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世界でたった1輪の花をつくる神様


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:萩原りえこ(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
野球の神様と言えば、ベイブルース。
漫画の神様は、手塚治虫。
ダリアの神様とは、この人。鷲澤幸治氏なのである。
 
秋田空港から車で10分。東北の長閑な山間の地。そこへ行くと、目の前に広がるのは、赤、黄色、紫色、ピンク……色鮮やかな花絶景。ここで咲くのは、1種類の花だが、その中には細かく分けて700品種もある。その花は、小さなものは3センチに満たない。それに対して、大きなものは直径30センチを楽々超える特大サイズの花なのである。
和名を天竺牡丹という。その花とは、いわゆる「ダリア」の花である。
 
700品種7000株ものダリアの花が咲く花園。秋田国際ダリア園。ここにいるのが、赤いポロシャツがトレードマークの鷲澤幸治さんという一人の育種家である。育種家とは、花の生産者とは違い、今ある品種を交配させて新しい品種を生み出す職業である。鷲澤さんは、花の業界で新種のダリアを育てる第一人者として世界的にも広く知られている人物なのだ。花業界では、知らない人はいないといっても良いだろう。そして業界では、いつしか鷲澤さんのことを「ダリアの神様」と呼ぶようになっていた。
 
 
「ダリア」は、キク科の植物で、球根から育つ花である。球根は春先に植え付ける。だいたい桜の咲くころと覚えておくと良いそうだ。
品種改良は一般的に2つの花のおしべとめしべを人工的に交配させるのだが、鷲澤さんの手法は、あえてチョウやハチに任せる自然な交配なのだという。
自然にゆだねてこれまでにない斬新なダリアを次々と生み出したのだか驚きでしかない。
ダリアの品種は、知られているものだけでも世界中におよそ3万品種もある。そのうち切り花で現在国内流通するダリアの7割は、この鷲澤さんが自ら生み出した品種だというから圧巻である。
 
ダリアは、メキシコ原産の植物で、17世紀にメキシコからヨーロッパへと輸入され、その後広く各国で栽培されるようになった。日本でもかつては、地味な花で人気の乏しい花の1つであった。
 
しかし、鷲澤さんの手によって生み出された数々のダリアの華やかさは、見る人を虜にさせる。かつては飾り気のない控えめな存在だった花が今ではウエディングなどのハレの日ばかりでなく、パリコレなど海外で注目される舞台の装飾などでも使われるほど人気の花へとその価値をグレードアップさせた。
 
鷲澤さんの手掛けたダリアの名前の中には『NAMAHAGEチーク』や『NAMAHAGEのんちゃん』など、中には、一度聞いたら忘れられない名前が付いているものがある。『NAMAHAGE』を冠とするユニークな品種名の由来は、もちろんあの仮面をつけ、藁を纏った秋田の伝統的な民俗行事『なまはげ』である。一度聞いたら忘れないインパクト抜群な名前として、秋田県とダリアの育種家である鷲澤さんが品種の共同開発をして発表しているのがこの『NAMAHAGEダリア』である。
 
この『NAMAHAGEダリア』であるが、市場でその名前を見かけると秋田県の生産者さんのダリアだと一目瞭然の品種であるから、私にとってもとてもありがたい存在なのだ。なぜなら、たくさんの花を扱う私たちにとっては、この名前は産地を確認する手間を省いて購入できる唯一の花であるとも言っていいからなのである。
 
 
さて、あるテレビの取材で鷲澤さんはこう語っていた。
 
『食卓の上に花があったり、玄関には花があったり、っていうような生活が欲しかったわけだ。俺は』
『花をきれいに扱っているところはね、豊かですよ』
『人間の気持ちも豊かです』
 
鷲澤さんは、最初からダリアの育種家だった訳ではない。
18歳で一旦は上京したそうだ。そして、東京で外国船の船会社に就職し機関士として世界中を就航した。
 
ある時、カナダのバンクーバーの港に立ち寄った時のことだ。
そこに立ち並ぶ家々の窓辺には、色鮮やかな花が花瓶に活けられていた。綺麗に飾られているその風景が印象的だったと言う。そんな文化を異国の地で目の当たりにして、鷲澤さんはそこに“幸せ”を見出したのだと語っておられた。
 
 
趣味からはじめたというダリアの育種が仕事になり、その後の努力は、簡単には想像できないほど血のにじむような苦難の連続だったろうと思う。
 
『今、目の前に咲くのは、世界でたった1つしかない花なのだ!』
と信じる気持ちを持ち続け、飽きずに懲りずにひたすら自然と向き合う毎日。
裸足で畑に立ち、土にまみれて働く日々の積み重ねが美しい華麗な世界でたった1つの大輪の花を生み出す鷲澤さんの日常である。
 
東北の自然の中で、毎年花業界に衝撃を与えるほど斬新な新種を次々と生み出している育種家、鷲澤幸治さんは、こうも語る。
 
『ダリアの美しさを世に広め、ダリアで人々を幸せにしたい。ダリア自身にも幸せになって欲しい』
 
ダリアの花の季節は、晩夏から晩秋にかけて。ダリア園では、小さなつぼみが大輪になろうと準備を始めている頃だ。
どうか美しい花の咲く向こう側にもまた、生産者や育種家の情熱の物語があることを少しだけ思い描いて頂けたら私もまた幸いである。

 
 
 
 
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