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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布施 京(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
アフリカの道端で売られている食べ物を買うには勇気がいる。
 
「そんな勇気はいらないよ」と言われるかもしれないが、
いつも現地の人が集まっていて、とても気になるサンドイッチ屋があるのだ。
 
サンドイッチ屋といっても、屋台ではない。
歩道に、パンや食材の入れ物を並べて、おじさん一人で立ったまま作って売っている。(写真左)
朝、同じようなサンドイッチ屋は至るところに出現するのだが、このおじさんのところのように人だかりはできていない。
 
会社の目の前の歩道で、そのサンドイッチ屋を毎朝見かけていた。
だが、万が一、食あたりにでもなったら会社に迷惑をかける、と思うと買えなかった。
「道端のものを買って食べたからだ」とお咎めを受けることも間違いなかったからだ。
 
だが、今日は、これから自宅に帰って在宅勤務をすることになっている。
このチャンスを逃す手はない。
 
朝7時前なのに、すでに5,6名の輪ができていた。
輪に入り様子を伺っていると、隣の若者が「食べないの?」と声をかけてくれた。
「食べたいけど、注文の仕方がわからない」と話すと、説明をしてくれた。
 
「パンは12メチ(約24円)、パンに挟むソーセージは25メチ(約50円)。大豆ナゲット20メチ(約40円)、目玉焼き15メチ(約30円)、ハム5メチ(約10円)、ポテトフライ2メチ(約4円)。好きなのを選ぶんだよ」
 
全盛りでも79メチ、日本円で約160円。
パンの大きさが30センチほどのポルトガルパンなのでとても安い。
何にしようかな、迷うな……と考えていると、まずいことに気がついた。
500メチ(約1000円)札1枚しか持ってこなかったのだ。
 
忘れ物を会社に取りに来ただけなので、財布は家に置いてきていた。
そして、強盗に襲われたときにすぐに渡せるよう、500メチ札一枚だけをジーパンのポケットに忍ばせてきたのだ。
 
細かいお金を用意しておかないと、お釣りがないと言って、もっと買わされることがある。
少しトーンを下げて、隣の若者に伝えた。
 
「500メチしかないんだけど……」
 
すると、若者がおじさんと話し出した。現地語で何を話しているかよくわからない。
 
「2つ買ったらおつりをくれるって」
 
もともと家で待つ家族の分も買うつもりだったので、「2つ買います」と軽く返事をした。
すると、おじさんは道の向かいにいるサンドイッチ屋に向かって叫んだ。
 
「両替してくれ!」
 
ないと言われると、おじさんはサンドイッチを作る手は休めずに、次は通りすがりの女性に叫んだ。
 
「両替してくれ!」
 
すると、女性が快く200メチ札2枚と100メチ札1枚にしてくれた。
私は、100メチをおじさんに支払った。
 
「1つは大豆ナゲットだけ。もう一つは、目玉焼きとソーセージとポテトフライにしてください」
 
すると、「おお~、最高だね!」「すっごくおいしいよ、それ!」と若者たちが口々に言って、ちょっとした歓声が上がった。
そのときは、その歓声の本当の意味がよくわかっていなかった。
 
若者たちはおじさんからノートを手渡されてメモしていた。
「注文したものを書いているの?」と聞いてみたが、スルーされてしまった。
よく見ると、名前らしきものと数字が書かれていた。
 
そうか、わかった。
彼らは、付けでサンドイッチを買っているのだ。
このおじさんは付けで買わせてくれる。だから、人だかりができているのかもしれない。
 
100円のものが買えずに、付けにしている人たちがいる。
 
1つのパンに3つの具材を入れることは、とても贅沢なことだったのだ。
私は自分が注文したときのみんなの歓声を思い出し、胸がチクリとした。
 
 
アフリカでは、ウクライナ戦争の影響で、物価が高騰している。
世界の最も貧しい国のワースト5、6位をさまようここモザンビークも同様だ。
最低賃金は月給約5,000メチ(約1万円)なのに、スーパーでは、日本の物価の2倍近くするものも多い。
たとえば、ヨーグルト500gが約500円、トイレットペーパーが1ロール約70円、ティッシュケースは1箱約300円。紙は高級品なので、地方に行くと、レストランのトイレなどにトイレットペーパーはなく、水で洗うように手酌のプラスチック桶が置いてある。
 
 
「100メチ(約200円)じゃ、足りないって」
 
急に若者にそう言われ、急ぎ200メチをおじさんに渡し、100メチを返してもらった。
だが、全盛りでも59メチなのだから、パンが2つだとしても足りない訳がない。
 
「どうして足りないんですか?」
 
勇気を出して聞いてみた。
すると、意外な答えが返ってきた。
 
「彼らにおごってやるんだろ」
 
3人の若者がにこにこしながら私を見ていた。
そういうかとだったのか!
いつからそんな話になっていたのか、現地語を話されていたので気づかなかった。
だが、たしかに、隣の若者がいなければ、私はこのサンドイッチを買うことはできなかったかもしれない。
彼らは、付けのノートに書いていたのだ。
 
彼らのサンドイッチは32メチ(約64円)だと言った。
パンと卵とハムだろうか。
よく見たら私が頼んだ25メチのソーセージは他の具材に比べて元々の在庫は少なかった。
贅沢品で、あまり売れないのかもしれない。
 
「わかりました、支払います」
 
すると、若者たちは、うれしそうに口々にありがとうと言った。
私の胸を刺した痛みが少し和らいだ。
 
だが、完全に痛みをなくすには、どうしたらよいのか。
 
世界の食品ロスは9億トンともいわれている世の中で、食べ物が手に入らない人がいる。
 
だが、食品ロスは、先進国だけの問題ではなく、ここモザンビークでも起きていた。
なんと、食品ロスランキング39位に位置しているのだ。
 
途上国の食品ロスは、輸送手段が整備されていなかったり、保存や加工段階で設備が整っておらず腐って廃棄になってしまったりすることが原因だという。消費段階での廃棄は1割以下となっているそうだ。
 
家に帰り、夫と息子と一緒にサンドイッチを食べた。
 
大豆ナゲットは、思いのほか辛くて、10歳の息子は食べられなかったが、
歓声が上がったサンドイッチの方はとてもおいしく頂いた。
もちろん、お腹も痛くはならなかった。
 
3人でも十分なボリュームだったので、少し残ってしまった。
チクリセンサーが作動した。
 
まずは、残さず食べる。
できることからやっていこう。そう思った。

 
 
 
 
***
 
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2022-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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