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母から「整形」を疑われたメイクが3分間で終わるワケ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Motoko(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「ねぇ、顔イジった? なんか違うのよ、キレイになってる」
ひさしぶりに立ち寄った実家で、のんびりお茶を飲んでいたとき、顔をしげしげと見つめながら、母が言った。
「この年でするくらいなら、もっと前にしてるわよ」
思いがけず放たれたひとことに、驚きながらも、ちょっとウキウキ。その日、家に帰ってきたばかりの夫に、ニヤつきながら玄関で報告をしてしまったたほど嬉しかった。
 
「整形級」のメイク。そう聞いて、ほとんどの人の頭に思い浮かぶのは、プロ級の難しいテクニックを使い、長い時間をかけて、ていねいに施すメイクかもしれない。でも、あの日、メイクにかけたのは、たったの3分間だ。
 
「きっとあなたは好きだと思うから、行ってみたら?」
友人がすすめてくれたメイク教室に足を踏み入れたのは、2020年の夏のこと。品ある笑顔の先生がにこやかに迎え入れてくれた。とても70代には見えない、つやつやの肌に視線は釘付け。
 
お教室は、初級、中級、上級、最上級の四段階で進んでいく。途中でやめても、続けるも自由。すすめてくれた友人は初級で終えたという。気軽にはじめたメイクのおけいこは、初級の1回目から、今までとは全く異なるメイク方法に、目が点になった。
 
曰く
ファンデーションは液体状のリキッドをごく少量使う。
ファンデーションを塗るのは、3点のみ。
仕上げのお粉は、はたかない。
シミやくすみを隠すコンシーラーは使わない。
アイシャドウは1色だけ使う。
などなど。
 
このなかでも、一番の衝撃は、コンシーラーを使わないことだった。
目の下を明るくし、肌のアラもすっぽり隠してくれるコンシーラーは、年齢を重ねた女性にとっては、必需品。使わないなんて、とても信じられなかった。
 
「まったく使わないんですか?」
おずおずと問うわたしに
「必要ないの。シミは、大切な思い出。愛しいものよ」
歌うように先生は言い、にっこり笑った。
 
肌のシミが大切な思い出?そんな考えは、一ミリもなかった。鏡を見れば、最初にシミが目に飛び込んでくる。あー、薄くならないかな、無くならないかな、ずっとうらめしく思っていた。評判のよいコンシーラーを見つけて試しては、うまく隠せたと喜び、夕方になってうっすら浮かび上がるのを見つけようものなら、あわてて塗り重ねるほど。
 
でも、「シミは、大切な思い出」と言われ、一番最初に見つけた時のことを振り返ってみた。すると、ふいにグアムで日焼け止めを塗らずに思いっきり海で遊んだ記憶が、美しい海の映像とともによみがえってきたのだ。
面白いもので、ひとつ思い出せば糸を手繰るように、次から次へといろんな記憶が浮かび上がってくる。ぽこぽこ湧いてくる思い出にひたっていたその時、ふっと隠さなくてもいい、そこに在ってもいい、そう素直に思えた。
 
そこからは、おけいこに行くたび、コンプレックスだった顔のひとつひとつとじっくり向き合うようになった。小学校で男子から「ほそめ」とからかわれて以来、ぱっちりと見せたかった目、左右で高さに差があって、描く時に苦労した眉、やせると真っ先にやつれて見える細い顔。
おけいこでは、なんども鏡で自分の顔を見る。
「骨格を意識して」
「肌には、やさしく触れてね」
「お顔を両手で包むと、どんな気持ち?」
先生に言われるがままに、顔に触れていると、次第に自分の顔がとても大切で愛しいものに思えてくる。何十年も付き合ってきたのに、ずっと見ていたはずなのに、きちんと見ていなかったんだなとようやく気づいた。
 
軽い気持ちで始めた、メイクのおけいこ。夢中になって通い、気づけば、上級まで進んでいた。そこで、教わったのが、3分間で完成するメイクである。
決して手抜きはせず、ファンデーション、眉、アイシャドウ、アイライン、マスカラ、リップ、チークのフルメイクを3分間で終える。
最初はできるわけがない。とんでもない。たったの3分間でなにができるのだろう。そう思った。けれど、骨格を意識し、何回も練習を重ねていくと、いろいろなメイク用品を使っていた時よりも、なぜか顔が活き活きと見える。そもそも使う量が少ないから、メイク直しも要らない。
今や、3分間のメイクは、日課となった。ちょっとあらたまった場所に行く時以外は、すべてこのメイクで出かける。
 
さて、たった3分間のメイクで、なぜ母から整形を疑われたのか?
それは、本来の顔を無視したメイクではなく、活かすメイクに変わったから。そして、顔を大切にあつかい、愛しく思う気持ちが自然と表情に現れているからだと私は思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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