「ピンク」じゃない桜の花びらからの教え
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小松原 啓加(ライティング・ゼミ4月コース)
「新年度って、忙しすぎない……?」
当たり前だ。新年度は誰だって忙しい。
しかし、4月が始まったばかりの私にそんなことを考える余裕はなかった。
社会人になって二年目の春。私は張り切って令和6年度を迎えていた。
人間、お正月には新年の抱負を立てるように、節目節目でなんとなく気合が入るものだ。
一通りの仕事を覚えて、できることも増えたし、新天地での生活にも慣れた。
今年はより結果を出すことを意識して、プライベートも充実させていこう。
そう意気込んでスタートを切ったが、思いのほか落ち着かない日々が続いていた。
新入社員をフォローアップし、関係先へあいさつ回りに行くとあっという間に一日が終わる。
デスクワークの時間が足りず、ToDoリストにはタスクを追加するばかりで一向に消化できない。
結果として休日出勤し、残りの時間で家事をこなしてライティング・ゼミの課題をなんとか提出する。
「充実」といえば聞こえはいいかもしれないが、ずっと目に見えない何かに追われている感覚だった。
どうしてもっと上手くやれないんだろう。
自分のタイムマネジメント能力の低さを悔しく思いながら、慌ただしい毎日を過ごしていた。
「川沿いの桜がきれいだよ。いい写真が撮れる」
ある日、職場でそんな話があがっているのを聞いた。
ああ、そうか。世間ではもう桜が咲き始めていたんだった。
職場近くを流れる川の土手には、数百メートルにわたって桜並木がある。
前からお花見スポットだとは知っていたが、いざ開花の時期になってからは忙しくなり、車で通勤するときに横目で一瞬見る程度だった。
散歩がてら行ってみようか。
ふと、そんな気になった。本能的に自然からの癒しを求めたのかもしれない。
晴れた日に少しの時間を見つけ、愛用のミラーレスカメラを片手に川沿いへと向かった。
まだ八分咲きだなと思っていたソメイヨシノは、いつの間にか満開になっていた。
まずは桜並木の端から全体が見渡せる位置を探し、シャッターを切る。
土手に生える青々とした草、桜、そして春の青空が心地よいバランスで画面の中に収まっていた。
次は枝の先端に咲く花をアップで撮ろう。
そう思いながら木に近づいて、ハッとした。
「え」
白い。
グッと顔を近づけてみる。
桜の花びらは、ピンクではなかった。
雌しべと雄しべがある花の中心は濃いピンク色だ。しかし、一つひとつの花を形作っている小指の先ほどの花びらは、むしろ白に近い。遠くから見た桜の色と似て非なるものだった。
カメラを持つ手を下ろし、しばし見つめてしまう。
ソメイヨシノという木全体を見ればいわゆる「桜の色」である淡いピンク色だが、花びら単体で目に映るのは白。
遠くから見ただけではわからなかった、小さく新鮮な発見だった。
二十数年間生きてきて、桜は毎年咲いていたのに、そんなことにも気づかなかったのか。
そう思った瞬間、ふっと肩の力が抜けた気がした。
その拍子に、新年度になって走り続けてきた自分がやっと立ち止まったのがわかった。
社会人二年目になるんだから。もう新人ではないんだから、しっかり成果を出さなきゃ。
せっかくライティングの講座を受けるのなら、課題は全部提出しなきゃ。
振り返れば、最近はそうやって自分で自分を追い込んでしまっていた。
桜の花びらを眺めながら、ずっと張りつめていた心も客観的に眺める。
ヘマをした愛犬に向かって話しかけるように、しょうがないなあと内心で笑う。
「桜なんだから、ピンクだろう」
そんな風に、仕事でもプライベートでも忙しさを理由に、様々なことを通り過ぎるだけで決めつけていたのかもしれない。
気にも留めていなかったのかもしれないし、時には見逃していたのかもしれない。
それだって前を向いてがむしゃらに頑張った証なのだから、否定する必要はないのだと思う。
ただ、突然転んで大けがをしてしまう前に。
立ち止まって、桜の花びらを眺められるような余裕を。
いつでも花びらの白さに気づけるようなゆとりを。
新年度は誰だって忙しい。当たり前だ。人によっては4月が過ぎても忙しい。五月病、なんて言葉もある。
だからこそ、今回この記事を書いた。
わたしは今年の桜からの教えを、これから毎年春がやって来る度に思い出すのだろう。
あなたにとっての「桜」は食べものかもしれないし、誰かとの会話かもしれない。
何であれ、これを読んでいるあなたがもし忙しさに追われていても、立ち止まることのできるきっかけがありますように。
わたしたちの歩む道はまだまだ続いていくのだから。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168
■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」
〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325