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ありがとう、浮気するように選んでいいと気づかせてくれて

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大村沙織(ライティング実践教室)
 
 
目の前に広がる光景が、一瞬信じられなかった。
どこにでもありそうなアーケード。
両側に店が立ち並ぶその間には、レッドカーペットならぬグリーンカーペットが敷かれている。
緑の帯の上に並べられているのは、本、本、本。
遠目で見ても様々な大きさのものがあり、
まるでアーケードの果てまで続いて見える様子は、さながら本の川のように見えた。
「これ、全部貰っちゃっていいの……?」
思わず呟いた。それに答えるかのように、スタッフと思しき人の声が聞こえる。
「イベント参加者用のリストバンドをつけた人は無制限で本を持ち帰れまーす」と。
頭の中でゴングが鳴った。それと同時にこれから訪れる出会いに、胸の高鳴りを隠せなかった。
 
そのイベントを知ったのは、もう少しでお盆休みに入りそうな夏の夜のことだった。
「本でみんなが元気になる『前橋BOOK FES』です」
仕事後にぼんやりとスマホでメールを確認していた私の目に、そんな一文が飛び込んできた。たまに目を通している「ほぼ日刊イトイ新聞」から定期的に来るメルマガ「ほぼ日通信WEEKLY」。その中でイベントのことが紹介されていたのだ。
「音楽好きが野外フェスに集まるみたいに、『本で集まる』を実現したい」
「世の中にたくさんある『誰かが読んでくれるならあげるよ』という本。それらを前橋に集めたい」
「そこに集まる本に出会いたい人に、その本を持って帰ってもらいたい」
本が大好きな自分としてはたまらない催しだと、すぐに感じた。本がたくさんあるだけでなく、それを持ち帰れるとな!? どんなイベントになるか想像するだけでわくわくした。そして糸井さんの最後の呼びかけに、更に興奮させられた。
「BOOKとROCKは、かたちが似てる。そんな気分で集まれ~」
その思い付きも見事だし、ROCKという単語を引っ張り出すことで本好きじゃない人に向けても言葉が届くような気がした。
お盆明けからはイベントに向けたクラウドファンディングも始まり、ささやかながら協力してからは、自分もイベントの一員になった気分になれた。前橋市が主催するクラフトやアートイベントとも連携して、どんどんフェス感が強くなっていく様子にも心躍った。
 
そして迎えた当日14時30分頃。最高の盛り上がりを見せている頃に会場に到着した。グリーンカーペットもといビニールシートにずらっと並んだ本の前にしゃがみ込み、1冊ずつ眺める。林真理子のエッセイ本の隣にはヨガの本、その隣には英語で書かれたガーデニングの本、更にその隣にはだるまと天狗の子供が描かれた絵本が並ぶ。あまりに混沌とした本の並びに、頭がくらくらしてくる。
「『燃えよ剣』はないんですか?」
「すみません、著者別に並んでいるわけではないので。お目当ての本があったら1冊ずつ探していただくしかないんです」
隣にいた若い男性が戸惑いながらプレートを下げた女性に声をかけている。どうやら女性はボランティアで、本を並べるのを手伝っているらしい。「分かる、混乱するよね」と心の中で男性に共感して気づいた。今までの本の選び方は婚活と同じだったということに。
 
Amazonであれ本屋であれ、本を買うときは小説、エッセイ、ビジネス書など、カテゴリー分けされた中から本を選んでいた。本屋なら書店員、AmazonならAIによってある程度セッティングされた中での選択肢しか目に入っていなかった。だから本屋に行っても興味のない棚の前には行かないし、フィルターをかけられたように目に入ってこない。
しかしこの会場はどうだ? 全く違うジャンルの本が隣に並んでいて、問答無用で目に入ってくる。いうならば選びたい放題の自由恋愛方式。今だって辻村深月の本を手に取ろうとしたはずなのに、隣の「月刊バレーボール」の表紙の大林素子が気になって仕方ない。何なら深月を捨てて素子に浮気しても良いし、二股をかけるのだって自由なのだ。この組み合わせだって、本屋やAmazonでは絶対にお目にかかれない組み合わせだと思う。この混沌さこそが思いもよらぬ出会いを生み出すのだ。
 
「お嬢さん、怖い話はお好きですか?」
ぼんやりとそんなことを考えている間に、年配の男性に声をかけられた。このイベントは個人でも出展できて、本を好きなだけ持ち込める。彼のブースを見てみると、出す作品がレンガ本と呼ばれる作者の本やイヤミスで有名な作家の本が所狭しと並んでいた。
「大好物です!」
「ではこれはどうですか? 殺し屋専門の食堂が出てくる話なのですが……」
「あ、これ漫画化もされてるやつですよね?」
しばらく頭の中には深月と素子がいたが、次第に二人の存在は消えていった。人の言葉で容易く心変わりしてしまう、これが恋愛ならば怒られてしまうところだ。しかし本の世界では出会いも別れも自由だ。同じく自分の直感を信じるのも、人に背中を押してもらうのも自由なはずだ。本の選び方って、こんなに自由で良いのかと目から鱗が落ちたような気分になって、私は時間いっぱいまで本を選んだ。
 
結局このイベントでは10冊の本を持ち帰った。イベント中に選書観が変わったおかげか、今まで読んだことのないジャンルの本が大半だった。他の人にも同じような気付きを与えるべく、ぜひ来年も開催してほしい。前橋BOOKFESよ、新しい本の選び方を教えてくれて、本とにありがとう!
 
 
 
 
***
 
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