メディアグランプリ

声が出ない店主のモーニングセットを食べて学んだこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ちえみちえ(ライティング実践教室)
 
 
「仕事が休みの日の朝食は、店でモーニングセットをゆっくり食べるのが最高ですね。どこか良い店ありますか?」
「近くに良い店があるよ。午前中だけ時々営業している喫茶店なんだけど、とにかく行ってみて!」
 
先日の知人との会話である。
店の場所と店名だけ教えてもらい、早速、モーニングを食べに一人で出掛けてみた。
事前にグーグルで口コミなどを見れば、どんなサプライズがあるかわかってしまいそうなので、あえて情報をインプットしないようにした。
 
おそるおそる店の中に入る。
「一人ですけど、空いていますか?」
すると、50代か60代と思われる細身で色黒の男性が厨房から出てきた。そして、手のひらを下にし、「待っていて」というような合図をされた。
 
テーブルにある前の客が食べ終えた食器を片付けてから、私に身振り手振りでテーブルに座るよう案内してくれた。
「なぜ、この店主は『いらっしゃいませ』の一言も言わないのだろう……?」
心の中でそう思いながら、メニューを見て、何にしようか考える。
店の中を見ると、黒板にチョークで丁寧に書かれたものを見つけた。
 
「手術で声が出なくなりました。耳は聴こえるので、ご注文やご用件を話してください」
 
黒板に書かれていた文字と身振り手振りの気遣いから、店主の「人となり」のようなものに少しだけ触れる。
 
「玉子サンドとアイスカフェオレをお願いします」
少し声を大きく、はっきりと店主に伝えた。
すると、親指と人差し指をくっつけて、OKサインをしてくれた。
 
その店は、カウンターはなく、二人位座れるテーブルが三セットだけある、古民家を改造したような小さな店である。
テレビはなく、店の中は静かであるが、他のテーブル席では、二人組の若い女性二人とカップルが楽しそうに談笑していた。
話し声は聴こえたが、さほど気にはならない。
 
私は静かに本を読んでいると、台所から卵を割る音が聴こえてきた。
一個、二個、三個……。六個くらいの卵を割る音が聴こえる。
んんん? サンドイッチにそんなに卵を入れるのか?
次に、フライパンで卵を焼く音が聴こえてきた。
香ばしく、心地よい匂いがする。
アイスカフェオレの氷を割る音、コーヒーを抽出する音と香りも狭い店に充満している。
 
待つことおよそ20分。
一人で座る私のテーブル席に、注文した物が運ばれてきた。
玉子サンドは本当に卵を六個使用したようだ。
レモンスライスも添えられている。
食パンから卵焼きがかなりはみ出していて、そのまま口に入れられないほどのボリュームだ。
アイスカフェオレもLサイズ以上のカップに入っている。
 
「美味しい……。中にマヨネーズも入っている。でも、すごいボリュームだ……。食べきれるだろうか?」
 
三十分位時間をかけて、ゆっくり食事している途中、他の客がやってきた。
満席の店内のため、店主は、両手でバツのサインをして断っている。
すると、少し急ぎがちに食べている私の姿を見て、携帯のホワイトボードを持ってきて、文字で伝えてきた。
 
「ゆっくり食べて」
そう書かれていて、気遣いに胸がいっぱいになった。
 
「ゆっくりおしゃべりして」
他のテーブル席には、こんな文字を書いて、笑顔で応対していた。
どうやら常連客のようだ。
 
最後にレモンスライスを残りのパンと卵焼きに絞ってから完食し、店主に「ごちそうさま」とお礼を言いながら、五百円を支払う。
手を合わせ、「ありがとう」の合図をする店主との別れを惜しみながら店を出た。
モーニングセットの価格も激安であるが、店主の気遣いと優しさに触れることができた。
 
健常者で日常生活を過ごしている自分自身を振り返る。
声が出るのに、相手にしっかり言葉で伝えないことが多い。
例えば、スーパーやコンビニで「レジ袋要りますか」と聞かれ、手で要らないという合図をしがちである。
また、ワイヤレスイヤホンで音楽をよく聴いている二十歳の息子は、未だに反抗期のようで、母親である私の話なんて聞こうとしない。
 
「聴こえている? 聴こえているならちゃんと答えてよ」
そんな会話は今まで数え切れないほどある。
 
今回、知人がこの喫茶店を勧めた訳がよくわかった。
前情報がなく行ってみたことで、多くの収穫を得ることが出来た。
 
声が出せないなら、それなりの接客をし、満足してもらえるサービスをしようという思いが伝わる喫茶店に出逢えて良かった。
近いうちに、次回は息子も誘って行ってみようと思う。
きっと、話を聴く、言葉で伝える大切さを身に染みて感じ取ってくれるに違いない。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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