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次男の山村留学体験記


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:外園佳代(ライティング・ゼミ特講)
 
 

我が家の次男(小6)が長野県の売木学園に山村留学して一年がたとうとしている。山村留学とは、自然豊かな農村に小中学生が一年間単位で移り住み、地元の小中学校に通いながら、様々な体験を積む活動のことだ。入園のきっかけからこれまでの成長をふりかえってみようと思う。
 
私が山村留学を知ったきっかけは、長男が小5の頃、友人から山村留学を運営する会のの短期キャンプを紹介されたことだった。長男は、雪山に登って自然観察をする冬季キャンプに参加してとても楽しそうだった。しかし、
「一年間の山村留学もあるんだって。どう?」
と提案すると、
「行かない」
と即答だった。長男はインドア派ということもあったと思うが、子どもと離れるのはさみしいし、と私も内心ほっとして、その後は山村留学のことは忘れていた。
 
そしてその後、末っ子の次男が小学5年生になったとき。それまでは学校から帰ってくるとすぐに友達の家に飛び出していっていたのに、秋頃から、家でウツウツとゲームをしている時間がふえた。友達と遊べなくなったのは、仲がよかった子が習い事を始めたり、タイミングが合わなかったりと、いろんな理由はあったようだ。
 
「つまんない」
を繰り返す次男に対して、卓球につきあったりもしたが、
「いつまでも親が相手するのもどうしたものか」
という気持ちもあった。
 
そんなときに思い出したのが山村留学のことだ。毎日退屈そうな次男に
「ねぇ、山村留学に行ってみない?」
とたずねると、
「なにそれ?」
と、興味を示してくれたので、さっそく何箇所からか資料をとりよせた。その中でも次男は、ランニングや和太鼓などの活動が充実している長野県の売木村というところの山村留学先が気に入ったようで、体験入学を申し込んだ。
 
この体験入学では、山村留学センターでの合宿生活や売木村の小学校の一日入学を体験した。それまでの次男は、私が「好き嫌い大王」と呼んでいたほど食べ物の好き嫌いがあったので、食事が第一の懸念だった。私自身が好き嫌いがあるため、家ではほとんど好き嫌いについてきびしく言っておらず、また、いまどきの小学校では食べ残しもあまりうるさく言われない。
 
でもこのときの体験入学では、山村留学生の子たちに
「残さず食べよう」
と最後まではげまされ、次男は、嫌いな野菜も、涙目になって飲み込むようにして食べていた。その様子を見て、私は、
「うわぁ、けっこうきびしいなぁ。きっとこの子、『行かない』」って言うだろうなぁ」
と思った。
 
それでも、センターでの炭焼き体験や掃除には熱心に取り組んでいた。さらに、次の日の売木村の小学校の一日入学は、少人数でアットホームな雰囲気がとても気に入ったようだ。
 
帰りの車中で、学校の感想をたずねると、次男は、
「学校、すごく楽しかった!オレ、あの学校に行きたい!!」
と、いきおいよく答えた。次男は、これまで小学校に対して、
「学校つまんない」
とぼやくことが多く、中学校にも希望を持てない様子だった。そんな彼が、売木村の小学校での体験の様子を目をキラキラさせて語るのに私はとてもおどろいた。
 
「でも、センターでの食事は、食べられないものが多くて大変そうだったよね」
と私が言うと、次男は少し考えて、
「うーん。でも、がんばる。オレ、山村留学、行く!」
と答えた。私はてっきり、「行かない」という返事がかえってくるとばかり思い込んでいたので、
「ええー!行っちゃうの!?」
と、非常におどろいた。山村留学を彼にすすめたのは私だが、急にオタオタしてしだした。
 
それでも、
「次男が決めたことを家族で応援しよう」
と夫と話し合い、山村留学センターの面接を受け、無事、合格通知が届いた。
 
そしてとうとう入園式の日をむかえた。次男は、入園式にはしっかりした様子で参加したが、式が終わると、急に心細くなってきたのか、私のところに来てヒックヒックと泣き出してしまった。つられて私の目からも涙が。でも、ぐっとこらえて、
「不安なんだね。お父さんとお母さん、明日までいるからね。がんばろうね」
と背中をトントンすると、彼も少し落ち着いた様子だった。
 
この日の夕食も野菜が多く、食べるのに苦労している様子だったが、次の日の朝食はなんとか登校前に完食。私は離れた席からそれを見ていたが、彼の表情がとてもりりしく見えた。
 
そして、売木小学校での始業式を終え、とうとう別れのときがやってきた。次男の前日の様子から、泣いてしまうかと思ったが、別れのあいさつをするときには、すでにふっきれたのかスッキリした表情になっていた。
 
「元気でね。また来るからね」
と、次男をぎゅっとハグすると、ちょっと照れくさそうにして、ひゅるっと私の腕をぬけて、自分たちの部屋に行ってしまった。
 
入園式からしばらくして、次男からハガキが届いた。
「ぼくは山村留学生活でいろんなきのこをがんばれば食べれるようになりました。少しさびしいけれどがんばります」
など書かれているのを読んで、作文もあんなに苦手だったのに、がんばって書いたんだなぁ、と早くも大きな成長を感じた。
 
その後も、学校の行事などで売木村をたずねるたびに、次男は、別人かとおどろくほどの成長ぶりを見せてくれた。洗濯、掃除、配膳など、キビキビと働く姿を見て、
「この子、こんなにも生きる力を持っていたんだ」
と胸がいっぱいになった。苦手な野菜もほとんどなくなったようだ。
 
夏休みや冬休みの帰省時も、かいがいしく家の手伝いをしてくれた。里心がつくかと思いきや、
「早く売木村にもどりたい」
と次男は言った。
「オレ、友達と毎日暮らせるのがほんとうに楽しい。農家さんでのホームステイも楽しい。山村留学に行って本当によかった」
という彼の言葉を聞いて、そんなに楽しい場所ができて本当によかったなぁ、と心から思った。
 
彼の成長をすぐそばで見られないのはさびしいときもあったが、田んぼや畑での農作業に取り組む姿、ランニングで走る姿、和太鼓をりりしく演奏する姿など、山村留学センターのブログを通じて見るたび、
「家にいたら、こんなに豊かな体験はできなかっただろうな」
と、彼の充実した日々に私もうれしくなった。
 
彼が自宅でウツウツとすごしていた時期は私も憂鬱だったが、考えてみると、あの時期があったからこそ、
「山村留学に行こう!」
という強い気持ちを持てたのではないかと思う。
 
もうすぐ次男はこの売木村で小学校の卒業式をむかえる。この一年間、売木村を訪れるのが、毎回楽しみだった。山村留学生の親同士もとても仲良くなったので、お別れが今からとてもさみしい。次男をこんなに成長させてくれた山村留学先の方たち、学校の先生方、売木村の方たちには感謝の気持ちでいっぱいだ。売木村は、私たち親子にとって、これからも心のふるさとでありつづけるだろう。

 
 
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2019-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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