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初恋の夏祭り


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:戸崎いずみ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 
「広末涼子の曲を歌います!」
中学一年生の夏休み、地域の夏祭りのステージに立って私は勢いよく言った。
その夏祭りは、小学校の校庭で毎年8月の最初の日曜に開催される。地元の子ども達はその夏祭りに必ず参加する。中学校に入学した1年目の夏休み。このお祭りに彼が来るであろうと予想した私は密かに練習を重ねていたのだ。
 
夏祭りのステージは、赤と白のシマシマの垂れ幕が下がり、提灯がステージから校庭の端っこまで四方に張り巡らされていて、以外と立派なステージである。
ステージの高さはちょうど、バスケットゴールの高さほどあり、ステージに立つと校庭にいる人達が見渡せた。
暗くなると、抽選会や盆踊りがあるのだが、夕方から日が暮れるまでの間は、前半は小さい子達のラムネ早飲み競争が開催され、後半は地域の住民がお年寄りから子どもまで参加するカラオケ大会になる。
 
私は歌が正直上手い方では無かった。
小さい頃から、音痴! だとか、自分の音程で歌を楽しむ耳をしているとか、さんざん家族から罵倒されていた。
家で鼻歌を歌う時にまで家族に色々と言われるので、自分が歌が下手なことは知っていた。
 
でも、この大会にはどうしても参加するしかなかったのだ。
 
その理由はと言うと、とても単純で、好きな男の子に気にして欲しかったからだった。当時私は中学1年生で初めて好きな人ができた。その男の子とは小学校が一緒だったのだが、中学に入学するまで、その子の存在を知らなかった。
小学生の時は、ちょっと遅いかも知れないが、恋という感情を知らなかったので、同姓にしか興味が無かった。異性は同じクラスになって始めて覚える、他のクラスの子を覚えているのは、持久走大会で1番になったとかそう言ったことで目立つ子だけだった。
 
中学生になるまで学年で身長がたぶん一番高かった私は、異性を子どもにしか見れなかったということもあったと思う。その頃、私は違う方向で大人びていた。違う方向というと、司馬遼太郎の小説を好み、幕末の本に熱中していた。憧れているのは、芸能人ではなく、新撰組の副長の土方歳三で、るろうに険心の剣の構えを真似して遊ぶ変な女の子だった。歴女という言葉はその頃はまだあまり言われていなかったので、変な女の子という表現が一番しっくりくると思う。習い事は剣道で、女の子のファッションにも疎かったので、母の服のお下がりを着ていた。クラスの女の子からは戸崎さんは独特のファッションだと言われていた。
音楽に対しても特定のジャンル以外はアンテナが低く、その頃に人気絶頂だったパフィーを知らなかったので、親友から心から心配され、ピアノの前で何度もアジアの純真? のサビのメロディーを弾かれて、「とざ、ホントに知らないの?」と何度も聞かれた。
 
そんな感じだったので、恋愛にも本気で興味が無かった。まわりの女友達は、小学校4年生くらいから好きな男の子の話題でいっぱいだったので、私はいつも聞き役に徹していた。
 
そんな私がある日から、恋をした。ある日からその男の子のことばかり考えるようになった。部活の子にも、その男の子のことばかり話していたので、戸崎さんはきっと彼のことが好きなんだと言われていた。でも、先程説明した様に私は変な女の子だったので、彼にどうアプローチしたら良いのかさっぱりわからなかった。
給食の時間に、彼が好きな芸能人が広末涼子だということを話していたのを聞き、必死でその名前を頭に記憶した。家に帰って、本屋さんに行って雑誌を買いに行った。そして、広末の写真を切り取り、美容室に持っていって、初めて髪をショートカットにした。
 
実は、校則を破ってパーマもかけた。
 
すっかり広末になった気分になった。
 
そんなことをしていたら、自分も広末のファンになってしまった。
広末ファンを公言するようになり、母が広末のミュージックビデオを録画してくれた。
そのビデオを何度も何度も観ていた内に、歌詞やメロディーをすっかり記憶してしまった。
 
苦手だった歌が、初めて家族から上手いと言われた。
そこで私は彼にアプローチする方法はこれしかない! と決意し、カラオケ大会に出場することに決めたのだ。
 
カラオケ大会当日は、近所のおばあちゃんに協力してもらい浴衣を着付けてもらった。
そしていよいよカラオケ大会で自分の出番になった。
 
ステージから彼の姿を確認できた!
私は人生で初めて大勢の人前で歌った。
 
胸がドキドキして、口から心臓が出てきそうな吐き気を感じた。
結果、その恋は叶わなかった。歌は彼には届かず、聴いていたクラスメートからは「戸崎さん、声が高いね」と言われた。
 
ステージで緊張し過ぎて、上手く歌うことができなかったのだ。
 
こんな残念な結果に終わった私の初恋の夏休みだったが、その経験から私は学生時代から社会人になった今でも広末の歌をカラオケでめちゃくちゃ堂々と歌うことができるようになった。広末ファンだと言う人からも「上手い!」と褒めてもらえる。
 
音痴からは卒業できたのだ。
 
今もお祭りのステージを見かけるとこの思い出を思い出す。今となっては、良い思い出だ。

 
 
***

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2018-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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