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部活が人生の柱になる可能性


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記事:古川貴弘(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ピーッ!!!」
 
試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
 
20数年経った今でも、あの瞬間の光景が目に浮かぶ。中学校最後の大会。県大会出場をかけた市内強豪校との決勝戦だった。
 
サッカーは中学校に入ってから始めた。小学校時代は野球少年だったが、なぜか、サッカーがやりたくなって中学デビューすることにした。
 
夏になる頃には3年生が引退し、2年生に世代交代となった。ユニフォームも新調され、1年生の中からも数名には背番号付きのものが配られた。背番号がついているということは、Aチーム(レギュラーチーム)の試合にも出るチャンスがあるという意味だ。
 
1年生部員は十数名いて、その内数人は小学校の時からやっている経験者だった。背番号付きのユニフォームが渡った。未経験から始めた自分だったが、背が高かったこと、体力には自信があったこと、まじめに練習していたこと、等が評価されたのだろう。背番号をもらうことができた。すごく嬉しかったのを覚えている。努力は報われるんだと思った。
 
しかし、スポーツの世界は実力主義だ。Aチームの試合に出してもらえたことはなかった。経験者だった連中はレギュラーとして試合で活躍していた。いくら頑張っても世の中は実力主義なんだということも知った。
 
1年が過ぎ2年生になった。後輩の1年生も入部してきた。そして、先輩である3年生最後の大会が終わり、いよいよ自分たちの世代にバトンが渡ってきた。レギュラーとして試合に出れるチャンスが訪れたのだ。背番号がもらえて喜んだのも束の間、試合に出れない1年間のうっぷんを晴らすことができる。夏休みの練習も楽しくて仕方がなかった。
 
このチームは、同世代の経験者たちが上手かったのと、未経験者も練習量と運動量で技術の差をカバーするような形でうまくまとまっており、県内の強豪チームとも互角に戦えるようなチームに仕上がっていった。
 
自分達にも中学生最後の大会の時期がやってきた。まずは、市の大会。それに優勝すれば県大会へと駒を進めることができるのだが、市内には県内でもトップクラスの強豪校がいて、2つ上、1つ上の先輩たちはこの強豪校に敗れて県大会へ進むことができずに最後の大会を終えていた。我々の世代になって、練習試合での戦績はほぼ互角。ただ、試合内容としては押し込まれている事が多く、苦手な相手といってよかった。
 
そして、最後の大会が始まった。順当に勝ち上がり、宿敵との決勝戦を迎えた。かつてないほどの緊張感に包まれながら、試合開始のホイッスルが鳴った。
 
個人個人の技術力では劣る分、チームとしてのまとまりと運動量で勝負する形にならざるを得なかった。緊張で頭が真っ白になったような状態だったが、声を出して走り回ることで何とか意識を保っていたような感じだった。40歳に手が届く今になっても、この時を超える緊張感はまだ味わったことがない。
 
頭と身体がチグハグな感覚で、それでも必死で動き回っていたが、前半を半分ほど過ぎた頃、相手に先制ゴールを許してしまった。この相手に1点の差は大きい。いつもであれば下を向いて意気消沈、あきらめムードが漂うはずだった。
 
しかし、この時は違っていた。みんなが上を向いて声を張り上げていた。チームに一体感が生まれていた。
 
「声を出そう! 前を向こう!」
 
運命の後半戦が始まった。不思議な一体感だった。みんな疲れているはずなのに、アドレナリンが出ているのか、誰も疲れを感じさせない動きだった。右サイドバックのSなどは、足をつりながら走り続けていた。完全におかしくなっていた。
 
チーム全体を異常な高まりが支配していた。その高まりがプレッシャーを与えていたのか、後半に入って明らかに相手チームの運動量が落ちてきて、動きが鈍りだした。
 
そして、後半終了間際、ついに待望の同点弾が相手ゴールのネットを揺らした。身体の奥底からものすごいエネルギーが湧き出る感覚を味わった。諦めない気持ちが大切だと身をもって体験できた瞬間だった。
 
その後、試合は1対1で後半戦も終了。延長戦に突入したが決着はつかず、PK戦での勝負にもつれこんだ。前半戦、後半戦、延長戦とアドレナリンを出し続け、走り続けてたどり着いたPK戦。もはや、小手先の技術ではなく、気持ちでの勝負だったように思う。
 
いつもであれば、技術力のある相手チームの方がPK戦は有利だったろう。しかし、前半先制したが後半運動量が落ちて追いつかれた相手チームと、前半先制されたがチーム一丸となりアドレナリンを噴出させながら後半追いついてきた我がチーム、今思えば、勝負の流れを見てもこちらに分があったように思う。
 
守護神が最後の相手キッカーのシュートを弾いた瞬間。手をつないで祈るような気持ちで見つめていたチームメイト達は叫びながら、キーパーの元へ駆け寄っていった。勝ったのだ。
 
涙が止まらなかった。こんな経験は初めてだった。
 
安っぽい言葉で言えば「感動の涙」というのだろうか。あれから20数年経つが、映画を観て感動して泣いたことは何度かあるが、あの時の涙は完全に違うものだった。
 
頭が真っ白になるくらいの緊張感、そんな中でも全力を出し切ったこと、チーム全体の一体感、これらがあったからこその「感動の涙」だったように思う。こんな経験が出来たことは本当に幸運だったと感謝している。大人になった今でも、あの時の事を思い出すと勇気が湧いてくる。
 
部活に打ち込む経験は、大人になった時に自分を支えてくれる柱になる可能性がある。もちろん、この経験を共有したチームメイトは、戦友であり、一生の友達になっている。卒業して20年以上経ち、最近ではほとんど会うことはないが、会えば一瞬であの頃に戻ることができる。こんな友がいるということも心の支えになっている。
 
私には小学生の娘が2人いる。勉強しなさいとは言わないが、部活をやりなさい、と言っている。今、彼女たちは合唱部に入り、全国大会出場を目指して頑張っている。

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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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