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新解釈『桃太郎』

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田哲(ライティング・ゼミ6月コース)
※この記事はフィクションです。
 
 
どんぶらこ。どんぶらこ。
 
壁の外から音がする。
 
腕が細って皮膚が爛(ただ)れた少年は、何も見えない暗闇で、ただひたすらに座っている。下から滲み出るわずかな水分を啜り、壁を爪でこそいで貪(むさぼ)って、最低限の栄養を口にする。どんぶらこと流される果物の内側の狭い狭いその空間には、死ぬ方法すらない。生きる糧もないのに生きている。わずかな希望すら湧かぬ暗闇の中で、ただただ下を向いて、底なしの生を眺めているのだ。
 
どんぶらこ。どんぶらこ。
 
少年が桃の中に閉じ込められて、どれくらいの時間が経っただろう。ほんの少し前までは、父と母と島の端っこで細々と自給自足の平和な暮らしをしていた。ある宵に、島民が家に押しかけた。「ようやく正体を表したな反乱家族め」と謎の言いがかりをつけて、一家全員に手錠をかけた。
 
1人牢屋に閉じ込められた少年は、数週ぶりに外に連れ出される。目の前で父と母が十字架に磔にされていた。島民が溢れかえっている。見せしめにされているのだ。なぜ彼らの逆鱗に触れたのだろう。僕たちは何をしたのだろう。少年は泣き叫び、父と母の生存を懇願した。
 
「生きろ」
 
父と母は、少年に向かって、口を揃えて叫んだ。その一言を最後に、処刑人に金棒で顔面を潰されて父と母は死んだ。島民は笑っている。異端が死んで喜んでいる。少年の目には、島民たちの猟奇的な笑顔が、怪奇に吊り上がった目が、鬼のように見えた。
 
処刑人は、野次馬の一人が持っていた大きな桃を指差した。
 
「このガキをその桃に詰めて、海に流してしまおう。反乱分子の血が甘くおいしい実に生まれ変わるかもしれない」
 
妙案を思い浮かべて満足気な処刑人。すぐさま、桃の中をくり抜いて、少年は詰められた。そして、高い崖から海へ落とされた。
 
どんぶらこ。どんぶらこ。
 
あるおばあさんが海に大きな桃が流れているのを見つけた。おばあさんは、村から外れた海の近くの小さな家で、おじいさんと一緒に細々と自給自足で暮らしている。川に洗濯へ行く道中に、海に流れる桃を見つけたのだ。「なんと大きな桃であろうか。家に持って帰っておじいさんと一緒に食べよう」とおばあさんは背中に桃を担いで、家に帰った。
 
「おじいさん、海に桃が浮かんでいたよ」
「なんと大きな桃であろうか。今日の晩飯は豪勢じゃ」
 
早速、心を躍らせ晩御飯の準備に取り掛かる。桃の谷間から包丁を入れるとおじいさんは違和感に気づく。実に捌きがいのない桃だこと。それもそのはず、中身は空洞、少年が入っている。おじいさんがそっと二つに開いてみると、中には痩せ細った少年が、汚く座っている。少年は、目を血張らせて、おじいさんとおばさんを、鬼の形相で睨んだ。
 
「おっとたまげた」
「桃の中に人間が入っていたのかい」
「それにしても、随分と人を憎んでいるな」
「島流しにでもあったのかい」
「鬼ヶ島の連中だろう。あそこの島民は鬼畜しかいない」
「桃に閉じ込められ、辛かったろうに」
「あそこから逃げてこられたのがせめてもの救いじゃないか」
 
少年は、久々の光にとてつもない頭痛を起こしながら、畳み掛けられた優しさにぼんやりと包まれる。声はほとんど聞こえずに、少年には老夫婦の優しい笑顔だけが見える。桃の中で人を恨み憎み、殺してやろうと常に思っていた少年にとって、老夫婦のの優しさは唯一の薬だったかもしれない。
 
「何という名前なんだい」
「名前は忘れた」
「では、桃から出てきたから、桃太郎というのはどうだろう」
「それでいい」
 
どんぶらこ。どんぶらこ。
 
流れる波のようにあっという間に10年が過ぎる。桃太郎は、おじいさんとおばあさんのもとで大きく育った。2人の優しさに包まれて、平和にすくすくと。そんな生活とは裏腹に、鬼ヶ島の島民たちへの恨みつらみもふつふつと育った。
 
「いつか俺の手で、人間の皮を被ったあの鬼たちを根絶やしにしてやろう」
「やめておきなさい。人間は恨みで生きちゃあ幸せにはなれないよ」
「私たちの息子夫婦も島民たちに捕まった。それでも優しく生きている」
「たまに砂浜に便箋が落ちているんだ」
「島の端っこで、迫害を避けながら、必死で孫を育てているらしい」
 
桃太郎は顔をこわばらせた。
 
「二人の名は?」
「龍之介と桜子」
 
桃太郎は、おじいさんおばあさんの息子夫婦こそ、殺された父母であることを知った。
 
桃太郎は立ち上がった。復讐の決意をしたのだ。
 
鬼たちにも何か正義があったのかもしれない。だが優しい人間が虐げられる世界が許せない。父と母が何をしたかなどどうでもいい。父母を殺した鬼たちを。おじいさん、おばあさんを悲しませた鬼たちを。何があっても許さない。桃太郎は恨みに呪われて。巾着袋を腰に巻き、きびだんごを忍ばせて、いざ鬼ヶ島を目指し立ち上がる。
 
人間の皮を被った鬼たちへ。桃太郎の復讐活劇。いざ開幕でございます。
 
続きは、またどこかで語るといたしましょう。
 
 
 
 
***
 
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2023-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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