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マンガアプリはマッチング時代の『仲人』になれるか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ジンノマサヨ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
マンガやアニメは子どものもの。と一昔前は言われていた。
今でもそれがスタンダードである国は多いのかもしれない。
 
しかし日本では、今や老若男女がマンガを読むと言ってよいほど、書店のマンガ売場面積は広く、出版におけるマンガ市場も大きい。
そして今、その立役者となっているのは、「マンガアプリ」なのである。
 
「海賊王に、おれはなる!」
という名ゼリフで知られる冒険マンガ、『ONE PIECE(ワンピース)』。
 
私がこの国民的人気マンガを初めて読んだきっかけは、コミックス1巻から60巻までを無料で読める「マンガアプリ」のキャンペーンだった。
 
「何このマンガ、めちゃくちゃ面白い!」
 
次々と繰り広げられる冒険物語に夢中になり、続きをむさぼるように読み進めた。
あっという間に60巻まで読んでしまった。
そして『ワンピース』にハマり、「マンガアプリ」にハマったのだ。
 
小学生の頃から、私はよくマンガ雑誌を買って読んでいた。
それだけでは飽きたらず、デパートの本屋でコミックスを長時間立ち読みした。集中しすぎて吐きそうになり、具合が悪くなって本屋の従業員室で休んだことも何度かある。
 
呆れた当時の家族からは、「そのうちマンガと結婚するとか言い出すんじゃないか」と言われた。
それほどまでにマンガが好きで、マンガに飢えていた。
 
そんな私にとって本屋とは、マンガと引き合わせてくれる「出会い」の場だった。
 
ただ、いつの頃からだろうか。本屋にあるマンガには、基本的にビニールがかけられるようになった。
コミックスに加え、マンガ雑誌までが紐で丁寧に結ばれている。
立ち読み防止というだけでなく、本を汚れや破損から守るためでもあるが、それを「お試し」で読んでみることはもはや難しい。
 
本屋で普通に立ち読みすることは、もはや遠い時代の文化となってしまった。
ネットカフェや新古書店などに行けば、そこでは立ち読みもできる。言い換えると、わざわざそこに行かなければ立ち読みすることはできないのだ。
 
立ち読みができない、つまり中身の分からないマンガを、表紙の雰囲気や口コミなどで判断して購入することが必要になった。
実際に中身を読んでみて、期待以上だと喜ぶこともあれば、期待外れでがっかりすることもあった。
それは、ギャンブルというよりは、昔の「お見合い」に似ているのかもしれない。
容姿や世間の評判などを頼りに、結婚するかどうかを決め、実際にお互いを深く知るのは結婚してからである。その選択には大きな決断が必要になる。
 
「お見合い」的な決断による購入が当たり前だった時代に、見事な風穴を開けたのが「マンガアプリ」だった。
アプリ上にある全てのマンガが、数ページではあるが「立ち読み」可能なのである。
 
私は、驚喜した。
 
マンガを取り巻く状況は、一変した。もはや「立ち読み」は、許された権利となった。
しかも、それだけではない。
全てのコミックスではないが、アプリ上にあるタイトルの第1巻を「お試し」すなわち無料で読むことができるのだ。
 
少年・青年マンガから少女・女性マンガまで、気になるマンガがよりどりみどりである。
それは何となく、人と人とが付き合い始める最初のあるステップにも似ている。
 
「まずはお友達からお願いします」
 
何となく気にはなるけれど、中身は付き合ってみなければ分からないから、お友達としてお付き合いしてみましょうという、よくあるアレだ。
「本気」なら困るが、「お試し」のお友達なら軽い気持ちでちょっと付き合うのは自由だ。
 
「マンガアプリ」は、人とマンガを結びつける、マッチング時代のアプリなのだ。
 
しかし「マンガアプリ」には、誘惑の甘い罠がある。落とし穴と言ってもいい。
というよりは、むしろそれがアプリサイドや出版社側のもくろみなのだろう。
 
「お試し」では飽きたらず、「続きが読みたくなってしまう」のだ。
人と人との付き合いで言えば、軽い気持ちでちょっと「お試し」したつもりが、思いもよらず「本気」になってしまったというところか。
 
人を惹きつける面白いマンガこそ、続きを読みたくなるものだ。
「お試し」で無料の第1巻は、いい場面で断ち切られて次巻へと続く。
無料ではない次巻を読み続けるためには、料金を支払わなければならない。
 
『ワンピース』を60巻まで読んでしまったら、その次の61巻も読みたくなるのは、考えてみれば当たり前のことだった。
私は61巻を読み、62巻を読み、当然のように63巻に手を伸ばした。
そうしているうちに、最新刊まで読んでしまった。
 
もちろん料金を支払うのはかまわない。
心から楽しませてもらった、言わば「本気」の相手だ。
「課金」によって著者や作品が守られ、マンガ業界や出版業界の今後の発展につながることも分かっている。むしろ応援したいと思っている。
 
問題は、読み終わったその後、である。
 
「殿堂入り」マンガとして、ずっと本棚に置いておきたいものもある。
しかし全てがそうだというわけではない。
一度は興味を持った「お試し」のお友達も、かつてはもっと知りたかった「本気」のあの人も、
時期を過ぎてしまえば過去の存在として、輝きを失ってしまうこともある。
 
新しい「出会い」のためには、「別れ」も必要なのだ。
 
そういう時、紙媒体のマンガなら、新古書店やオークション市場などで売却することができる。
そしてまた、別の誰かを楽しませることができる。
残念ながら「マンガアプリ」では、それができない。
 
その結果、どうなるか。
 
アプリ上の本棚には読み終えたマンガが、破談になった「お見合い」写真のように溜まっていく。
今はもう読むことのないマンガの表紙画像がずらりと並び、別の誰かを楽しませることもできずに、恨めしそうにこちらを見ている。
 
「お試し」でも「本気」でも、一時は愛情を傾けた相手だ。
手元に置いておくのが、少しばかり切なくなる。そう感じるのは、もちろん私の後ろめたさからだ。
アプリ上のマンガが売却できない以上、削除するしかない。
 
ここは潔く、「別れ」を選択しよう。
そしてまた「マンガアプリ」で新たな「出会い」を求めよう。
 
繰り返すが、「マンガアプリ」は「出会い」の場であり、人とマンガを結びつけるマッチング時代のアプリである。
 
そんな「マンガアプリ」には、できることなら「仲人」でもあってほしいと思う。
 
破談になってしまった「お見合い」写真の相手にも、熟練した「仲人」なら新たな「出会い」を探すことができるのではないか。
「お試し」したものの「本気」に至らなかった相手も、「本気」だったけれど冷めてしまった相手も、世話好きな「仲人」なら新しい人と再び結びつけることができるのではないか。
 
そして、「お試し」で「本気」で自分を楽しませてくれた数々のマンガが、いつか別の誰かをも楽しませることができる。それでいて著者や出版社の権利も守られるような、そうした仕組みが「マンガアプリ」だけではなく電子書籍でも、できはしないものだろうか。
 
そのような「仲人」に恵まれたら、人もマンガもきっと幸せに違いない。
 
そんなことを考えながら、間近に迫る『ワンピース』の最新刊の発売を、今日も楽しみに待つのであった。
 
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2019-02-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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