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メディアグランプリ

私、彼に対してどうしても譲れない条件があるんです。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木よしえ(ライティング・ゼミ 日曜コース)

 
 
私は、彼のことが大好きだった。
 
最初に会った時から、私はどきどきしていた。初めて彼と出かけた時はとても緊張したけれど、それ以上に楽しい時間が過ごせた。もっともっとこれからいろんなところに行ったりしたいと、素直に思った。だから、これから彼と時間を共有できると分かった時は、本当に嬉しかった。
 
彼は私にいろんな世界を教えてくれた。時には友達と、ある時には両親とも出かけた。一方で、私が落ち込んで泣いている時には、ただ黙って同じ時間を過ごしてくれた。
彼はもう私の生活の一部になっていた。ずっとこのまま一緒にいられたらいいなと思っていた。
 
でも、いつからだっただろうか。
私は次第に彼に物足りなさを感じるようになっていった。彼も私に不満を訴えるようになった。気がつけば彼と出会ってから13年が経とうとしていた。
彼は少しも悪くないのに。
彼は私にたくさんの経験と楽しさを与えてくれたのに。
 
色々考えた末、私は思い切って彼とさよならすることに決めた。そのタイミングは次の車検前にしようと、そこまで具体的に決めた。
 
そう、彼とは私の愛車である。
 
車の免許証を取得する前から購入を決めていた、シルバーのコンパクトカー。しかも、マニュアル。スピードによって左手でシフトレバーをこくんこくんと変えて運転する、今となっては珍しいタイプの車だ。
 
幼い頃、ぬいぐるみや人形よりも超合金のロボットや乗り物が好きだった私。マニュアルを運転する大人が全員かっこよく見えて、「大人になったら、私も絶対に車を運転する」と決めていた。私の中では、車を運転することはマニュアルを運転すること。だからオートマを選ぶなんて、微塵も考えていなかった。
 
でも、私がマニュアル車を買うというと、周りはざわざわし始めた。
「なんでよりによってマニュアル車なんかを……」
「渋滞の時の運転、すごく面倒臭いよ」
「買うとき、選べる車が少ないよ」
いろんなことをアドバイスしてもらった。でも、周りになんと言われようと、私自身が魅力的だと思えないものを買うなんて冗談じゃないと思っていた。
 
彼とさよならするときにも、「次も絶対にマニュアル車を買うんだ」と決めていた。でも、近年はマニュアル車を展開している車種が非常に少ない。それに、個人的にかっこいいと思える車があまりなかった。かっこいい車は絶対にあるはず。単に私が知らないだけだと、そう思った。早速、Facebookのタイムラインにこんな投稿をしてみた。
 
『アウトドア派ではないけれど、SUV(スポーツ用多目的車)で、MT車を探しています』
 
すると以前の職場でお世話になった方からコメントをいただいた。車の詳しい性能はよく分かっていなかったが、勧められた車種がとにかく外見がかっこいいと思った。ウェブサイトに掲載されていた、その車の試乗レポも読んでみた。
 
なんかこの車、すごそうだ。
試乗レポはその日以来、何度も何度も読み返した。その車が気になって仕方がなくなっていた。でも、我が家の駐車スペースには、その車種は収まらなかった。憧れのSUVはあきらめることにし、同じメーカーの別車種の購入を考えるようになった。
 
そう決めたら私は居ても立ってもいられなくなり、試乗を申し込んだ。マニュアル車を試乗できるのは、県内の44店舗でわずか2店舗。予約がすぐに取れなかったらどうしようと思っていたが、あっさりと希望の日時に予約が取れてしまった。実際に聞いた話だが、試乗したいという問い合わせをしてきた人が100人いたとして、マニュアルを希望する人は2人くらいだそうだ。
 
試乗当日。コンパクトカーとはいえ、それまで乗っていた車よりも大きく、外見は申し分ないくらいかっこ良かった。緊張して運転席に座る。自分をしっかりと包んでくれるような安心感があった。ハンドル周りは、コックピットみたいでパイロットにでもなったような気分だった。もう、エンジンボタンを押す前からワクワクしていた。
 
実際に走ると、本当に運転していて楽しかった。特に、アクセルは足の裏全体でペダルを踏み込むタイプで、高級車を運転しているようで気分が良かった。コンパクトカーでこのタイプのペダルを採用しているのは珍しい。
これで高速を走ってみたい! 長距離を運転してみたい!
私の妄想は広がるばかりだった。
 
即決だった。新しい彼も一目惚れだった。
 
新しい彼は外見がかっこいいし、ディーゼルエンジンなのでガソリン代がかなり抑えられる。アクセルは踏みやすいし、何よりぐんぐん加速していく力強さが楽しい。外見だけでなく、インテリアもかっこいい。新しい彼を見た友人はみな、口を揃えて「コンパクトカーとは思えない」と褒めてくれた。何だか恥ずかしいけれど、褒めてくれると気分が良かった。
 
でも、実際に契約してから、少しだけ寂しさも感じた。何しろ10年以上の時間をともに過ごしてくれた彼。私に車で出かける楽しさを教えてくれたのは、紛れもなく彼だった。
 
一人になりたい時には彼のもとへ行った。好きな音楽を流しながら、あてもなく出かけるのも良い気分転換だった。洗車するのも楽しかった。高速で出かけた翌日に、車体にこびりついた虫を掃除しながら、彼をねぎらった。新しい彼が私のところに来るまで、できる限り大事にした。
 
新しい彼と時間を過ごすようになって、もうすぐ3年になる。そろそろ車検だ。私は電車通勤だし、週末は県内を走るくらいだし、彼にとっては今の状況が物足りないだろう。高速を走るのも連休くらいだ。きっと、走行距離が少なくて、整備をしてくれるお兄さんに「もっと乗ってあげてください」と言われるだろう。
 
それでも私は、これからも車を手放すつもりはない。休みの日にはできるだけたくさん運転したい。そして、メーカーが生産してくれる限り、マニュアルを運転すると決めている。「自分が運転しているんだ」と強く感じることができるからだ。
 
さて、そろそろ夏休みのドライブの予定を立てよう。
今年の夏休みはどこに行こうか?

 
 
***

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2018-06-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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