メディアグランプリ

荷づくりトンネルを抜けた先には


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:加藤しのぶ(ライティング・ゼミ木曜コース)

もうすぐ、8年ぶりの海外旅行に行く。
私の勤める会社は結構な規模のくせに、盆と正月以外ではなかなか長期休暇が取れない。しかし20年勤め上げた社員には、平日5日間の休暇を(申請すれば)取ってもいいよ、という制度があって、今年の私は対象者。
少しばかり悩んだが、もったいないのでしっかり権利を主張し、海外に行くことにしたのだ。行先はヨーロッパ。

行先を決めてからというもの、早々に歴史書やガイドブックを買い込み、見たいものリストを作り上げた。航空券をとり、現地にいる身内にあれこれ手配を頼み、旅行の手続きを進める。
が、いざ旅を目前にして、この憂鬱さはどうしたことだろう。私は長くで暗いトンネルの中にいる。出口はどこだ? そもそも私はいまどこにいる?

そのトンネルの名は、「荷づくり」という。

「この世で一番嫌いなものは何?」と聞かれたら、私の答えは「荷づくり」一択。とにかく嫌いだ。
なにせ終わらない。持っていくものを決められないからだ。
仕事の出張ならまだ何とかなる。仕事服はパターンを決めているので、いつものセットからつかんで放り込めばいいし、私の場合はたかだか1~2泊のことだからなんとかなる。
だが、プライベートではそうはいかない。結局ずるずると直前まで悩み続けることになる。

今回の旅でも悩みに悩んだ。
準備が遅かった訳ではない。ただ、8年ぶりの海外旅行だ。
その間に私は二度の転勤をし、引っ越す度に部屋が狭くなるものだから断捨離した。めったに行かない海外旅行向けの諸々グッズは、二度目の転勤で思いきって捨てた。おかげで探し回らなきゃいけないものもあった。

まず、断捨離で真っ先に捨てた大型スーツケース。これは、レンタルで最新の軽いモデルを手に入れた。
肩かけできる、旅で楽なように軽いバッグ。旅先はスリ天国なので口が閉まるものが理想。昔使っていたナイロンバッグはボロボロで捨てたので、手元にない。購入する。
気温差の調整に使う薄手の羽織もの。日頃ジャケット派なのでほどよいものがない。これも購入。

そうやって大物を少しずつ買い集めたあたりから、荷造りトンネルに明かりがささなくなってくる。こうなると、軽いパニック状態に陥って、どれだけ時間をかけて準備しても、必ず忘れ物をする。だって明かりがないんだもの。

忘れ物の筆頭は化粧品、それもメイク用品だ。
旅に出ると、必ずといっていいほどメイク用品を忘れる。アイシャドウやマスカラはおろか、丸ごと一式忘れたことも、一度や二度ではない。その度にコンビニやドラッグストアのお世話になるので、不経済極まりない。

靴下も足りた試しがない。仕事ではExcelを駆使して億単位の集計もするくせに、なぜか靴下を日程分数えて持っていくことができない。洗って使うにしても、靴下は意外に乾かないので、ギリギリで回すはめになる。

そういえば、下着も忘れた。どうして忘れたのかは思い出せないが、3組ほどの下着でイギリス旅行10日間をしのいだ。当時は若くて一人旅だったから「まあいいや」で過ごしたが、今ならさすがにショップに駆け込んで買うだろう。

前回の海外旅行では、標高1000mの町で山歩きをするというのに、防寒具の一部を忘れた。旅行のためにわざわざ買ったフリースの上着なのに。別に持っていった普通のニットを流用してしのごうとしたが使いづらく、確か同行の姉からパーカーを借りたような。

忘れ物の恐怖に右往左往していると、トンネルの最も暗い場所に到達する。ここでは仕事がのしかかる。長期不在を伝えてから、この数日、毎日のように会社の明かりを消して帰っている。どうして今ここでこんなに問題が起こる? なぜ自己完結できないんだ?
「休む前にこれだけお願い!」と、何人に、何度言われたことか。
これだけ? 「これら」の間違いだろう? 日本語は正しく使ってくれ!
平日に準備時間が取れないことに心底焦る。ライティング・ゼミの投稿だって1回逃した。ああどうして平日出発にしたんだろう。出発を日曜にすれば、土曜日に準備できたのに!
ここでついに、軽いパニック状態から、恐慌状態に陥りハイになる。
もうどうすりゃいいのか、わっかんねーよ!

そこでハタ……と気づく。
そうだよ、別に砂漠に行くわけでも、宇宙に行くわけでもない。行先には普通に人が生活していて、しかも観光地だ。たいていのものは売っている。多少忘れ物をしたところで、困ることはない。
そもそも自分の性格上、忘れ物があったとて、いつも何とかしてきたじゃないか。忘れ物しつつ旅先でどう過ごしたか、それ自体も旅の楽しい思い出だ。なのに、なぜ、いま、こんなに苦悩するような思いをしている?
暗い中に明かりがさした。大丈夫、さあ、荷物をつめて寝てしまおう。おっと、明日着ていく服を準備してない。忘れないよう出しておこう。
暗かったトンネルの出口はもうすぐだ。

トンネルを抜けたら、そこには楽しい旅が待っている。
***

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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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