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やっぱり人は見た目だ!


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記事:國正 珠緒(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
 
 「だってタマちゃんはニキビないじゃない!」
小学校の6年の時に一番仲良しだった女友達が私に向けて放った言葉だ。
普通なら女子にとって、言われて嬉しい言葉のはずだ。
でもこれは決して褒め言葉ではなかった。
「ニキビがなくてきれいでいいね!」ではなく「ニキビもできないお子様ね!」
という意味だったのだ。
 
彼女はおっとりとした雰囲気、小麦色の肌で笑顔の可愛い美人さんで、早熟で女性らしい体型で、かなり男子からモテた。そんな彼女の額にはしょっちゅうニキビが2、3個できていて、多分気にしていたのだと思う。
 
 私はといえば正反対。パンツを履いていれば男の子と間違えられるような体型で、顔は普通。でも色白で肌はツルツルだった。
 
 彼女がそんなことを言ったのは何かで言い争いになり、自分が一番気にしてることを捨てゼリフのように言っただけだったと思う。
しかし、本当に幼稚だった私はニキビの1つか2つくらいある方が大人っぽくってカッコいいのだと勘違いしてしまったのだ。
 
 
 この勘違いがそれから約15年以上も私を苦しめることになろうとは12歳の私が想像できるはずもなかった。
 
 
 その些細な口論から一年ほど経ったある日、いつものように6時半に起きて洗面所に行き顔を洗った。あれ? 額になんか違和感!
鏡を見た! おおっ! たしかにそこには赤い中にぽつんと黄色い点のある小さなニキビが額の真ん中にあった!
 
「やった! これで私も大人の女の仲間入りだ!」
  
 ニキビは大人の勲章のようなものだったので、大事にした。あまり丁寧に洗わないようにした。大好きなチョコもいっぱい食べてみた。結果にコミットするニキビ倍増計画である。
 思春期にさしかかった私のおでこにニキビがびっしりと出るのにそれほど時間はかからなかった。そのうち頬のあたりにもできてきた。
 
 中学2年になる頃にはニキビは顔中に広がってしまった。さすがにその頃には治したくて皮膚科にも通って、硫黄臭いお薬をもらったりしたけど、あまり良くならなかった。
 
 
 ある日学校の帰りに少し混んだバスに乗ってつり革につかまっていると、前の席に座っている5歳くらいの男の子が私のことを指差して母親に何か言っていた。その母親は男の子の目を片手で隠してその子を抱きかかえるように立ち上がり、後ろの方に移動して行った。
 
 「キモ〜い!」小学生の軍団はもっと露骨で残酷だった。
 
 鏡をみると、私の顔にはほとんど隙間なくニキビがあり、ひどいところは二階建になっていて顔も地腫れしていた。
 
 
 そしてこの頃には私はもう一つ肌の病気が始まっていた。アトピーだ。真っ赤な顔はニキビだけで埋め尽くされているわけではなく、地腫れしている部分は実はアトピーだった。ニキビの治療とアトピーの治療はほぼ真逆で、その頃からはどちらかがよくなるとどちらかが悪くなるという連鎖が続いた。
 
 
 人に指差されたり、高校では隣に座った男子に、ずっと横を向いたまま顔を合わせてもらえなかったりもした。
 
 
 色々ショックなことを言われたり、されたりしたこともあったが、根が割と楽天的という性格が救いで、ギリギリ登校拒否にならずになんとか大学まで卒業した。
 
 
 その頃にはニキビの割合は少なくなっていたけれど、アトピーが酷くなり、元の形がわからないほど顔は赤く腫れていた。
 
 さすがに会社では露骨なイジメはなかったが、なんとなく避けられているような気がすることもあった。
 
 社会に出て数年たった頃、私はある外注の設計事務所の人とお酒を飲みに行った。
12歳年上だから30半ば過ぎていた彼はヒヨッコの私から見たら実務の経験が豊富で、色々なことを教えてくれる頼りになる人だった。
 
 
 お互いに日本酒が好きということもあり意気投合して、終電間近まで飲んだ帰りの別れ際、その人は「寒いね」と私の手を握った。12月だった。繋いだその手を彼のコートのポケットに入れた。
 
 
 「初めて電話を受けた時から好きだった」と言われた。「ポンポンとテンポよく話す感じ、時々ユーモアがある話し方。何より仕事熱心なこと。その雰囲気が最初の電話から伝わってきて、好きになってしまった」というような事を言われた。取引先の若い女の子だということでそれまで言い出せずにいたらしい。
 
 
 仕事のことで尊敬していた人からコクられたのだ、断る理由などない。即決答えはイエス。お付き合いすることになった。
 
 
 彼はちょっと白髪も出始めていておじさんっぽいところもあったけど、とにかく話が楽しかった。
 
 キスの長さの好み以外はほとんど趣味も合ったので年の差も感じなくなった。
 
 付き合い始めて3ヶ月ほどたったある日、新宿中央公園で待ち合わせた。手を振って近づいて行くと……
 
「なんで春だというのに暑っ苦しいタイツなんか履いてるんだ!」
 
 大人な彼としては珍しく感情的だった。しかもタイツくらいで……。
 
 
 「だって朝晩結構寒いじゃない」とか答えてその件はそれで終わった。でもわたしは男心をわかっていなかったのだ! 全然!
 
 
 それからしばらくして、会社の同僚(男性)と新宿中央公園を歩く事があったのでタイツの話をしてみた。彼は「ふふっ」って笑って「そんなこと言うんだあ」ってちょっと茶化すような目で私を見た。「だって國正さんの脚とっても綺麗だからね。その彼は春になったのにきれいな脚がタイツで隠れてたから残念だったんだよ。でもそんなこと言ったらヤラシイって思われるから素直に言えなかったんじゃない?」なるほどぉ。
 
 
 実はこの頃からだんだんに、顔のことで冷やかされたり、気持ち悪がられたりする事が減っていった。実際の顔の肌の症状はそれほど変わっていなかったのに。
 
 
 中学の頃から顔の肌の醜さで嫌な思いをしたのは事実だ。それは被害妄想ではない。
でも本当に問題だったのは顔の醜さではなかった。そのために卑屈になってしまった自分の心、人との接し方だったと今になって思う。
 
 
 恋人ができ、脚の美しさを褒められてから少しずつ自信ができてきて、そうなると他人の態度も変わってきた。
そう結局は自分が卑屈になってたのがいけなかったのだ!
 
 「ほらね、やっぱり大事なのは中身でしょ!」って思うかもしれない。
 
 でもそこはあえてこう言いたい。人は見た目だ! 
 見た目によって心も作られる。でもその心をちょっとだけ変えることは割と簡単にできる。心のプチ整形をするだけで周りはだいぶ変わる。
 
周りが変わるとストレスが減るので、やがては見た目も変わってくる。
30歳になる頃には私の肌の状態はだいぶよくなっていた。
誕生日近いある日、人生初めてのファンデーションもつけることができた。
 
 
あれからウン十年、いまだに毎年3月の声を聞くと黒いタイツはタンスの奥にしまうようにしている。好きだった感覚さえもう忘れかけている遠い日の恋人に感謝をこめて……。

 
 
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2018-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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