メディアグランプリ

人生に悩んでインドに行ったら悩みがどうでも良くなった話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小野汐里(ライティング・ゼミ京都会場)
 
 
「インドに行くと人生が変わるよ」
こんな言葉を聞いたことはないだろうか? まだ新型の例のウイルスが猛威を振るうはるか前のこと。私が大学生の頃、私の周りにはこういうことを言う人たちが何人もいた。にわかに世界一周ブームで、その類の本が書店の棚に並んでいた。休学してバックパックひとつを背負って世界を放浪する学生もたくさんいた。インドではなくても、例えば東南アジアとか、南米とか、中米とか……帰ってくるとみんな、目をキラキラさせて決まってこのセリフを言うのだ。
「行かないなんて人生、損してるよ」そこまで言われたら、私もなんとなく悔しくなってくる。
「何が得られるのさ?」と聞くと、間違いなくこの答えが返ってくる。
「行けばわかるから」
そういうわけで、私は友人Aと2人で意を決し、インドに行くことに決定した。南インドから北インドを約1週間かけ旅する。インドには、先に世界放浪系の書籍を読んで旅立った友人Bがいたので、現地で合流し、案内してもらえることになった。
 
田舎から出てきて大都会東京で1人暮らしていた私にとっても、インド行きはかなりの冒険だった。もう帰ってこられないのではないかと思って、出発前には泣きながら母親に電話した。
そして、考えられるだけの準備をした。当時のバックパッカーのバイブル「歩き方シリーズ」を熟読。インドでは、トイレに紙が無いと聞いていたので、トイレットペーパーの芯に荷造り紐を通し、首からかけられるようにした。これで、用を足しながら、自らがトイレットペーパーホルダーになるという自作アイテムが完成。さらに、インドでは物がよく壊れると聞いていたので、修繕アイテムとして強粘着のガムテープを持参した。これは、インドには風呂や洗面所の「栓」がなかったので、ガムテープで排水口を塞ぎ、水を貯めると洗濯に役立った。また、上から照明が落ちてきそうな時に補強できるなど本当に便利なアイテムだった。
 
インド行きの飛行機に乗り込むと、機内にカレーの匂いが充満していた。もう後戻りはできないと悟った……
 
現地に着くと、全てがカラフルで眩しかった。すっかりインド人のような風貌になった友人Bが出迎えてくれ、市場に合鍵を作りに行くというので早速ついていくことになった。合鍵店だと言う場所には、道端に机を出して、工具を持った老人が1人座っている。日本の駅で見かけるような合鍵を作る機械は見当たらない。友人が鍵を渡すと、まじまじと見つめた後、老人は手に持った金属の塊を「こんな感じかな〜」と言わんばかりにいきなり削り始める。目測で細かな溝が切り取られていく。わずかな時間で合鍵が完成。なんだろう、これは。その一瞬で完全に私は痺れた。インドマジックにかかった。「行けばわかる」と言っていた友人たちの、ニヤリ顔が目に浮かんだ。
 
さらにインドマジックは続く。インドの悪路を歩き続け、友人Aのスニーカーの底が、剥がれてしまった。当然、日本から替えの靴など持ってきてはいない。そこは夜行列車と長距離バスを乗り継いでたどり着いた海辺の小さな村で、都市部と違って靴屋もない。靴の修理屋だと聞かされた場所には同じように、簡単な道具を持った老人がいた。もう、予感しかない。修理したかった靴は、米国有名メーカーの靴底にエアーの入っているあのスニーカー。スニーカーを見るなり老人は、いきなりエアー部分に針を突き刺した。ブシューーー! 大きな音を立てて、スニーカーの底の空気が抜けていく……。しかし、「こんな感じかな〜」と言わんばかりに老人が縫い始めると、なぜか靴が完成。友人Aはその後も、帰国まで歩き続けることができた。やっぱりインドすごい。
 
インドの映画館にも行った。上映中は、お静かに。日本ではお決まりの上映前の注意事項だ。だが、そんな私のちっぽけな常識はインドでは通用しない。映画が盛り上がってくれば、スクリーンの前方へ人が集まってきて、映画に合わせてダンスが始まる。日本では、日本語吹き替えか、字幕かを選び、基本的には選択した言語で映画を見ることになるが、インドでは映画で俳優が話す言葉が、不思議なことにコロコロ変わった。ヒンディー語で話しているかと思えば、急に英語でリアクションを取ったりする。友人Bによれば、インドには多数の言語(約600とも言われているそう)を母語としている人たちがおり、シーンによって言語を変えて伝わりやすくしているのではないか、ということだ。日本語しか理解できない私にもなぜかストーリーが手に取るようにわかり、最後には感情移入して号泣していた。
 
インドに行って何が変わったか。合鍵はピッタリ同じものをコピーしなくてはだめだと思っていた。でも、相手の一番求めていることを満たすのが大切ということ(スピーディーに対応し、鍵が使えればよい)。エアーが売りのスニーカーのエアーを抜いてしまっても、快適な靴を提供してくれる修理屋は頼りになるということ。一部の人のための正しい言葉より、多くの人に伝わる言葉を選んで作られた映画は、感情を揺さぶるということ。
この感想だけ話しても、聞かされた人は多分なんのこっちゃ、と思うだろう。
 
そんな人に、私はきっとこう言うだろう。
「行けばわかるから」
 
 
 
 
***
 
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2022-12-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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