W剪定競演のあとの静けさ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:近本由美子(ライティング・ゼミ木曜コース)
「うわ~。今年も派手にやられてるわ!」
せっかくちょうどいいくらいにそろっていたのに……。
私は窓からコッソリと垣根をのぞく。
義理の父が庭の手入れをしているのだけど、見るもムザンに木々の枝は切り落とされているのだ。
我が家には玄関の横に小さな細長い庭がある。
そこには、雑木を植えた垣根があってうちに来る人達を優しく木々が迎えてくれる。
ささやかだけど、私にとってもお気に入りの庭だ。
家が建った時は、とても木を植える余裕もなかった。
コツゼンと家がある。それだけだった。
けれども数年たって、やっとささやかな雑木の庭を造ることができた。
最初は痩せて弱々しかった雑木も数年で、なんとか我が家の住人らしくなった。
春になると、新緑の季節はハナミズキの白い花が咲き、少し遅れて黄色いヤマブキの花が咲く。やがてみるみる新緑の緑は濃くなる。
夏になると木々の間から、差し込む日差しを遮って程よい天然の日陰をこしらえてくれる。
秋の初めは白い萩の花からはじまる。
やがてコナラのどんぐりがカラカラ~と屋根の音を木琴のように鳴らしながら落ちてくる。
そうすると、少しずつ木々の葉が色づきはじめる。
しめは紅葉の絨毯で小さな庭のショーは終わる。
春が来るまで、雑木たちはひっそりとする。
そんな庭の変化が楽しめるように成長したころ、近くに住んでいる私の父が言った。
「ずいぶん、木の枝が伸びてきたね。お父さんが切ってあげようか?」
定年後は、ゴルフと庭の手入れをたまにするのが趣味の父。
母に言わせれば、危なくって見ていられないらしいのだけれど。
人様にお願いするほどの庭でもないから、不器用な父の剪定でも助かっているようだ。
父が庭の剪定をするときは、仕上がりがなるだけキレイに見えるように 父なりの美学に基づいて丁度いい木々の丈でそろえてくれていた。
植木屋さんのようにはいかないけれど、夫が忙しくて庭木まで手をかけてくれないから助かったと思った。
ところがその事件は父が剪定をして3~4日後に起こった。
朝から、ウイ~ンと電動のこぎりの音がする。
なにが始まった?
窓をのぞくと、きれいになった庭木を今度は義父がバッサリ、バッサリと見るも無残に雑木の枝が腕を折るような切り方をしているではないか!
え! なんで父が来て数日前に木をきっていたのは義父もわかるだろうに。
夫の両親は、すぐ近所に住んでいて日頃は畑仕事をしている。野良仕事はお手のものな
義父は言った。
「ちょっと切ったぐらいでは、またすぐ伸びてしまうからな。思い切って切らないとダメなのだよ」と。
嫁のわたしは、ひきつった顔で「そ、そうですか。ありがとうございます……」と言った。
けんもほろろだ。
夫に「ねえ! あんなにざっくり切られたら風情も何もあったものじゃないわ。あの切り方、あなたからも何とか言ってちょうだいよ!」
夫は、「オレがやらない分、やってくれているんだから何もいえないよ」と相手にしてくれない。
だいたい夫がやってくれればいいのに。忙しいというより庭に興味がないのだ。
その後、うちにやってきたお客さんから
「あれ? 昨日までの垣根はサロン風だったけど、今日はなんだかバリカンカット風ね」
と言われた。そうなのだ。ものの見事にバッサリだ。
私は父が剪定をしたあと数日でまた、のこぎりで切る義父の気持ちがわからなかった。
そしてこの二人の老人剪定の競演はその後、数年繰り返されることになった。
実家の父が剪定した、数日後義父がまたのこぎりでバッサリとやるという なんだか奇妙な二人の競演だ。
義父のバリカンカットをわたしが気に入らないのは、そののち見透かされていて
「バッサリ切るのはアンタ好きじゃないのだろうけどさ」と。
ドッキリだ。わたしの言葉と裏腹の態度は露骨に伝わっていたらしい。
そのうち私は枝ぶりの良い木々の風情のある庭は諦めることにした。
たまにちょっと不格好なもみじの木を見上げて「あなたもしのびなかったわね」と思う。
それから数年後、私の父は剪定には来なくなった。脚立にのったりして枝をきるのも危ないし、体力も落ちてやる気も薄れたようだった。
それを同じくして義父もキツイことをやるだけの体力がなくなって、二人の剪定の競演は
一昨年終了した。予告なしのいきなりの打ち切りだった。
そうなると、庭の雑木の枝はグングン伸びて、電線にかからんばかりになった。
義父の「バッサリ切っておかないと」の意味が遅まきながら私にもわかった。
翌年わたしは剪定デビューをしてみた。テレビショッピングを見て購入した高枝電動のこぎりで垣根を切ってみた。
楽々そうにテレビでみた電動のこぎりはそれなりに重かった。わたしが切った木の枝も
なんだかいびつなカタチになった。
もっとうまくできると思ったのに。義父よりサマにならない。
おまけに高いところの枝はとても届かない。力もいるが力がない。
見かねた夫が「オイ。オレがやるから止めておけ!」と
あっという間に垣根は、キレイになった。
夫はやれなかったのではなく、やらなかったのだ。二人の父の見せ場をつくっていたのかもしれない。
二人の父の剪定は、美容室のカットショーみたいなものだったな。
ただ観客はわたししかいなかったのだけど。
観客一人のために、二人の美容師がカットしてくれていた。出来栄えはイマイチだったけど、心意気は喜ばせたいという思いと褒めてほしいという気持ちもあったにちがいない。
気の利かない観客にやりがいがなかったのかもしれない。
おせっかいな二人の父の愛情表現だったのだ。
今度は夫に剪定デビューしてもらいたいな。今度こそは良い観客になれると思うのだけど。
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