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電車を殺風景にしているのは僕だった


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記事:村人F (ライティング実践教室)
 
 
この世で1番殺風景なのは、朝の満員電車だろう。
見たことがないもの。
生きた顔をしている人を。
乗っている全員がうつろな目をしてスマホを眺めている。
爽やかな朝に全く似合わない光景が広がる空間だ。
 
こんなとこに閉じ込められて職場へ行けといわれたら、そりゃ嫌になる。
本当に殺風景だ。
 
ただ、そんな通勤・通学の電車もシチュエーション次第でドキドキ空間に早変わりする。
これを描いた小説が『早朝始発の殺風景』だ。
 
高校生の加藤木くんは早朝の始発電車に乗り込んだ。
普段は常識的な時間を選ぶが、この日はそういう事情があった。
しかし誰もいないと思っていた電車にはもう1人乗客がいた。
クラスメイトの女の子、殺風景だ(名字が殺風景)。
普段は話しかけない仲良くないタイプの人だが、こんな早朝始発電車に乗って通学する理由はなさそうである。
そして同じことを殺風景も思った。
2人は目的地の終点に着くまでの時間、お互いに理由を推理し合うゲームを始めた。
これが本作のあらすじである。
 
なんてときめきに溢れた車内なんだろう。
電車には高校生の男女が2人だけ。
しかも早朝。
絶対ロマンスが起こる。
さらに謎解きの過程でお互いのスマホを見せ合うんだから。
そして殺風景のメモ帳にレシピらしき事が書いてあって料理するのかなーとか思ったりする。
うらやましい空間だ!
こういう甘酸っぱい要素が、あの殺伐とした満員電車にもあればいいのに!
 
ただ改めて考えてみると、通勤ラッシュの車内を殺風景にしているのは、実は僕自身だったのかもしれない。
加藤木くんは早朝に乗ることで、いつもと違うドキドキ体験をしている。
ならば僕もわざわざ同じ時間のギュウギュウ詰めの車内を選ぶ必要はないわけである。
5分くらい早起きして、確実に座れる時間帯を狙うような戦略も取れるはずだ。
 
それだけじゃない。
電車の中も、いろんな要素がいっぱいある。
なにせたくさんの人がいるのだから、本作よりはるかに物語が詰まっている空間なのだ。
だから「なぜこんな服装で電車に乗っているんだ」といった面白そうな要素がいくらでも見つかるわけだ。
 
それなのに僕は満員電車を殺風景だと思う。
この理由は、つまらない空間だと決めつけて心を閉ざしているからだろう。
確かにギュウギュウで辛い空間だ。
しかし工夫次第でなんとかなる可能性もある。
 
乗る位置を変更したらどうなるか。
電車を1本前にしたらどうなるか。
決まりきった習慣のように見えて、変更できる箇所は思った以上にあるのだ。
 
そして、これらに気づかない理由は殺風景だと思い込んでいる自分にある。
それは自ら心を閉ざしているからであり、つまらない日々だと決めつけているから引き起こされる現象だ。
こんな状況では、満員電車にストレスしか感じないわけである。
 
これを打開するにはどうすればいいか。
本作はその道筋を示しているように思う。
疑問に思えばいいのだ。
 
なぜ早朝の始発電車に乗っているのだろう。
1本前の普通電車はどのくらい空いているのだろう。
前の人がずっと外を眺めている理由はなんだろう。
 
このように疑問に思えば、脳の動きが鋭くなる。
止まっていた頭が働き出すのだ。
すると、自然とドキドキするための回路も再起動を始める。
その目で電車を見回すと、いつもと違った世界が見えてくる。
 
外の光景も季節によって様変わりすることだろう。
春は桜がいっぱい見えるが、次の日には葉桜に変わっているかもしれない。
冬ならタイミングによって変化する雪の量に着目もできる。
 
他にも乗っている人々のストーリーを考え始めれば、想像以上に面白そうな話が思いつくことだろう。
なんてったって『早朝始発の殺風景』は登場人物2人だけでやってのけたのだ。
早朝+始発+男女2人。
何気ない電車の中も設定を変えるだけでドキドキの空間に早変わりするのである。
そして、この変更ができるのは小説の中だけではない。
僕もあなたも、毎日乗る満員電車の条件を変えることは容易にできる。
 
これは5分の早起きで済む工夫だ。
そうやって殺風景すぎて嫌だと思っていた空間を打破しようとすると、世界は新たな一面を見せてくれる。
 
それに満員電車の中にはたくさんの人がいるのだ。
彼らの背景に思いを巡らせば嫌なことしかないと思っていた通勤時間も、ちょっとしたエンターテイメントに早変わりする。
こういう工夫が日常を楽しくするのである。
僕も本作のように普段と少し違う行動を取り入れることで、一味違ったドキドキ空間を味わっていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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