結婚12年目 結婚指輪をそっと外す
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記事:緒莉香(ライティング・ゼミ 通信専用コース)
「もう、限界だ……」
私は、左手薬指の指輪をそっと外した。
大きなため息が出る。
過去、何度か危ないことはあった。
子ども達を妊娠している時も、危機的状態に陥ることもあったが、なんとか指輪を外さなくてすんだ。
意味はちょっと違うかもしれないが、産後クライシスも乗り越えた。
なのに今回は。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……。
耐えられないくらい、悪化させてしまった……。
私は、思い当たることを探し出すために、胸に手をおいて考えてみた。
今年の梅雨あたりから、私は気分が落ち込むことが多かった。
3月くらいはとてもやる気に満ちあふれていた。やりたい事も沢山でてきて、実際に新しく始めたこともあった。
それが急にしぼんでしまった。
今までにないようなテンションの上がり方だったので、その反動がでたのだろうか。
空気の抜けたボールのように、まったく弾まず。へこんでいた。
それに加え、この夏の暑さだ。
ダブルパンチだ。
気分もへこみ、体調もすぐれず、イライラすることが多くなった。
ストレスだ。
これだ、これがいけなかった。
ストレスをうまく発散できず、やってはいけないことで爆発をさせてしまった。
今さらだが、後悔ばかり浮かんできた。
あの時、あんなことをしなければ、今、こんなに悲しい思いをしなくてすんだのに……。
私にとって指輪は最後の砦だ。
貴金属は全部外さないといけない検査の時ぐらいしか、結婚指輪をはずしたことがない。
それだけ大切な物だ。
長年つけ続け、もう体の一部と言ってもいいくらいだ。
世の中には、早くに結婚指輪を外し、新しい指輪につけかえる人も多いようだが、私は嫌だ。
歳を重ねても今の結婚指輪をつけ続けたい。
あまり貴金属を身につけない私は、指輪を自分で買うということはほとんどなかった。
なので、結婚前に宝石屋で指輪を選ぶのは、とても新鮮だった。
小さいけれど、石もついているし、指輪の裏側に文字も掘ってもらった。
うれしいけれど、少し恥ずかしい気持ちもした。
大事にしようと心の中で誓った。
私は鞄から、もらってきた用紙を広げる。
説明をよく読んで、埋められるところから書き込もうとする。
でも、ペンが進まない。
本当に私にできるのか?
まだ幼い子どももいる。
お金や時間の問題もある。
悶々とした時間が流れて行き、どうにも八方ふさがりの状態になってしまったので、私は腹をくくった。
相談しよう。
子どもの事もあるので、同居している義母に聞いてもらおう。
なによりも、指輪を外した経験者である。
“自分”ではなく、“知り合いの知り合い”という形で、義母に話をしてみた。
「お義母さん、ちょっと話を聞いてください……」
静かに聞いていた義母は言った。
「子どもがまだ小さいんだったら、他にも方法があるんじゃないかしら」
やはり、考えていた通りの答えだ。
娘がもう少し大きければいいのだが、まだ2歳だ。
ママ、ママと甘え盛りだ。
聞きづらかったが、指輪についても聞いてみた。
結婚何年目で外したのか。
「15年目くらいかしらね」
たしか、義母は25歳くらいで結婚したので、40歳くらいで結婚指輪を外したのか。
今の私と同じくらいだ。
40代というのは、変化の年なのだろうか。
若いときとはいろいろと変わってくる。
自分自身もだが、関わってくるものもかわってくる。
身軽に行動をうつしにくくなってくる。
ふむふむと、私がいろいろと考えていたときに
「Y(私の息子)がね」
と義母が思い出したように言った。
「お母さんが4kg太ったって言ってたけど、元が細いからそうは見えないわね」
……あぁ、知っていたのか、お義母さん。
……息子よ。なぜペラペラそういう事を言いふらすんだ。
もう、いいや。全部話そう。その方が楽だ。
人に言った方が、減量もうまくいくかもしれない。
「そうなんです。この夏に太ったんですよ」
と私はせきを切ったように話し出した。
妊娠していたときは10kg近くは太ったのに、指輪をなんとか外さなくてすんだこと。
(たぶん、お腹の方に増加が集中し、指周りはそこまで肉がつかなかったと思われる)
今回は、3、4kgにもかかわらず、太り方が若いときとちがうこと。
むくむ様な太り方で、指輪がきつくなり、指に食い込み赤くなってしまったこと。
このままつけておくと、皮膚科のお世話にならないといけなくなりそうだったので、外したこと。
それでスポーツジムとか、ヨガとか通うか迷っていたこと。
それらを一気に話した。
スッキリした。
「背中に肉が付いたら、落ちにくくなるわよ~」
と、脅された。
「どうしようもなかったら、2時間ぐらいならS(私の娘)を見ててあげるわよ」
と、義母が言ってくれた。
ありがとうございます。
とりあえずは、甘いものと炭水化物を控えることと、一日一万歩歩くことから始めることにした。
薬指の赤いかぶれが治った後、もう一度結婚指輪をはめる時私の体はどうなっているか。
駄目だったら、なし崩しのように体重の増加の危険性がある。
結婚指輪の外れた薬指を見ながら、今日もこつこつ歩いている。
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