「親の心子知らず」ではなく「子の心親知らず」なのだ
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記事:ちえみちえ(ライティング実践教室)
「お母さん、東京の大学に進学してもいい?」
息子が高校三年生の頃、進路を決めるときにそう言われたのが、三年前。
無事、東京の大学に合格、進学し、息子は大学三年生になり、学業に励んでいるようだ。
私は、息子が三ヵ月の時に、夫と死別し、シングルマザーで子育てしてきた。
東京で一人暮らしを始める息子と離れ離れになる二年以上前は、現実を受け止められず、寂しくて、涙を流してばかりいた。
でも、月日が経った今は、寂しさを通り越して、一人暮らしの自由さを満喫している。
年に数回、息子は帰って来るが、高校時代の友人と会う約束が多いようで、ゆっくり話をしたくても、会話が続かないのだ。
ただ、安心したのは、東京で一人暮らしの大学生活を楽しく過ごしていることだ。
「食事はどうしているんだろう?」
「病気にかかっていないだろうか?」
一方で、今でも心配ばかりしている自分がいる。
ある日、「どう? 元気?」
特に用事があるわけではなく、LINEでメッセージを送ると、一日経っても、二日経っても「既読」にならない……。
心配になり、携帯電話に電話をかけてみるが、繋がらない……。
「どうしたんだろう? 事故に巻き込まれたのかなあ?」
そんなネガティブな思考ばかり頭を駆け巡る。
折り返しの電話は待っていてもかかってこない……。
数日後、LINEがやっと既読になり、ほっとする。
そして、息子からLINEが来た!!
「大学の関係書類がそっちに届く。届いたらこっちに送って」
メッセージはそれだけである。
しばらく連絡が取れなかった詫びもなかったが、無事であることでほっとした。
その後、息子が依頼していた書類が郵送で届き、封筒に入れて、そのまま送り返そうとしたが、ふと考える。
「段ボールに入れて、お菓子と一緒に送ってあげよう!」
地元の百貨店で、いくつかお菓子を買い、書類と一緒に段ボールに詰める。一筆箋で「お菓子、良かったらどうぞ」と書いたものを荷物の一番上に置き、宅配便の発送を手配した。
翌日、息子からLINEが届いた。
「書類届いた。ありがとう」
んん? お菓子のお礼がないではないか?
と思いながら、私は「良かった」ということがわかるスタンプだけ送って、やり取り終了。
そして、また数日経ったある日、また息子からのLINE。
「米、送って~」
これは、東京で一人暮らしを始めてから毎度のこと。
数か月に一度、5キロの無洗米を某通信販売サイトから直接、息子の住所宛に送っている。
米が無事届いたことは、購入先のサイトから確認できるため、今まで、息子から届いた連絡があったことは一度もない。
でも、お米を炊飯器で炊いて、しっかり食べているという安心感は得られる。
さて、息子は、私に感謝の気持ちがあるのか?
あまりに事務的で、無機質なので、これから就職して、社会に出たら大丈夫かと不安になるのが親心なのだ。
心配になり、息子が高校時代のママ友に時々連絡してしまう。
息子とママ友の息子さんは大親友で、お互いの進学先は違うが、今でも頻繁に連絡を取り合っているらしい。
今年の春休みに息子が帰省した時にも、ママ友の自宅に泊まらせてもらい、お世話になったので、最近、お礼を兼ねて、彼女とランチをすることになった。
「うちの息子、礼儀がないし、世間知らずで、本当に申し訳ないです」
今までの私と息子とのやり取りを話しながらそう言うと、彼女から、私の息子の驚くべき事実を知ることになる。
「いっちゃんから、こちらにお菓子がたくさん贈られてきたよ。『先日はありがとうございました』って紙が入っていて、すごく嬉しかったよ。全然、世間知らずじゃないですよ」
いっちゃんとは息子のニックネームである。
私が知らない所で、そんなことをしていたなんて……。
私に一言も相談がなく、自らの意思で、しっかりお礼をしているではないか?!
昨年、20歳になった息子の成長を感じ、胸をなでおろした。
過干渉で両親に育てられた自分とつい重ね合わせてしまい、ついあれこれ一人息子に干渉したくなる自分を恥じた。
「親の心子知らず」と思っていたが、「子の心親知らず」なのだ。
これからも、息子を陰ながらそっと応援しよう。
しばらく連絡がなくても気にするのはやめよう。
息子に送るべき書類が届いたら、またお菓子などと一緒に送ってみよう。
いっちゃんからお礼の言葉なんていらない。
きっと、言葉で現わさなくても感謝しているのだから……。
息子の成長をそっと見守りながら、もっと私自身が成長していかなければならないと思う。
***
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