夏の京都を訪れて日本の美に触れた
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記事:kenken(ライティング・ゼミ4月コース)
そうだ。京都に行こう。
その一言がきっかけだった。
カメラに収まったのは深緑の世界。上半分は現実の世界。実際に青々と生い茂る木々。下半分は幻想の世界。現実の木々の姿を映し出す鏡の世界。
こんな世界があるのか。
先人たちはこんな風景を作るために知恵を絞ったのか。
美に対する日本人の感性に驚愕する。
場所は京都の山奥。比叡山の麓。
瑠璃光院。
高校の修学旅行以来、久しく訪れていない京都。
大人になってもう一度行くのなら、子供の頃に行かなかった場所に行こう。
有名どころではなく、ちょっとマイナーと言ったら失礼かもしれないが、ちょっとオツな場所に行ってみよう。
前々から行こう行こうと思っていた京都。
ネットでダラダラと検索していたら、ふと目に入ったのが、瑠璃光院の写真。
薄暗い和室の中に一際輝く深緑の世界。
これやべえ。
(この間0.1秒)
決めた!
今年の夏は京都に行く!
夏の連休の最中である。思い立ったら吉日の精神で私は新幹線に飛び乗った。
夏の京都といえば祇園祭。最近、開催できていなかったから大いに盛り上がったらしい。観光客も祇園祭を目当てに京都の町に押し寄せたらしい。しかし、私はそんなこともつゆ知らず。あの写真の景色を実際に見たい。カメラに収めたい。そんなことしか考えていなかったから、祇園祭の最中に京都に乗り込んで、お祭りなんて見向きもせずに瑠璃光院に直行した。
普通の観光客からしたら頭にクエスチョンマークが浮かぶだろう。
夏の京都だぞ。
久しぶりの祇園祭だぞ。
なぜ祇園祭を見に行かない?
その答えは単純だ。
知らなかったから。
世間一般の人たちが知っていることよりも、自分がやりたいことをやる。
自分がこれだと思ったら、後先関係なく有無を言わさずやってしまう。
それが私なのだ。
元々、お寺にある庭園を見るのが好きだから、もう瑠璃光院にいく、という選択肢しかなかった。他の人が見たら、それ楽しいの? と思うかもしれないが、そういう人種なのである。私は。
京都駅に到着し、昼ごはんを求めて京都駅内を不審者のごとくウロウロし、経路検索アプリだけを頼りに土地勘もないのに無理して私鉄線を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた瑠璃光院。場所が比叡山の麓だから、なんなら比叡山にお参りできるかもしれない。そんな淡い期待を抱いたけれども、迷いに迷って辿り着いたから、もう比叡山にお参りできる時間がなくなっていた。完全に瑠璃光院に行くためだけに1日を使ったものである。
お寺の門をくぐる。
あたり一面に広がる緑の世界。
これだ。これである。
この緑を見るために私は都会からやってきたのだ。
都会の公園ではお目にかかれない深緑。苔。
いよいよ室内に入る。
お目当ての景色は階段を登った先。
念願の部屋に入った私。
愕然とした。
思っていたのと違う。
確かにネットの写真にあるような美しい深緑の木々たちがそこにいた。
しかし、あの水面のように映る下の世界はどこにあるのか?
私はてっきり、部屋の中に池があって、池の水が反射して、深緑の木々を映し出しているのだと思っていた。
目の前にあるのは瑠璃色のテーブルだけ。
なんじゃこりゃ?
遠路はるばる京都の山奥まで足を運んだ甲斐がないではないか。
そう思っていたら、周りの人はテーブルにカメラを置いて写真を撮り始める。
なんで?
「テーブルの上にカメラを置いて撮るといいですよ」
スタップさんの声が聞こえた。
もう一度、私は瑠璃色のテーブルを見る。
これ、磨かれてないか?
そう。テーブルが鏡のように磨かれてすぎていて光を反射するのである。
よく、お寺の床を磨いて綺麗にする、なんていうけれど、このテーブルはその比ではない。
磨かれすぎていて水面のように見えるのである。
そうか!
私はスマホをテーブルの上に置いた。
画面を覗いた。
あのネットで見た世界がそこにあった。
現実にある深緑の木々に覆われた上の世界。
水面のような瑠璃色のテーブルに深緑の木々が映し出された下の世界。
思わず写真に収めた。
気がつけばスマホの写真フォルダは瑠璃光院の写真で埋め尽くされていた。
これを考えた人は天才か。
深緑の木々が水面に映し出される世界を何とかして室内で再現したい。
池がなくても、まるでそこに池があるかのような世界を作りたい。
そこで編み出したのが磨きに磨いた瑠璃色のテーブル。
ただ磨いただけ、たったそれだけで作り出す美の空間。
日本人の、いや京都人の美に対するこだわりに舌を巻いてしまう。
現実と世界と架空の世界。
二つの世界に存在する深緑。
それを再現するために水を張るんじゃない。
水を張って表現しようなんて面白くない、発想が単純すぎる。
水がなくても水面に映るような世界なんていくらでも表現できる。
ただ瑠璃色のテーブルを磨きに磨くだけで、もう一つの深緑を作り出すことができる。
発想が変態である。
だが、それがいい。
夏の京都を訪れて、瑠璃光院を訪れて、日本の美に触れた。
夢と現世。二つの深緑が織り成す美の空間。
長い年月を経ても色褪せない、私たち日本人独特の美学がそこにあった。
そうだ。また京都に行こう。
***
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