人生を1年更新にしてみた話
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:にいみひろこ(ライティング・ゼミ4月コース)
「ん~~、気持ちいい~! また1年、よろしくお願いします!」
目の前では、オレンジ色の光を放つ太陽が昇り始めた。部屋からバルコニーに出て、手を大きく広げ、胸いっぱいの新鮮な空気を吸い込みながらつぶやいた。
今年も誕生日が来た。
人生を1年更新にしようと思ってから、3度目の更新の日だ。
2年前の誕生日(つまり、最初の更新の日)に、私はこの部屋へ引っ越してきた。
古いマンションをリノベーションしてあるこの部屋に入ると、最初に目につくのは窓からの眺めだ。南側と東側の大きな窓からは、遠くの山並みまで一望できる。視界を遮る高い建物がないのだ。
さらに、その東側のとりわけ大きな窓の外には、軽く10人ほどが広がってラジオ体操ができるほどのバルコニーがあって、そこからは、北東南の三方の眺めと、なによりも広い空が手に入る。
夜明け前、大きな空は深い青色で、地上との境目はだんだんとオレンジ色に染まっていく。大きな宇宙を感じる空だ。その後、オレンジ色はだんだんと強くなり、太陽が顔を出したとたん部屋中に朝日が差し込む。
ここに住んでから、私は薄いレース以外、ほぼカーテンを閉めなくなった。ここは「朝日を浴びる部屋」なのだ。
特に天気のいいそんな朝は、私に今日1日を悔いなく生きようと思わせてくれる。
4年前の誕生日が過ぎたばかりのある日、社会人になった同居中の息子から手紙をもらった。
普通なら、「今まで一人で大変な思いをして育ててくれてありがとう」とでも言ってもらえそうなところなのに。
え? 何でこんなことになるの?
頭ではわかっていた。これは、息子が前に進むために必要なことだと。今は私を否定して、自立をすることが必要なのだと。ただ、親としてやってきたことがあまりにばかばかしくて、今まで何のために生きてきたのかがわからなくなった。あまりに哀しくて、むなしくて、やってられない……と思った。
だったら、次の誕生日はちょうど還暦になるし、還暦が元に還るって意味なら、お空に還ろう……そう思った。
そこから誕生日までのカウントダウンをはじめ、「還る日までの350日生き方プロジェクト」と題し、やることリストを書き出した。
・ お世話になった方々への感謝の手紙
・ 子供たちへの感謝を伝える
・ 子供たちとの思い出づくり。できれば旅行
・ しばらく会ってない人とメッセージのやりとりをしたら、必ず会うようにする
・ 家を処分することになるかも。見積もり取っておく
・ なるべく荷物を減らす
・ 赤いドレスとパンプスで還暦の記念撮影(遺影に使う)…… 等々。
そうやって、悔いが残らないように意識して過ごした。
結果的には、息子ともいろんな話ができ、誕生日にお空に還る必要はなくなった。やることリストの出来なかったことも多かったけれど、終わりを決めていたおかげで充実した350日を過ごすことができた。
そんなことがあって、これからは人生を1年更新にしようと決めたのだった。
次の1年は、大きな大きな断捨離が待っていた。家だ。
既に亡くなった父や兄の思いも背負って、大黒柱として子供たちと母を養うために建てた家だった。いろんな思い出や思いのつまった家だった。
それでもなかなか手放す決心がつかなかったとき、またしても気遣っていることがばかばかしいと思うことが起こった。今度は、娘だった。親として、ただ、良かれとの思いだけなのに……。そう思ったとき、数年前に亡くなった母の声が聞こえた気がした。
「ひろ、もういいんだよ。これまでよく頑張ったね。これからは、あなたが好きなように生きていいよ」
そうか、なかなか先に進めないのは私だったのか。子供たちを守らないと! と、知らない間に親としての責任を感じすぎていたのかも……。
そう気づいた直後に、あの「朝日を浴びる部屋」に出会った。そして、あっという間に家も売却できて、私は新たな生活へと突入したのだ。
この2年、私は、空と対話しながら暮らしている。
空が火事にでもなったかのような朝焼けや、空にまっすぐの道ができている光景に感動したり、バルコニーに寝っ転がって月や星を眺めたりしている。
夏至から冬至までの太陽が顔を出す位置もわかるようになった。
日の出の瞬間は、何度見ても感動し、飽きることがない。
毎日毎日を楽しむ豊かさを手に入れた。
また1年、人生を更新した。さぁ、この1年をどう過ごそう?
人生に区切りをつけて生きようとすると、今やっておかないといけないことが見えてくる。
誰に感謝を伝えないといけないか、誰と対話しないといけないか、本当にやりたいことはなんなのか……。
1年更新は、そんな意味で、なかなかいいシステムじゃないだろうか?
まだまだ、できないこともたくさんあるけれど、それを意識してやってみようとすることが、今日を生きることのような気がしている。
***
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