メディアグランプリ

逮捕された既読スルー常習犯


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:近藤やすこ(2023年・年末集中コース)
 
 
「めっちゃ疲れた。でも、今日も充実した1日だった!」
時が経った炭酸水のように程よい刺激の余韻の中に浸りながら、私は今日1日を思い出していた。
 
年末集中特別講座「人生が変わる文章教室」3日目。
私は講座を終えた後、そのまま天狼院のカフェに残り、2000字の記事と4時間も戦い続けた。見事ミッションをクリアしたことで、少しテンション高めに自分のアジトに帰ってきた。
 
戦いを終えた戦士は、朝入れたコーヒーをレンジで温め、無防備な姿でキッチンの椅子に座りこんだ。
 
次の瞬間、LINEの着信音が鳴った。
タタタタタタタン、タタタタタタタン……
 
発信者の名前を見て、一瞬、電話にでるべきか躊躇した。
しかし、今回の私は電話にでない選択肢は選ばなかった。
 
「あっ、もしもし?」半分照れ笑い。
「お~、やすこ! 元気だった?」と少し酔っぱらった声と居酒屋の雑音が心地よく聞こえてくる。
 
電話の発信者は、保育園、小学校、中学校をともに過ごした幼馴染のじゅんやからだった。
私の人生の舞台から久しく遠のいていた登場人物。
私たちは理由のない笑いで空白時間を埋めていった。
 
「やすこ、ゆうぞう覚えてる? ゆうぞうがやすこと話したいって。電話、変わるね」
「ゆうぞう? うっ、うん……」
「もしもしやすこ? 元気だった? オレさ、今、じゅんやたちと飲んでて、やすこの話もでて、だから連絡したんだよ。元気だった? オレさ、やすこと会いたいからさ、だから、東京に行くからさ、みんなで飲もうよ! じゃ、じゅんやに代わるね」
 
と久しぶりとは思えない酔いを利用した至近距離からの会話に懐かしさを感じた。
例えて言うなら、氷がいっきに解けて、薄まった記憶をまたすぐに飲み干し、濃い思い出をぶっこんできた感じだ。私たちは数分もたたず、あの頃の幼馴染に戻っていた。
 
「あっ、やすこ? ゆうぞうも言っていたけど、みんなで会おうよ! オレ、何度も関東在住メンバーのグループLINEでメッセージを送ったんだよ! なのに、返信してくれるのはいつも同じメンバーばっかりでさ」
 
この話、ちくんっと心が痛んだ。
私はじゅんやがみんなに送ってくれるLINEメッセージを見ても、ほとんど返信をしたことがなかったからだ。
 
「じゅんや、ごめんね! LINEのメッセージはちゃんと見ていたよ! でも、メンバーの中にはあんまり知らない人もいるし、まっ、いいかって思っちゃって。だから、いつも返信しなかったんだ」と正直に伝えた。
 
「オレさ、悲しかったんだよ。何回もメッセージ入れても返事こないからさ」
 
「ごめん、ごめん! わたしがじゅんやの立場だったら心折れたわ!」
 
「ほんと、心折れたよ」
 
子どもの時と変わらない、まっすぐなじゅんや。
 
私たちはそれぞれの人生の舞台で、色々な登場人物と出会い、嬉しいことも、辛いことも、悲しいことも、楽しいことも経験してきた。
 
そして、段々と経験値が上がる度に、本音と建て前を巧妙に使い分け、聞き分けの良い大人へと量産されてきたはずだ。
 
私はいつもじゅんやから送られてくるLINEメッセージを確認はしていた。
でも、なんだか返信する気にはなれなかった。
 
グループLINEの登録者は全員地元メンバーだったが、あまり話したことがない人もいて、少しだけ居心地の悪さを感じていたのだ。何より私ごときが返信しなくても誰も気には留めないだろうと思い込んでいたからだ。完全なる既読スルー。
 
「じゅんや、本当にありがとう。ずっと連絡してなかったのに、なんか電話くれてすごく癒された。もう、何年も経っているのに、なんか、私のことを思い出して、電話もくれて、すごく嬉しかった」
 
じゅんやの思わぬ優しさは、こじらせ女子の心をまっすぐにした。
 
「だってさ、会いたいと思ったからだよ。オレらの周りも、急に亡くなっちゃう人とかいるじゃん。ひとはいつどうなるか分からないから、自分の気持ちを正直に伝えることが大切なんだよ。きくさんにも連絡するし、みんなで会おう」
 
この数年、ほとんど会わなかった幼馴染の言葉は、私が今大切にしている言葉とシンクロしていた。感情が動き、なみだ声で、私はみんなに会うことをじゅんやと約束した。
 
2020年新型コロナウイルスの出現により、私たちは、今日、元気な人が明日も元気とは限らないことを知った。突然の別れはありうる話なのだ。
 
大切な人には、自分の本当の気持ちを言葉で伝えることの重要性を学んだはずだ。
 
それなのに、自分の小さなプライドに捕らわれ、私のことを大切に思ってくれている存在に気づくことができなかった。
 
そして、不覚にも、何年も、何年も、既読スルーという存在だけをLINE画面に残してきたのだ。
 
でも、気づかなければいけなかったことは、私もみんなに会いたいという自分の本心だったのではないだろうか。
 
私は既読スルー常習犯。
 
そして、今日、友情という罠にかかり、やっと自分の本当の気持ちを捕らえることができた。
 
私はみんなに会いたいのだ。
大人になったみんなに会えるのを楽しみにしている。
 
 
 
 
***
 
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2024-01-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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