勘違いしていた日本のおもてなし
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記事:林ゆり(ライティング・ゼミ10月コース)
「お・も・て・な・し、おもてなし」
2013年に東京五輪招致のプレゼンテーションで滝川クリステルさんが美しい笑顔で言ったこの言葉。当時はこの言葉をニュースで聞いた時に、日本は24時間営業のお店も多いし、接客業が他の国よりもすごいって聞くよなぁくらいに思っていた。
しかしアメリカに移住して3年、レストランやカフェ、スーパーやショッピングモールなどで接客をしてもらう機会はたくさんあったが、意外にも日本の接客はすごい、とは思わなかった。
アメリカでも、赤ちゃん連れだとベビーカーが置きやすい位置の席に通すなど気遣ってくれたり、メニューの説明を丁寧にしてくれたり、店員さんを呼びたい時にはアイコンタクトですぐに来てくれたり、日本と比べてサービスが悪いと感じることはあまりない。もちろん無愛想な人も中にはいるけれど、一概に日本の接客業が素晴らしくて、他の国は全然ダメということはなかった。
それでは日本の誇るおもてなしとは何なのか。アメリカで生活をしているとだんだん日本が恋しくなってきて、どこに日本の良さがあるのかみえてきた。
まずはお風呂とトイレ。アメリカではお風呂とトイレに仕切りがなく、洗面所、トイレ、シャワーとバスタブがセットとなって一つのBath roomになっているのが一般的だ。
これが日本育ちの私からするとプチストレスになる。
疲れている日や寒かった一日の終わりに温かい湯船に浸かることが至福の時間だった私にとって、シャワーだけで済ませる生活に慣れるのに時間がかかった。
最初は諦めきれずにバスタブにお湯を溜めたりもしたが、バスタブの材質的にすぐお湯が冷めてしまうし、シャワーカーテンが汚れやすく衛生的ではないなどの理由から、やっぱりシャワーだけの生活になってしまった。
トイレもウォシュレットや暖房便座はもちろんない。日本にいた時のトイレはお尻が温かくてホッと一息つける場所だったが、冬場のトイレは毎回お尻がヒヤッとするし、今はただ用を足すだけの場所となった。
数年前に知り合いのアメリカ人が日本に旅行で来た時にトイレの快適さに感動し、日本から個人でトイレを輸入したと聞いたことがある。今ならその気持ちがよく分かる。
追い焚き機能が付いたお風呂で半身浴しながらゆっくり読書ができていたのも、夜中に寝ぼけ眼でトイレに行って便座の温かさに安心したのも、浴室やトイレの日本のメーカーが、より快適に使えるために改良し続けてくれたお陰だと実感している。
またアメリカ生活の救世主で、日々お世話になっているお店はダイソーだ。
日本で100円で売られている商品が1.99ドルで購入できる。日本と同じ商品、同じ品質のものが約2ドルで購入できる安心感は大きい。
ダイソーと同じ品質のものをアメリカで購入しようとすると、物にもよるが2倍から10倍ほどの値段を出す必要がある。日本に住んでいた時からダイソーには頻繁に足を運んでいたものの、アメリカに来てさらにヘビーユーザーになった。
ヒヤッと冷たい便座対策で便座シート、激落ちくんのメラミンスポンジ、小皿や文房具など、高品質の消耗品がこの値段で手に入るのは改めて驚異的である。
日本人以外でもこの品質の良さを知ると虜になってしまう証拠に、店内はいつも賑わっており、コロナ禍の時は入場制限で長い行列ができていたほどだ。ダイソーに海外進出してくれて本当にありがとうと伝えたい。
日本が恋しいと言えば、日本でも大好きだったマクドナルドとスターバックスも、本場アメリカに来てメニューの違いに驚いた。
アメリカのマックには私の大好物だったてりやきマックバーガーやえびフィレオ、期間限定のバーガーなどがなく、メニューの数が圧倒的に少ない。いつもド定番のハンバーガーしかないので、メニューを見ながら今日はどれにしようか悩む楽しみや、もうすぐグラコロの季節だなとワクワクする楽しみがなくなってしまった。私の場合アメリカでマックに行くことは、すなわちビックマックかチーズバーガーを食べることを意味するようになった。
スターバックスも、日本では頻繁に期間限定ドリンクやフードが売り出されていて、お店の前を通ると必ず一度は試してみたいと思っていたし、今日は行かないと思っていても誘惑に負けそうになることが多かった。アメリカのスタバにも期間限定ドリンクはあるのだが、日本のものほど新鮮味がなく、今はわざわざ飲みに行くことはない。また日本のスタバにある旬のフルーツを贅沢に使ったフラペチーノは、アメリカでもし同じものがあったら値段が2倍くらいしそうなほどコスパがいいと感じる。
マクドナルドもスターバックスも、どちらも日本法人がオリジナリティを出してメニューを工夫しているお陰で、日々の生活がより楽しくなっていたのだと、一歩国外に出て初めて気づくことができた。
日本が誇るおもてなし文化とは、単純に営業時間の長さや表面的な接客だけを意味するものではなかった。
生活を支える根幹のところから、ちょっとした生活の質をあげてくれるものまで、日本はホスピタリティを感じるものに溢れているのだ。
先進国アメリカに住んでいてもそう思うのだから、どこの国からでも、外国人が日本に旅行に来たら、温かい便座のトイレに癒され、安くて高品質な日用品に驚き、楽しくて美味しい日本での食事を満喫するに違いない。
東京オリンピックは結果的に無観客で開催されることになってしまったが、また一人でも多くの観光客が日本を訪れ、本物のおもてなしを体感し、日本を好きになってくれたらいいと願っている。
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