福祉業界は上級職なのかもしれない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:村上舞(ライティング・ゼミ6月コース)
エニックスの名作ゲーム、『ドラゴンクエスト』はお好きですか? ドラクエの職業選択の所(ダーマ神殿)で、最初は選べない職業がありますよね? パラディンとか、賢者とか、いわゆる上級職と呼ばれる職業たち。私は介護の仕事は上級職なんじゃないかとここ数年、特にそう思っている。数年前、ある人が「介護は出来ない」と苦笑していた。その時の私は福祉業界8年目だったが、「3K(キツイ・キタナイ・給料安い)のイメージをお持ちなのかな」という感想のみ持った。右肩上がりの需要しかない業界だが、常に人手が足りていない。仕事に何を求めるかは人それぞれだが、個人的にはこんなに楽しい仕事もない、と思っている。
昔、小学4年生の頃、絶対作家になりたいと思っていた。その頃ちょうど村上龍氏の『十三歳のハローワーク』という本が流行っていた。話題の本だったので、我が家では父が早速買い込んできて、お前コレ読んでみろ面白いかもしれないぞ、と渡してきた。飛びついた私はすぐさま目次を開いて、作家に該当するページを探した。ない。あれっ? すると目次の一番最後に該当項目を見つけた。なんでこんな後ろの方なんだろ。不思議に思いながらページを開くとそこにはだいたい以下のようなことが書いてあった。
『作家という仕事はいつだって、やろうと思えばできてしまう。将来のある君たちには、いきなり作家という道に入らず、いつでもできる、位の思いでいてほしい。そしてその他のいろいろな興味のある仕事にまずは取り組んでみてほしい』
うろ覚えだがだいたい上記のような内容だった。(この人は作家なのに、ふぅん、へんなの)そんなふうに思いながら私は本を閉じた。その頃、大人のしている仕事を見ていると2種類あるように見えていた。才能か、時間。大人達はそのどちらかを差し出して仕事をしているのだ、よな? 幼い私はそんなふうに考えていた。実際に就職を決める頃、才能という言葉には本当に振り回された。自分はどれに適性があるのか一つもわからず、「大きくなりたい」が口癖だった。焦りからだろう、と今ならわかる。唯一、文字との相性が良い、とわかっていた事だけは幸いだった。そしてざっくばらんな意見をくれる大人たちに囲まれていたのも運が良かった。学友達の溜まり場だった喫茶店のママとパパ、常連さんたち(人生の大先輩)は揃って「バカだなぁ」と大笑いしたあと、悩める青少年だった私に言った。「現場飛び込め。話はそれから。じゃないとお前になんの才能があるのか誰にもわからん」と。その賢き助言のあと、私は印刷業界に飛び込んだ。
印刷会社に勤めている頃、初めて『ワークライフバランス』という言葉に出会った。最近では当たり前のように新聞等の記事でも見かけるようになった。しかしその言葉の持つ意味は、私が幼い頃『仕事』というものに抱いていたイメージとは少し違っていた。1980年代に生まれた私が持っていた仕事に対するイメージは『24時間働けますか?』や『モーレツお父さん!』という言葉である。その代表例として私ならX JAPANのYOSHIKIを挙げる。私はX JAPANのファンだが、彼の働き方についてはドン引きしている。基本的に寝ない。若い頃からの習慣であまり寝なくても済む体質なのだそうな。その働きぶりを見ていると本当に頭が下がる、のはあるのだが、あそこまでやれと言われてもできないし、(うへぇ、そこまで頑張るのやめてくれよ、自分が馬鹿らしくなる。そして体を大事にしてくれ。マジで。頼むから)と思う。彼は日本を代表する素晴らしい芸術家で、尊敬すべき社会人で、人格者でもある、とは思うけれど、その働き方は参考には出来ないし、したくない。間違ってもあのようになれとは、自分にも、そして他の誰に対しても、絶対に言えない。
私の専攻である仏教では中道というものが説かれている。ご存じの方もいるかもしれない。何事につけても、やり過ぎもやらなさ過ぎもだめで、程よいところを行け、というような考え方だ。これがどうにも難しい。これは心の持ちようにも当てはまる。他人を責め過ぎても責めなさすぎてもだめ。同じように自分を責めすぎても責めなさすぎてもいけない。なんと難しいことを云うのか。『他人とも自分とも程よい所』の基準とはなんなのか。相手との距離感のことなら、これはもう同じ人間と長い事付き合い続けてみるしかない。なので私はSNSを殆どしない。SNSは人様との距離感が分かりづらい。人によって利用頻度も違えば、ネットマナーの基準もバラバラだ。付き合う範囲をむやみに広げない。『友達百人できるかな?』という歌に対して、「大変すぎてそんなに作ったら自分が潰れる」と言うのが、私の出した結論である。
最後になるが、70年以上、田畑を作って暮らしてきた賢人が素敵な微笑み付きで聞かせてくれた話を。『仕事はな、一気にやろうとするな? な? 小分けにしてやれ? ん? わかったかい? 一気にやるのは自分がダメになるからな。南瓜をな、一気に三十個も持てんべ? せいぜい、ひとつか、二つ。頑張っても三つだな? 落っことして南瓜が割れたら売り物にならんべや。せーーーっかく春から種まいて、草取りも水やりも毎日ちゃーーんとして、めんこいなあと思いながら作ってもサ、最後の最後に気が急いて落っことして割っちまったら、自分も悲しいし、南瓜にも悪いことしたな〜ってなるべ? わかるかい? それと同じサ』と。私の今の生活のもろもろは、かなりの割合でそういった長く生きた賢人たちの言葉で支えられている。有難いことにそういう話をたんと聴ける職場にいる。経験談はなによりの宝、そう思っている。
世の中にも自分にも絶対は無く常に揺れ動く中で、人生は感情や記憶の波を行きつ戻りつしながら、ゆ〜らゆ〜らと、進むような進まないような、そんな曖昧でふわっとした感じでいつか終わりが来るのかナ、なんてことも併せて思いつつ。
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