が暑くて大泣きしているのに、エアコンの付け方がわからず大慌てしたこと。
道を間違えて、道を調べたいのにどこで止まっていいのかわからずどんどん迷宮に入り込んでいってしまったこと。
大泣きの息子の声をかき消したくて大音量で音楽を聞いたこと……
 
少しずつ運転に慣れてきた今日この頃。
知らない道も運転できるようになって、あてもなくドライブをしたこと。
走りやすくて遠い道より、狭くても近い道を選ぶようになったこと。
子どもたちや母が行きたい! という場所に、自由に連れて行ってあげられるようになったこと……
 
なんとなく始まった洗車だったのに、これでもかというくらい綺麗にしたくなった。
良いことも悪いことも、たくさん思い出した。
 
ちょっとくらい傷ついても許してくれる(!?)強靭ボディなこの車に、少しずつ時間をかけながら愛着が生まれていたことに気がついた。
まだまだ乗っていたいなぁ〜と思っている自分に気がついた。
これはもう、『愛車』と言ってもいいのではないだろうか。
いや断言する、『愛車』だ。
 
新車購入から13年経った車の税率が上がるということ。
モノを大切に長く使うのになぜ多くお金を払わなければいけないんだろう、長く使うことこそSDGsなのではないのか!? と思っていたが、
車に関してはそうではないらしい。
13年以上経過したガソリン車は、環境負荷が高くなると考えられているのだそうだ。
2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにすることを目標に掲げている日本。
我が家の軽自動車はもちろん、ガソリン車の多くが姿を消すことになるのだろうか。
環境のことや税金のことを考えれば、車を買い換えるという選択肢が有力なのだろう。
しかし乗れるうちはこの愛車に、気兼ねなくいろんなところに連れていって欲しいなとも思っている。
 
エコか愛着か。
これから出会うことになるかもしれない”エコな愛車”に思いを馳せながらも、
今日も私は、傷と、家族と、思い出と、一緒に走る。
近場は自転車に乗り替えることも、忘れずに……!

 
 
 
 
***
 
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2022-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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