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「派手に死にたい」と言って、美しく逝った祖母の最期


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋 さやか(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
自慢ではないが私の母方の祖母は完璧な女性だった。取り柄のない私とは大違いだった。
 
ドイツ育ちのいとこがドイツ語のおばあちゃんを意味する「オーマ」と呼んでいたので私と弟もこの呼び方を受け継いだ。「おばあちゃん」と読んだ記憶は一切ない。
 
大正時代に華族の家に生まれ、当時の女性としては珍しく音楽大学でバイオリンを専攻し、私の祖父に当たるピアニストと演奏したのをきっかけに身分の差を超えて恋愛結婚をして2女を設けた。長女に当たる私の母も同じ道を進んだ。75歳まで音楽大学の教授をしていた。
 
外国人のような彫りの深い顔立ちで肌は抜けるように白く、メリハリのある体型で手足が長かった。私にとってはおばあちゃんだけど、物心ついた時から完璧な美人という認識だった。例えるならイギリスのマーガレット・サッチャー元首相やドイツの大女優マレーネ・ディートリッヒのようなキリッとしたイメージだ。
 
若さと美貌を保つ日頃の努力も凄まじかった。一人暮らしなのにタイトスカートを履いてメイクをきちんとし、シプレ系の香水を常に纏っていた。真夏なのに補正用のボディスーツを下着として着ていたこともあった。
 
外見だけではなく音楽と外国語の勉強も欠かさなかった。楽譜と辞書はいつでも机の上にあった。
 
家が近いのでよく遊びに行ったが、仕事をしていて忙しかったためかあまり一緒に遊んだ記憶はない。祖母の家にいる間は部屋で読書をしたり、ドレッサーで化粧品や香水をみて遊んでいた。時々メイクの真似事をしてみると叱ることはせずに「あら、キレイね。時々ここで練習してもいいわよ」と褒めてくれた。
 
また、ガーデニングが大好きで一緒に種まきや球根を植えた。ライラックが一番好きな花だったが何と自分で育てていた。5月に開花されると「キレイに咲いたから見にいらっしゃい」と電話がかかって来た。薄い紫の花びらとクールな色気が宿る香りは祖母のイメージそのものだった。
 
外出時のおしゃれも半端なかった。夏はワンピースにヒール、冬は毛皮のコートにロングブーツ。目の保護用にイヴ・サンローランの鼈甲の大きなサングラスをかけていた。一度だけ七五三の時に着物を着ていた記憶があるがとても素敵だった。
 
歳をとってから亡くなるまで老人ホームに入ってからはそれなりに歳をとってしまったが、私や弟が遊びに行くときはおしゃれをして待っていてくれた。もちろん服装に合う香水をほんのりと纏っていた。恐らく私が香りに興味を持って仕事をしているのは、祖母の影響が大きいと思う。
 
大人になるに連れ、孤独感に苛まれ「死んでしまいたい」と思った時期があった。友人に話してみても「気の持ちようだよ」と言われてかえって落ち込んでしまった。家族はとても多忙だったため一番辛い時にひとりぼっちだった。そんな時に祖母によく電話をかけていた。いつも優しい声で話を聞いてくれた。
 
もしかしたら命を絶たずに今生きているのは祖母との電話のおかげかもしれない。認知症になってしまった時も一生懸命話を聞いてくれた。
 
後に母から祖母が「さやが孤独感で辛かったのは、あまりよくない友達に影響されていたことじゃない」と話していたということを教えてくれた。
 
図星だ。
 
実際のところ、高校時代に派手好きの友人がいた。
とても可愛くて恋愛と遊びの自慢が絶えず、いつも私のずっと先を行っているような彼女に大きなコンプレックスを持っていた。話を聞くたびに自分に自信がなくなっていた。それでも祖母とは会ったこともなく話題に出たこともない。やはり勘が鋭いのだろうか。本当に当たっていたのでびっくりした。
 
その後も仕事がどんなに忙しくても会いに行っていた。認知症で話につじつまが合わなくなっても過去のことは比較的覚えていると聞いたので娘時代のことを質問してみて何とか話題を作った。残された時間を楽しく過ごして欲しいと必死だった。
 
亡くなる前に脳の出血で倒れてしまい入院したままになってしまった。不思議だったのは倒れた時間と同じくらいに病院で祖母が寝ていて「さやかよ。分かる?」と声をかけている夢を見たことだ。予知夢のようで怖かった。
 
いよいよ危篤になった時に両親が見舞いに行き、父からメールが届いた。
 
「オーマは頑張っています」という一言だった。この文字を見たのは当時勤めていたお店の掃除中だった。モップを持ったまま涙ぐんでしまった。
 
数日後に病院から息を引き取ったという電話があった。母と悲しいけどあれだけ頑張って生きたから後悔はないはずだよねと慰めあった。
 
その後、信じがたい電話があった。
 
「心肺停止からまた息を吹き返しました」
 
母と呆気にとられてしまった。何が起きたかわからなかった。
 
もしかしたら奇跡が起きたのかもしれないと信じて父にも連絡を取り、電車とタクシーを乗り継ぎ片道3時間をかけて祖母が入院している病院に駆けつけた。
 
恐る恐る病室のドアを開けた。
 
何と、祖母がベットの中で身体を震わせて懸命に呼吸をして待っていてくれたのだ! 全身を管に繋がれて痛々しかったが「必死で生きるのはこういうことよ」と伝えてくれているように見えた。
 
その姿を見て大泣きしてしまった。
 
そして母と二人で手を握って声をかけた。父も到着した。祖母の部屋に一旦荷物を置いてから再び病室に戻った。父と母と私の3人で手を握り「頑張れ」「ありがとう」「大好き」などありったけの感謝の声をかけ続けた。
 
どのくらいの時間が経っただろうか。苦しくて何も話せないはずの祖母が一筋の涙を流し、声のない「ア・リ・ガ・ト・ウ」を言った。そして本当に旅立ってしまった。
 
担当医と看護師さんが「ご臨終です」と告げた。
 
最期の化粧は少しだけメイクを習っていた私が施した。肌に触れて驚いたのは亡くなった直後でもうるおいとなめらかさがあったこと。つくづく美意識が高いと思った。手持ちのパウダーファンデーションとチークとハイライトをひとはけとリップカラーをのせただけで生前のような華やぎを取り戻した。
 
その後外に出たら夜桜が美しく咲いていたことに気がついた。深い闇夜に淡いピンクの花々がぼんやりと浮いたさまが妖艶だった。美しかった頃の祖母のイメージだった。
 
「最期の時まで華やかだなんて完璧すぎる」
 
そんな風に思い、お別れをした。
 
葬儀が終わった後に、駆けつけることができなかった弟がポツンと言った。
 
子供の頃に「派手に死にたい」と話していたことがあるらしい。この言葉を聞いて心底驚いた。本当にその通りになったからだ。
 
亡くなってから14年の歳月が流れた。不思議なことに夢の中ではまだ生きているような感じで出てくる。夢の中では100歳くらいの設定で毎回ドキドキしてしまう。その夢には必ず祖母の家も一緒に出てくるのだ。母も同じような夢を見るらしい。きっと私たちに会いに来ているのだろう。
 
実は祖母の家は偶然にも東京天狼院の近くにあった。これも祖母が導いてくれたのかもしれない。ライティング・ライブの様子も様々な人との出会いもきっと祖母が天国から見守ってくれているだろう。

 
 
 
 
***
 
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