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Bucket list


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:あき(ライティング・ゼミ12月コース)

50を過ぎると、人生を半分折り返したという実感が強くなる。あとどれくらい生きるかなど分からないとはいえ、それでも自分に残された時間のことを意識せずにはいられなくなる。

先日、兄が一度行ってみたかった鰻屋があるというので一緒に出かけたところ、定休日でないのに閉まっていた。普段穏やかな兄が「ふざけるな!」と激しく悔しがるのを見て、ああこれは、片道3時間かけてここまで鰻を食べに来ることはもうできないじゃないか! という怒りなんだと理解した。人生の残り時間を意識すると、逃した機会の重みが違って感じられるのだ。

確かに、若い頃は機会を逃すことに割と無頓着だったと、自分を振り返って思う。次のチャンスがまた来ると、根拠もなく信じることが出来た。

「今度でいいよ」
「また来ればいいよ」
「今日じゃなくてもいいんじゃない」

何度となく無邪気に口にしてきた。

これからはこれらの発言は封印しよう。人生の残り時間をもっと大切にしよう。

そんなことを考えていた時、同世代の友人とバケット・リストの話になった。

バケット・リスト――― 死ぬまでにやりたいことを書いたリスト。言い換えれば、やっておかないと後悔しそうなことを書くリスト。

これからの人生を有意義に生きるために、私たちも作ってみようということになった。その時は作れる気がしたのだ。

ところが、いざ作ろうとするとこれがなかなか難しい。最初は、夢を見る力が足りないのかとか計画する能力が弱いのかとか思ってみたが、それだけではない、何か障害があると感じた。

――― わかった。条件が多いのだ。「死ぬまでにやりたいこと」で「今の時点でやれていないこと」、加えて「やらないと死ぬ時に後悔しそうなこと」の3条件を満たす何かを思いつかないのだ。

いつかやってみたいと思うことなら、ある。オーロラを自分の目で見てみたい、京都にセカンドハウスを持ちたい、豪華客船の旅をしたい。でも、やらなくても後悔しない自信がある。これでは「叶わなかった夢リスト」になる可能性が高い。死の床で「これもあれもやらなかった」と後悔するためのリストを眺めるなんて嫌だ。

死ぬまでにやっておかないと後悔しそうなのは片付けだが、これだって家族がなんとかしてくれるだろう。

現実的に考えると、前後開脚ができるようになる、赤岳登頂、持ち運びできる楽器をマスターする、キッチンのフルリフォームなどだろうか。でもこれではTo doリストだ。バケット・リストってつまるところ長期的なTo doリストなの?

「違いますよ、暁子さん」
最近思い切って仕事を辞め、現在「好きなことしかしていない」という香奈から答えが出た。

「そうなの?」

「そうです。バケット・リストというのは、作ることに意味があるんですよ」
自信たっぷりに香奈が言う。

「バケット・リストを作る時には、自分のリミッターを外すんです。出来るとか出来ないとか関係なく、やりたかったことややってみたいことを書くことで、現実の自分から解放されるんです」

「え、じゃあ、リストに書いたこと実現しなくていいの?」

「いいんです」

「それじゃあバケット・リストって死ぬ時に後悔するリストにならない?」

「自分の本当の気持ちに気づくことができればいいんですよ。その中に実現したい夢があればすればいいんです。これが本当にやりたかったんだって分かれば、実現させようというモティベーションも上がるでしょう?」

香奈のおかげでバケット・リストの謎が解けた。To do リストでも無責任な夢想リストでもない、本当の自分の望みを見つけるためのリスト。持ち歩けるように小さな手帳を準備して、もう一度新鮮な気持ちで考える。

50才を超えた今の私が本当にしたいことってなんだろう?

バケット・リスト作成開始から半年後に、最初にバケット・リストの話をした友人を訪ね、彼女が住む県を旅した。こんな風に時間を気にせず一緒に過ごすのは、大学を卒業してから30年ぶりだ。気のおけない友人との時間は何ものにも換えがたく、宝物のような思い出に満ちた3日間になった。

数日後に友人から手紙が届いた。「会いにきてくれてありがとう」の続きに書いてあったメッセージに思わず笑みがこぼれる。

実は、バケット・リストの話をした後、最初に思いついたから、「暁子と一緒に私の住む県を旅行する」って書いたんだ。無理かなって思ったけどね。そうしたら「行くからね」ってメールが来てびっくりした。こんなに早く実現しちゃうなんて。

――― まさか同じことをリストに書いていたとは。さすが長年の友人。

手帳を開いて、「友人に会いに行く」の横に丸をつけた。タスク完了ならチェックマークだが、リピートしたい項目には丸をつけることにした。

私のバケット・リストにこれから何が加わるかは分からない。でも、この手帳があれば、本当にやりたいことを忘れずに残りの人生を生きていける気がしている。日常に押し流されそうな時、自分に戻ってくるためのバケット・リスト。

週末兄に会う時、小さな手帳をプレゼントしよう。

***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2024-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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