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鬱陶しくて、ありがたい(ライティング・ゼミNEO)

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石綿大夢(ライティング・ゼミNEO)
 
 
正月。三が日の予定はだいたいいつも決まっていた。
一日は父方の実家、二日は母方の実家へいく。どちらも近場なので日帰りだ。
三日目は、家で過ごす。これが我が家の三が日の習慣だった。
 
そして父は三日の夜になると決まって出かける。大学時代からの友人たちとの、年に一回の恒例の集まりがあるらしい。お酒をほとんど飲まない父にとって、夜知り合いと食事に出かけるというのは珍しかった。
 
当時、毎日友達と顔を合わせていた僕にとって、父とその友人たちとの関係性はなんだか新鮮だった。
一年に一回だけって、寂しくないんかな、とか。
久しぶりだと逆に緊張しそうだな、とか思っていた。
 
でもなんだかその“馴れ合ってない感”が、子供からみると“オトナ”で、憧れもしていた。
一緒にグラウンドを駆けずり回ったあの友達も、将来はカウンターでビールを飲み交わす仲になるのかな、と思っていた。
しかし、中学生の終わり。僕はある先生の発言に衝撃を受けた。
 
「ここにいる友達のほとんどは、将来、会いもしない他人になっています」
 
卒業を間近に控えた三月、皆それぞれ進路も決まり、授業の残りの日程を消化するために学校に来ていた。当然のように身が入らない。
だが学年主任の先生の言葉に、一瞬で教室の空気は凍りつく。
 
先生は、僕らの反応を楽しむように続けた。
「新しい環境になって、新しい友達ができると思う。今までの友達、これからできる友達。どちらが大切ということはなく、自然と友人関係というのは淘汰されていく。今どれだけ仲が良くても、だんだん会わなくなったりする。逆に、学生時代に全然仲良くなかったヤツが、一生の友達になったりもする」
 
学生時代の若者にとっては、友人関係が全てだ。そう思っていた。
今思うと、そんなことはないのだが、当時はそれしか世界がないと感じていた。
思わず友人たちと目を見合わせる。
 
最後に一言、先生はこう付け加えた。
「だから、友人関係に固執する必要はないんだよ」
 
この話を聞いたからなのか、元々の気質なのか、それから僕は友人関係にこだわらなくなった。
遊んでいても、どこか冷めている自分がいる。頭の片隅では「あぁこいつともいつか会わなくなるのかな」と思ってしまう。
それでも学校帰りに一緒に買い食いしたコンビニの肉まんはいつも通り最高だし、恋愛話にも花が咲く。
どの友人とも「楽しくない」ということはない。
それに今はS N Sがある。ちょうど中学生時代にミクシィが流行り出し、Twitter、Facebookと発達するオンラインコミュニティのネットワークと共に成長してきた世代だ。
今でも中学・高校の同級生たちと、S N S上で“ゆるくつながる”ことができている。
でもその緩いつながりは、“切れていない”だけで“続いている”とも言えない曖昧な関係だ。父たちの“オトナ”な友人関係とは少し違う。
 
そう思いながら、先日、とても久しぶりに新宿に飲みに出かけた。
新宿駅西口のゴタゴタとしたエリアのど真ん中。歩道に向かって開かれた居酒屋のテラス席で話に花が咲く。
大学生の時から結成していた劇団。その活動が休止してからも、当時一緒に演劇作りをしていたメンバーとは、何かにつけて会っている。
コロナ禍の影響で、とても久しぶりの再会だった。
 
話題となるのは決まって、今も俳優や演出家として活動しているメンバーの話だ。
多くのメンバーが普通企業に就職しているため、今でも演劇界で活動しているやつのことは応援しているし、大体の作品は観にいくのが通例になっている。
 
だがそういう“今は現役で活動していないメンバー”は、現役で活動しているメンバーにとっては、一番の辛口の観客だ。
どんなに面白いと話題の作品だろうと、言いたいことは言い、貶すところは貶す。忖度する必要などこれっぽっちもないから、当然である。
良いところも悪いところも知り尽くしている、最良にして最強の理解者たちだ。時には鬱陶しくもなるし、ありがたくもある。
 
しかし、久しぶりに顔を合わせて、不思議なことに気がついた。
このメンバーとは、終わる気がしないのである。
関係が切れる気がしないのである。
 
なんだかんだ言っても、実際に会える機会はそう多くない。忙しいやつとは一年に一回会えれば良い方だし、それこそS N Sで近況を知っているくらいだ。
コロナ禍で自粛が続いていたため、かなり久しぶりな友人もいた。
 
だが、この昔の劇団コミュニティーのメンバー誰とでも、それが何年振りだろうと何ヶ月振りだろうと、思い出したように昔のノリが自然に出てくるのである。
 
もちろん、話題に変化はある。
年を取るにつれて、恋愛の話は結婚の話に変わり、アルバイトの話は仕事の愚痴に変わった。
子供が生まれたメンバーもいるし、家を建てたメンバーもいる。
次第に変化していくライフステージに合わせて、ホットな話題が変化するのは当然だし、僕らもそれに合わせて段々と大人になっている実感がある。
馬鹿騒ぎをして、飲み屋でグデングデンになるまで酔っ払い、カラオケでオールしてそのまま大学に行ったあの頃とは、違った話題で盛り上がる。
 
しかし、話題がいくら健康や保険の話になっても、なんだかその奥に昔の友人の姿を見ている気がするのである。
多分だけど……これを感じているのは僕だけではないと思う。
年齢を重ねるにつれて話題は変化していくが、その奥には一緒に騒いでいたあの頃のあの姿が投影されているのだ。
まるで大人になっていく僕たちを、一歩下がって見守っているように。
 
ふと父親が年に一回会う、友人たちとの恒例会のことを思い出した。
あぁきっと親父たちもこういう“変化する自分達”を見るのが楽しくて、毎年会うのかもしれない。
大人になってしまった話題で盛り上がりながら、同じく馬鹿みたいに騒いだ大学生時代を透かして見ているのかもしれない。
きっと親父にとっても、恒例で会っているメンバーは最も居心地良く最も忖度しないメンバーなのだろう。時に涙ぐみそうになるほど懐かしく、時に叫びたくなるほど鬱陶しいのだと思う。
 
そう思うと、僕のも親父のも、元々なんでもなかった集まりが、妙にありがたく、尊いものに感じられるから不思議である。
 
しかしまぁ“尊い”とか言うと、「お前が昔ミクシィに書いてたポエムみたいだな」と友人たちに馬鹿にされそうなので、この辺で終わりにしておこう。
次会った時に、この記事の手痛いダメ出しを受けそうである。

 
 
 
 
***
 
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