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うちのインコは私になつかない 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木結美子(ライティング・ライブ名古屋会場)
 
 
あなたは鳥が好きだろうか。
鳥を「愛でる(めでる)」人種だろうか。
 
小学生のころ(1980年代)、洗濯ザオにセキセイインコのカゴをぶら下げて、日光浴をさせている家が近所にたくさんあった。
 
通学路のあちこちでインコのゴニョゴニョとしたおしゃべりの声がしたし、かなりの確率で友だちの家にはセキセイインコがいた。何軒に1軒は文鳥や十姉妹がいて、ときどき九官鳥のキューちゃんが、四角い竹カゴで飼われていた。
 
そして我が家にも黄色い赤目インコのピーちゃん(当時は「ルチノー」なんてかっこいい言い方はしなかった)がやってきた。
初めて飼ったインコはとにかくかわいかった。カゴのそうじをして、ハコベ(インコの好きな野草)をつんで帰り、毎日肩や手に乗せて愛でて、大切にした。ピーちゃんも私にとてもよくなついていた。
 
私は鳥が好きだ。
見て、カキカキをして、かわいいなぁ、面白いなぁ、と心から思う。
 
「人が鳥を好きかどうか」は、生まれつきのものだと思っている。
 
逆に、鳥は苦手という方もいるだろう。「鳥がいるから家に遊びに行けない」と人生で何度も言われたことがある。なぜ嫌いなのかを具体的に説明してくれる。まぁ、生まれつき好きではないのだろう。そして苦手な方は多分、タイトルに「鳥」と書かれている時点でこの文章を読んでいない気がする。
 
鳥を好きなのは家族で私だけで、同じ環境で育っても、年子の弟は興味を持たなかった。当時あれだけ鳥を飼っている家があったのに、鳥がすごく好き、という人は少数派だったと思う。
 
大人になって母親になって、10年程前、久しぶりに鳥を愛でたくて、コザクラインコをお迎えした。コザクラインコのサクラさんだ。羽根は緑、尾は青、顔はオレンジと美しい。
 
コザクラインコは「ラブバード」といわれ、自分のパートナーを決めると、一生愛しぬく。ヒナから粟玉を与えて育てたのは私なのに、サクラさんがパートナーに選んだのは、小学校に上がったばかりの次男だった。
 
次男もまた、鳥を生まれつき愛でる人種だった。
 
だが、次男は10歳の時、大きな病気をして、半年入院した。退院後も半年は免疫の低下で鳥を飼うのを禁止され、サクラさんは実家に預けていた。
次男はもともと友だちの多い子ではなかったし、脳の手術をしてからは、体力が落ちて眠ってばかりいて、表情も暗かった。
 
1年ぶりにサクラさんと再会ができると、次男は一気に明るくなる。サクラさんも「次男くん!」と全身で喜びを示し、そこからの仲良しぶりは本当にすごかった。学校から帰って眠るまで、いつもサクラさんと一緒にいて、お互いがお互いに大好きで、一体化しているみたいに見えた。
 
その後間もなく、諸事情により私は夫と離婚し、私と次男の二人暮らしが始まる。母親が家にいない時間が増えた。兄弟が別々に暮らすことになった。その間も、サクラさんがいてくれて、どんなに母子ともにありがたかったことか。
 
なのに次男が中学3年生の時、次男に恋をし続けたサクラさんは卵を産もうとして上手に産めなくて、突然、お空へいってしまった。その時の次男の様子を思い出すと今も胸が苦しい。
 
空いた大きな穴を埋めることは難しかった。新しい鳥を、と言い出すのもためらっていたが、コロナ禍となり、私が1ヶ月だけ在宅勤務になった。ヒナを迎えるなら今だ。ペットショップも閉まっていたから、何件も電話した。1羽だけいますとのこと、巡り合わせに感謝して、やってきたのがオカメインコのライムさんだ。
 
これまた私が粟玉をやってヒナから育てたのに、やっぱり次男にだけなついた。
 
ライムさんは、いつもビクビクして何かに驚いているので、若鳥なのにおじいさんみたいな顔をしている。オカメインコの怖がりな性格が強化されていて、人に触られるのを嫌がる。(なるほど、1羽だけ残っていたわけである)
 
人の指を怖がるが、次男のことは大好きで、肩に乗ってくっついていたいらしい。一方、私が近づくと、おびえた目で精一杯の威かくをしてくる。
 
もう仕方ないので、次男とライムさんの姿をいつも遠巻きに見て、セットで愛でることにした。
肩幅の広くなった高校三年生男子が、黄色いオカメインコを肩に乗せて生活しているのを眺めるのは、悪くない。
 
そして次男は、鳥を好きだという母が、こうも鳥に愛されないのが、嬉しくて仕方ない。理屈抜きで母より優位に立てるのが良いらしい。
 
なつかれないどころか、威かくされ、私のプライドはズタズタである。
生まれつき鳥が好きだが、うちのインコは私になつかない。
なぜだろう。
 
小学生の頃の私はピーちゃんが全てだった。でも今の私には、好きなこと、大切なこと、やらねばならないことがたくさんある。鳥を好きで、愛でる気持ちがあっても、君だけだよ!という気持ちが次男には勝てない。だから選ばれない、なつかれないのだと勝手に分析している。
 
次男もこれから世界が広がると、好きなこと、大切な人ができ、今みたいなライムさんとの濃い時間は減るだろうし、いずれはこの家を自立して出ていくだろう。
 
次男を思い出す時、いつも肩に鳥がいて、優しい笑顔で鳥と見つめ合っている。それは私にとって、一生ものの、とても幸福な記憶になるはずだ。
だから目に焼き付けておく。
 
でも本当は。
うちのインコになつかれたいのだが。
 
 
 
 
***
 
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