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つまらない飲み会から「しれっと帰れる人」はこの能力が高かった

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:まこと(ライティング特講)
 
 
「すみません、今日はもう帰ります。つまらないので」
 
そう言ってサッと席を立って店から出ていった片桐さんを驚きと羨望の眼差して見送る。
「やっぱすげえ……」
 
片桐さんは判断が早く迷いがない。
彼女の凛とした姿は、仕事だけでなく、人生のさまざまな局面においても変わらない。長年連れ添った夫との関係に終止符を打つという決断でさえも一瞬だった。
 
自らの人生を舵取りし、どんな荒波にも動じない強さを持っている。普通の人なら立ち止まって悩んでしまうようなことも、彼女は確信を持って突き進んでいく。そんな彼女の姿は、周りの人に勇気を与え、何よりも「自分らしさ」を追求する大切さを教えてくれる……。
 
いや、そんな人はいない。全て僕の妄想である。
 
でもこうやって飲み会でサッと席を立って帰れたらすげえよなって思う。しびれちゃうよ。
嫌われるか変人扱いでいい人以外は片桐さんみたいにはできない。
 
とはいえ、だ。
「つまらない飲み会」にダラダラと居続けることほど非生産的なことはない。酒がうまい、メシがうまい、会話が面白い。どれか一つでも満たされていれば、いる意味もあるんだけど、三つともダメなとき、僕は「つまらない」「早く帰りたい」と思う。
 
飲み会の最中、こんな風に思ってる人は僕以外に何人くらいいるのだろうか。10人に1人だったとしても、忘年会や歓送迎会シーズンであれば膨大な人数の「つまらない」「早く帰りたい」というネガティブな思念が日本上空に渦巻いていることになる。
 
この思念、記録をたどれば奈良時代から1300年くらいずっと蓄積されている。万葉集でも有名な山上憶良なんて飲み会から帰りたくて和歌を残したくらいだ。どういう奴だよ……。
 
1300年間ずっと蓄積されたネガティブな思念は、ある夜突如として東京の高層ビル群上空で紫色の光となり、巨大な嵐のようにエネルギーの渦として広がる。科学者たちはこの現象を「共鳴する集合的無意識の渦」と名付ける。
 
上空に漂うこのエネルギー体は、通信や日常の電子機器に干渉を及ぼし始める。渦が極限まで大きくなれば交通システムや金融ネットワークに至るまで社会全体のインフラが一斉にクラッシュするだろう。
 
それだけじゃない。弾けたエネルギーは日本中に拡散し、社会全体の不安と絶望が増幅される。日本人全員がまるで自らの内面の闇に呑み込まれるような感覚を覚え、集団パニックへと突入。単なる物理的な破壊だけでなく、精神の崩壊が現実の秩序を脅かすようになるのだ。

こんなクソみたいにくだらない話に付き合ってくれる飲み会なら朝まで座ってるんだけど。
「もう帰りたいです」
この一言を上手に言い出すスキルを体得することなく、もう成人してから20年以上が経過している。その間に失った無駄な時間を考えると、上空に自分の思念がモクモクと溜まっていくのが分かる。ああ、もうやめやめ。
「行かなきゃいいじゃん」という指摘はちょっと違ってて、別に飲み会が嫌いなわけではなく、楽しみたいという気持ちはあるし、いろんな人と話もしたいという意思もある上で「つまらない」時にはさっさと帰りたいんだよね。
なんやかんや理由をくっつけてさっさと帰るということはできる。
・風邪・どこかが痛い
・翌日の早朝移動・健康診断・試験
・荷物が届く・子供・家族の誕生日
 
だけど、毎回こんなことやってると「あいつはいつも誰かの誕生日」とか「常に荷物が届くやつ」などという不思議なレッテルを貼られるし、一番ネックになりやすいのは支払いなんだよね。途中で帰って「あいつ金払わないで帰りやがった」みたいになるのも嫌だし。
 
結局のところ、こういった問題は僕が「スパイごっこ」と呼ぶ一連のプレイによって、しれっと帰れる率を上げられることが分かってきている。具体的には「事前工作」と、当日の幾つかの工夫だ。
 
「その日は21時で帰らないといけないんです、理由は……」
 
まず前もって幹事や参加する人たちにもそれとなく言っておく。なんならついでに「調整さん」の備考欄にでも書いておく。
 
事前の宣言であれば、じっくりと理由を考えてから伝えられる。途中で帰る前提で、お金も先に幹事に渡し、参加して意外に面白かったら理由のところを「なくなった」とか適当なことを言ってしまえばいいのだ。
 
21時で帰るべきところを、予定がなくなって長くいるとなれば「帰らせたくない勢」からも「この人は自分たちと一緒に飲んでくれる」と、低かった期待値を上方向に裏切れるので心象がプラスに動く。
 
このあたりのコントロールをしつつ、帰るときには堂々と「じゃあ、また」と、後ろめたさなど微塵も匂わせずに立ち去るのだ。
 
だが実はそれだけでは不十分。「事前工作」をした上で、さらに当日の「席の位置」と「荷物の量」が重要だ。
 
まず大前提として、入り口に近い方が帰りたいタイミングで席を立つのに都合がいいのは疑いようがない。ただ、年長者であったりするほど奥へ奥へと追いやられていくのがこの国ではマナーとされ、「帰りたい」時に牢獄のように機能してしまうことがある。
 
つまり事前に作った「先に帰る人」という認識は、事前のみならず当日の席決めの段階でも念押しする必要がある。「今日先に帰りますから」と言って、比較的入り口に近い位置に座る努力をしなければならない。スパイにとって逃げ道の確保は取り分け重要だ。
 
あとは荷物。帰るべきタイミングでしれっと立ち去るには、できる限り軽装がいい。理想はスマホ1台だけポケットに入れて飲み会に来ること。冬服がかさむ場合は、なるべく入り口に近い位置の壁にかけたりすると動作に無駄がない。そう、スパイに無駄な装備は不要である。
 
事前工作によって「先に帰る人」という認識を形成し、お金も支払い済み。帰りやすい席を確保して荷物も最小限。あとはゴルゴ13よろしく機を見て店を飛び出し、仕掛けた爆弾の起爆スイッチを押すつもりになって離れた場所へ急ぐ。
 
こうやって「しれっと帰る」。必要なのは優秀なスパイの能力なのだ。
 
とまあ、こんな与太話に付き合ってくれる飲み会なら帰りたくはならない。
 
 
 
 
***

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2025-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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