教師を続けている理由
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:イモトアヤコ (ライティングゼミ4月コース)
『お前だれやねん』
と赴任したばっかりの中学校で、鋭い目をした頭がツンツンの少年に
メンチをきられながら言われた。
『お前がだれやねん』と大人げなく返したのがその少年との最初の会話である。
彼の名は翔平。
翔平は授業をさぼっていつも中庭のベンチで昼寝をしている。
来たい時に学校にきて、帰りたい時に帰る。
学校に赴任して2日目、翔平の昼ご飯を買ってきてくださいと学年主任から頼まれた。
なんで子どものパシリみたいなことをさせられるのかと内心イライラしながら焼きそばパンを買って、相談室にいる翔平のところへ持っていった。
ふてぶてしい態度を見てイライラが増し、やきそばパンを投げつけてしまった。
教師が食べ物を生徒に投げつけてはいけないって知っているけど、頭より先に身体が動いてしまったのだ。しかも私はつい先月まで映画の小道具をフリーランスでしていて、教師になるなんて1ミリも思っていなかった。大人をなめんなよと心の中で中指を立てていた。
そしてそのまま子ども同士のけんかの様になってしまった。
『投げてくんなや!』
『はぁ? 人にご飯買ってきてもらっといてその態度はないやろ』
『別に俺が頼んだわけちゃうしな』
『授業も出んとフラフラしてるんやったら家帰れよ!』
みたいな稚拙なやりとりの後、
落ち着いて将来の話しをし始めた。
中3の10月、ぼちぼち進路を決めなければならない時だった。
翔平は大工になりたいと言っていた。
私も子どもの頃は大工になりたかった。
そこから翔平とはよくしゃべるようになった。
そんな時、事件は起きた。
傷害事件だった。翔平は鑑別所に入った。
『大工になるための本』みたいなのを差し入れに持って行った。
翔平からは手紙が学校に届いた。
拙い文章と汚い字ではあったが、ゆっくりいろんなことを考えて書いた形跡のある
手紙だった。高校を受験するという内容だった。
なんとか受験に間に合い、高校に合格して、卒業シーズンに突入していた。
鑑別所から出てきてからは、いろいろ落ち着いて話ができるようになっていて、将来の相談にも乗った。
卒業遠足はUSJだった。行く前に翔平を呼んで、手のひらにニコちゃんマークをマジックで書いてやった。
『他校の子から、もしケンカ売られたら手のひらのニコちゃんマークを見て、ニコって笑うんやで』と言うと、
『こうやな』と言って、
手のひらのニコちゃんマークを私に突き出してニコって笑ってみせた。
そして卒業式、なんだかんだと10月からという中途半端な時期にその学校に赴任して、
翔平が一番関わった生徒だった。初めての卒業式、なんだか感慨深いものが込み上げてきた。
卒業式の時は、卒業証書をもらって階段を降りるとき、私の方に向かって手のひらを突き出しニコっと笑って通って行った。
その時教師の仕事も悪くないなと思えた。
子どもの成長する姿を見るのは面白い。
卒業したらもう生徒と会うことはないだろうと思っていた。
が、縁というのは不思議なものである。
卒業してから半年後の夏休み前に偶然道ででくわした。
『あっ! 先生! 何してんの?』
と声をかけられた。日に焼けた翔平がそこにいた。
その後立ち話をしていると、高校を辞めたいと言う。
高校を辞める事には全力で反対してみたが、辞めたいの一点張りだった。
辞めて何すんの?と聞くと、働くと答えたのでそんな甘い世界じゃないという話をコンコンと道で話した。
その時、ちょうど京都に『るろうに剣心』という映画の撮影で、とてもインパクトの強い大道具さんがスタッフにいたので、夏休みの間だけ弟子にしてもらえるように頼んでみた。働くことの大変さを知ってほしかったからだ。
夏休みの間、現場のボランティアスタッフとして翔平を送り込んだ。
働くしんどさを知れば、夏休み明けから高校に行くのではないかという私の企みだった。
しかし、そんなに甘くはなかった。自分の思惑通りにはいかないものである。
翔平はびっくりすることに、働くセンスが抜群にあった。
周りのスタッフにも15歳の少年はとってもかわいがられて、良く働いた。
そして夏休みが終わりに近づくころ、翔平がクランクアップまで働かせてほしいと志願してきた。全く私の思惑からは真反対の結果を招いてしまった。
そして翔平は高校を辞めた。
それから撮影がクランクアップした。その後どうすることやらと思っていたら、セットの塗装をする仕事をしている親方が翔平に声をかけてくれて、翔平は塗装部で仕事をすることになった。遅刻魔の翔平を親方は根気強く面倒見てくれた。
その5年後 20歳で塗装屋で独立した。
いろんな人に早すぎるだろうと言われたり、反対されながらでも彼は独立した。
そして現在28歳、先日、久しぶりに一緒にお酒を飲んだ。
右も左もわからなかった翔平が、月と太陽も同じ惑星やと思って生きていた青年が、
自分の軸で親方を立派に務め上げている。
人生って何が起こるかわからない。
人の出逢いで人生は大きく変わる。
一番最初の学校でもし翔平に会っていなかったら
教師を辞めていたかもしれない。
中学校から大人になるまで人が成長していく過程をあの時見れたからこそ
今も教師を続けているんだと思う。
そう、今見ている子だって今のままじゃ終わらない。
大人になってからの方が人生が長い。
一番最初の赴任先の学校を辞めるときに、離任式の挨拶で翔平の話をした。
『1人の生徒が私の人生を変えてくれました……』
***
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