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いもむしを羽化させてみむとす ー物語の主人公になった気分でー


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:辻美惠(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
高校の古文。ほとんど寝ていたという人も、なにも覚えていないという人も、「よろづの虫の、恐ろしげなるを取り集めて」育てていた姫君の記憶はないだろうか?
その名も『虫めづる姫君』。
クラス担任が古文担当だったこともあり、文化祭はこの作品をもじった名前を屋台につけたくらいには、我がクラスで愛された話だった。
 
知らない人もいると思うので、簡単に説明する。
平安時代に書かれた『堤中納言物語』という短編集のなかの一編が『虫めづる姫君』だ。
年頃の娘にも関わらず、虫育てに夢中になって、容姿をまったく気にしないお姫様がいた。見た目を整えるように、と、苦言を呈されると、本質を見なきゃ、と返ってくる、というお話。
一般的に気持ち悪いとされがちな虫、見た目を綺麗に着飾る貴族、本質が綺麗なのはどっちなのか。
 
うーん深い。現代にも通じる。古典を読むと、人間の本質的なことは変わらないと思う。
ただ、姫君の独立心を好意的に読むのは最近の話のようだ。当時は風刺的に読んでいたらしい。
 
本当は綺麗らしい姫君と比べるのはおこがましいけど、私も普段は化粧もしないしテキトーな服を着ている。そう、見た目ではなく本質を見ようとしているのだ、と言ったらさすがに強引かしら。
 
おそろしげなるあらゆる虫を育ててみる気はさすがにないけど、いもむしをサナギにして、そこから羽化してくるところが見たいという気持ちはある。
一昨年の夏、ベランダのバジルにいもむしがついていた。気づいたときにはベランダの各所で繭化していた。
そこで私の欲望がむくむくとわいたのだ。
あと子供への情操教育の一環ね。
 
ある日の幼稚園からの帰り道、蝶が葉っぱの周りを飛んでいるのを見つけた。よくよく探すとあった! 卵! 子供ととって自宅の水槽に入れる。数日して小さい子が生まれた。可愛い。だがすぐに死んでしまった。
 
その後も購入した野菜についてきたいもむしを育ててみようとするも死んでしまう。
 
翌年再びバジルに付いていたいもむしも、水槽で育てると脱走してしまうのでベランダに置いておいたらお世話の頻度が減ってしまった。
 
難しい。ガーゼで蓋をして逃げないようにするとか、毎日葉っぱを変えるとか、やればいいのだろうとは思うのだけど、とにかく私は超がつくほどめんどうくさがり。命を育てているのにめんどうとは何事だ、とお叱りを受けるかもしれないが、そうは言ってもできないことはできない。 姫君ほどの熱心さは持ち合わせていなかった。
 
諦めかけていたある日、高校時代の友人のことを思い出した。
虫が好きで、今では養蚕を仕事にしている友人である。 彼女こそ虫めづる姫君と呼んでも過言ではないだろう。聞いてみない手はない。
かるーくメッセージを送ってみたところ、死体の状態まで確認された。さすがである。プロである。
 
 
・エサは新鮮な方が食いつきは良いから、葉物野菜をあげているなら毎日換えるのが無難
・そもそも野生の虫は病気を持っている可能性も高い(母子感染とかするものもある)し、そのへんの草にもそのへんの庭から殺虫剤が飛んできている可能性はある
 
 
エサを取り替えることを意識する。
とにかく私が世話しやすいのが大事だ、ということで、ジャム瓶に葉っぱといもむしを入れて、ゆるく蓋を閉めてキッチンカウンターに置くようにした。
これなら脱走しないし、エサもすぐあげられる。
 
それでも、少し葉っぱを放置してしまったり、外側の葉っぱを洗わずにあげてしまって殺虫剤の影響があったり、となかなかうまくいかなかった。
 
そしてとうとう先日、ようやくサナギ化した! 友人に喜びのメッセージと共に、サナギが蓋から落ちてしまったことに対しての懸念を送る。
 
 
・こういう形なら落ちても大丈夫だと思う
・他のサナギと接地面を揃えて葉っぱの上に置いたら良いかも
 
 
そう、4匹のサナギ化に成功したのだ。
1週間ほど経ったある日、なんかいる! 縞縞模様の、多分アブ!
 
子供と元気でね、と言って外に逃す。
数日後には別の子も羽化した。羽虫ではあるが最初の子とはだいぶ見た目が違う。
オスメスで異なるのか、そもそも別の種類なのか。
 
 
・抜け殻になったサナギがカパっと割れて、明らかにペラペラなら正常な羽化
・一部に穴が空いただけの比較的原型を留めている抜け殻なら寄生虫の可能性が高い
 
 
え、わからない。原型は留めている。もしかして、と思った数時間後、ちいさーい羽虫がわらわらとビンのなかにわいていた。
なになに? 残った大きいサナギを確認してみる。小さい穴がぽつんと空いていた。
これか。これが寄生虫か。
そして最後に残ったサナギは萎んでいて、おそらくもう羽化しないであろうことが予想された。
子供と中を確認してみる。2匹目と似た子がいた。
 
この子達とは別に、同時期に繭化したいもむしもいた。その子も無事に羽化し(多分蛾の仲間)、空に飛んでいった。
 
目的は達成した。寄生虫の事例まで見ることができて満足である。
きっと姫君もこうやって虫を観察することで、その奥深さに楽しさと美しさを覚えたに違いない。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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